今回は測定のお話です。
これまで本サイトでは周波数特性を測定して結果を公開してきましたが、ヘッドホンの音を測定によって詳しく知ろうとした場合、当然もっと多岐に渡る測定項目を網羅しなくてはなりません(と言っても、可能な限りの測定を行ったとしてそれで音のすべてが分かるわけではありませんし、測定結果と実際耳で聴いたときの音の関係を理解していないとあまり役には立ちませんが・・・・・・)。
それらの測定のいくつかを容易に行えるプログラムにMySpeakerというものがあります。スピーカーの測定に使用するプログラムとしては定番ですし、本サイトのリンクページでも以前から紹介しているのでご存知の方も多いと思います。このソフト自体は2年程前から知っていて試しに使ってみたことがあるのですが、当時の私の手持ちの機材だと信用に足る結果が得られず、あれこれ試行錯誤する余裕も無かったので放置していました。その後、粗忽ヘッドホンさんが公開された内容を参考に再度測定を試みたところ、十分役に立つと思われる結果が得られたので、今回その測定結果をいくつか載せてみたいと思います。将来的にはレビューを掲載しているすべてのヘッドホンについて測定結果を掲載できれば良いのですが、数も多いですしイヤホンの周波数特性の測定さえできていない現状を考えると、正直いつになるのか分かりません。おそらく測定項目をしぼってやることになると思います。
測定に使用した機器は下記のとおりです(ひとまず今回の測定はこれでやったと言うだけで、今後変更するかもしれません)。
マイク:ECM8000(BEHRINGER)
マイクアンプ:FastTrackPro(M-AUDIO)
とりあえず、本サイトとしてはヘッドホンの機種による違いが出ないとおもしろくないですし測定する意味もないので、違いが出そうなものをいくつか選んで測定してみることにしました。適当に選んで測定しても良いのですが、測定前に出音から測定結果を推測して3つのグループに分けて選んでみました。
グループA:HD650、MDR-CD3000、MUSIC SERIES ONE、HP-AURVN-LV、HP830、RP-HT560
グループB:PROline2500、EXH-313、R/200、MDR-7506、FH-40、mix-style headphones
グループC:MHP-AV1(DOLBY機能OFF及びON時)、RP-HC500(ノイズキャンセル機能OFF及びON時)、ZM-DS4F(マルチドライバ)、SRS-4040(コンデンサー型)
グループAは価格の割に測定結果が良さそうと推測されるもの、グループBは価格の割に測定結果が悪そうと推測されるもの、グループCは特殊なヘッドホンです。良さそう、悪そうと言っても、音質の良し悪しではなく今回の測定の結果が良さそうか悪そうかで選んでいます。もちろん、測定項目ごとに結果は違うわけで、「この項目は良さそうだけどあの項目は悪そう」ということもありますが、トータルで見てアバウトに選んでいます。グループAとBは、各価格帯で密閉型と開放型を選ぶようにしましたが、良さそうな開放型が無いために仕方なく密閉型を選んだりしている部分もあり、あまり厳密に選んでいるわけではありません。ちなみに、グループCはかなり悪い結果が出るのではないかと思われます。
各測定項目についてその都度簡単に説明しますが、詳しくはMySpeakerのヘルプを参照してください。それでも分からないようでしたら、実際にMySpeakerを使って測定したり検索して調べたりすることをおすすめします。
・サインショット:応答波形表示
単発のサイン波を再生した際の応答波形を、各周波数ごとに表示します。ヘッドホンで再生したときに元の波形をそのまま再現してくれないと、当然音が変わってしまいます。音が変わると言っても漠然としていますが、極端に言うとサイン波とノコギリ波では周波数が同じでも波形が異なるために違う音に聴こえるのと似ています。良く分からない方は、efuさんのフリーソフト・WaveGeneで色々な波形の音を鳴らしてみると分かりやすいと思います。
まずはループバックの結果です。
ループバックではヘッドホン出力端子とマイク入力端子を直接接続しています。マイクを除く測定系の測定結果で、ヘッドホンの測定結果もこれに近いほど良好と言えます。高域以外はほぼ理想的な波形になっていると思います。高域が暴れているのは、MySpeakerが測定に使用している音源のサンプリング周波数(44100/秒)による測定精度上の限界です。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。左側の列がグループA、真中の列がグループB、右側の列がグループCです。
どのヘッドホンも低域はあまり良好ではないようです(ここでは分かりやすいように各図の左側の列が低域、真中の列が中域、右側の列が高域という程度の分け方で見れば良いと思います)。マイクに問題があるのか、ヘッドホンを保持する装置に問題があるのか、ヘッドホンそのものに問題がある(つまり正しい測定結果である)のか、理由は分かりません。ただし、この低域については他のマイクでも特に良い結果にはなりませんでしたし、多少装置を弄ったり装置を使用せずに測定したりしてもほとんど結果は変わりませんでした(と言っても高価なマイクは試していませんので、しっかりしたマイクなら違うのかもしれませんが・・・・・・)。正直あまり参考にならないような気がしますが、綺麗な波形ではないなりに、良い結果と悪い結果に多少なりとも違いは見られます。
中域はしっかり測定できているようですし、実際に耳で聴いても違いが明確に分かる音域なので、かなり参考になると思います。全部の結果を見ようとすると量が多くて比較しづらいですが、中域(真中の列)をメインに見比べると把握しやすいと思います。
高域は前述のとおり測定上の限界で多少暴れはしますが、17.5kHz以外はほぼ問題なく見られるはずです。17.5kHzにしても、ループバックに近い結果が出ていれば良好という見方で良し悪しを判断できると思います。多くのヘッドホンではなかなか収束しませんが、HD650等綺麗な結果のものもあるので、ヘッドホンによる違いがしっかり出ているものと思われます。
また、MDR-CD3000、MHP-AV1(DOLBY機能OFF時)、RP-HC500(ノイズキャンセル機能OFF時)、SRS-4040は位相が反転しています。位相が反転していると言うとあまり良くない印象がありますが、左右どちらか片側だけ位相が反転しているならともかく、両方反転している場合には音質面での違いはほとんどないようです(なので、出音から気づかなかったのも仕方ないのかもしれません)。ちなみに、私がこれまで測定したヘッドホンで位相が反転していたのは特殊なヘッドホンを除くとMDR-CD3000とK240monitorの2機だけです。どちらも古いヘッドホンなので、新しいヘッドホンでは位相を合わせるようになったのかもしれませんが、真相はわかりません。これから測定を進めていけば他にも位相が反転しているヘッドホンが出てくるかもしれません。また、RP-HC500はノイズキャンセルON時は位相が反転していないので、これはノイズキャンセルON時に正常になるように設計されているものと思われます(ON時とOFF時どちらか片方が反転してしまうのはノイズキャンセル機能のためにそうなるのでしょう、技術的に回避できないとも思えませんが)。
MHP-AV1(DOLBY機能ON時)とSRS-4040は測定に失敗したのかと思いましたが、どうやってもこのような結果になります。高域に行くほどマイナス側にシフトしているようです。何らかの理由によりきちんと測定できていない可能性がありますが、きちんと測定できている低域から中域にかけての結果を見るに、いずれにせよあまり良い結果であるとは思えません。
結果が数値で出るわけではないので、どれが一番良いとはなかなか言いづらいですが、個人的にはHD650が最も良く、次いでHP-AURVN-LV、MDR-CD3000が良いように思います。逆に悪いのはMDR-7506、MHP-AV1(DOLBY機能ON時)、SRS-4040あたりでしょうか。個人的に意外と良いと思ったのは、mix-style
headphonesとZM-DS4Fです(あくまで意外と、ですが)。HP830とRP-HT560の結果は、例えばPROline2500やEXH-313と比べても見劣りしないどころか逆に良いくらいで、価格を考えれば非常に良い結果と言えると思います。MHP-AV1については、DOLBY機能ON時よりOFF時の方がまともな結果になっているのは予想通りです。RP-HC500については、位相が反転していることを除いてあまり大きな違いがないのは少し意外でした。
上から順にHD650とPROline2500、MDR-CD30000とEXH-313・・・・・・と1対1で見比べていくと、6つの比較すべてでグループAの方がグループBより良い結果になっている(と私には見えるのですが)のは事前の予想通りで嬉しいです。
・サインショット:エネルギー応答
単発サイン波の応答波形からエネルギータイムレスポンスを算出して表示します。理想的には矩形が表示されるはずです。
ループバックです。
「サインショット:応答波形表示」と同じく、高域が暴れているのはMySpeakerが測定に使用している音源のサンプリング周波数(44100/秒)による測定精度上の限界です。それ以外の部分は、多少の崩れは見られるものの基本的には理想に近い矩形になっていると思います。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
このグラフで見ても良いのですが、次の「サインショット:エネルギー応答特性」でグラフにしたものを見た方が把握しやすいように思います。基本的には先の「サインショット:応答波形表示」の結果と近いものになっています(同じ測定結果から算出しているので当然と言えば当然ですが)が、あくまでエネルギー応答を算出しているだけなので、「サインショット:応答波形表示」で見られた波形の崩れが見られないところもあります。この項目は「サインショット:応答波形表示」の結果があれば不要な気もします。
少し気になった点だけ触れておくと、「サインショット:応答波形表示」ではあまり差がないように見えたRP-HC500のNC機能ONとOFFですが、ここではNC機能OFF時の方が若干良い結果に見えます。と言っても、この違いが音で分かるかは微妙ですが・・・・・・
・サインショット:エネルギー応答特性
先の「サインショット:エネルギー応答」から、アタック、ピーク、リリースの反応時間を算出してグラフにして表示します。理想応答では、アタック位置(緑色)が-180°、ピーク位置(赤色)が0°、リリース位置(青色)が+180°になります。単純に算出しているだけですので、波形の乱れ等が反映されない部分があります。そういう意味で、このグラフの結果が良いからと言って「サインショット:応答波形表示」と「サインショット:エネルギー応答」の結果が良いとは限りません。先の結果と合わせて見るのが良いと思います。見やすく比較しやすいのは利点だと思います。
ループバックです。
「サインショット:応答波形表示」、「サインショット:エネルギー応答」と同じく、高域が暴れているのはMySpeakerが測定に使用している音源のサンプリング周波数(44100/秒)による測定精度上の限界です。それ以外はほぼ理想どおりになっていると思います。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
どの機種も、低域より高域の方が悪い結果になっています。これは「サインショット:エネルギー応答」の結果を見れば分かるのですが、高域は波が収束せずにダラダラと続くため、特にリリースが悪い傾向にあります。低域は、波形そのものの崩れは大きくともアタック・ピーク・リリースという点だけを見ると高域ほどずれていないことも分かります。
こうしてグラフにすると分かりやすいですが、やはりHD650の結果が良いです。MHP-AV1(DOLBY機能ON時)は滅茶苦茶ですが、生の波形を見れば当然の結果だと思います。FH-40やMHP-AV1(DOLBY機能OFF時)の結果がなかなか良いようにも見えますが、先の結果を見直してみるとガタガタなので、やはりこの結果をあまり当てにするのは危険だと分かります。R/200、MDR-7506、SRS-4040の3機種は他の機種と違って低域も乱れています。今回測定したヘッドホンのドライバはほとんどネオジウムマグネットですが、MDR-7506とSRS-4040はネオジウムマグネットではありません。やはりネオジウムマグネットというのはこういう点でも優秀なのかもしれません。
・1/6octサイン:位相+高周波歪み測定
位相特性及び、2次、3次の高周波歪みを1/6オクターブ単位で測定します(1オクターブ高い音は周波数が倍になりますから、1/6オクターブ単位だと例えば100Hz〜200Hzの区間を6つに分けて測定しているということになります)。位相は滑らかに回転していれば良好な特性と言えます。マイクとヘッドホンの距離が離れるだけで高域がプラス側に回転するため、ゼロが良いと言うよりは飛び飛びにならずに滑らかに繋がって回転しているかどうかに注目して見た方が良いと思います。歪みは当然小さい方が良いです。
ループバックです。
上のウィンドウに位相、下のウィンドウに周波数特性(黒色)・2次歪み(青色)・3次歪み(緑色)が表示されます。2次歪み・3次歪みは40dB高く表示されています。見てのとおり低域の歪みはループバックでもかなり大きく、あまり当てになりません。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
この測定はどうもそれなりに測定誤差が大きいようで、あまり当てにならない印象です。参考程度に見てください。
まず位相ですが、結果が数値で出るわけではないのでどれが良いとはなかなか言いづらいものの、HD650の結果が最も良いように見えます。対してMDR-7506、mix-style
headphones、MHP-AV1(DOLBY機能OFF時)あたりは良くないように見えます。 「サインショット:応答波形表示」と同じように上から順にHD650とPROline2500、MDR-CD30000とEXH-313・・・・・・と1対1で見比べていくと、6つの比較すべてでグループAの方がグループBより良い結果になっていると(私は)思います。
歪みについては、周波数特性とかなり相関があるので、正直あまり面白みがないかな、という気がします。MUSIC SERIES ONEの2次歪み、R/200の2次・3次歪み、MDR-7506の2次歪み、FH-40の3次歪み、MHP-AV1(DOLBY機能ON時)の3次歪みあたりが気になります。ZM-DS4Fはマルチドライバなので悪いと想像していたのですが、意外とまともな結果です(出音から考えるとおかしくはないですが)。
・インパルス:累積スペクトラム測定
インパルス応答波形を解析し、時間経過に対する周波数特性の変化を立体的に表示します。振動板やハウジング等が長く共振していたり、特定周波数の反射音等を見ることができます。インパルスとは時間的幅が無限小で高さが無限大のパルス(信号)で、全帯域に均等に広がっています。ただし、実際にはそのような信号を発生させるのは不可能なので、次の「インパルス応答:録音波形」のループバックのような信号を入力したときの経時変化を追っています。響きの豊かさや美しさに関係すると言っても良いかもしれません(響きと言うには観察時間が短いですが)。
ループバックです。
正直に言って、この結果はおかしいと思います。本来であれば、0ms(一番奥のライン)のみ全帯域に渡って0dBで、それ以降は全帯域で極小(-60dB以下)になるはずです。これは接続の問題だと思います。ループバックではヘッドホン出力端子とマイク入力端子を接続していますが、この接続はインピーダンス等の点から見て異常な接続です。実際、これから述べるヘッドホンの測定結果では、低域も綺麗に消えているものもあります。なお、表示時間はもっと長くすることもできますが、あまり長くしても時間が経てば経つほど誤差が大きくなるようですし、20msでヘッドホンの機種間の違いは十分見れるようなので、今回は20msで表示しました。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
特定の周波数の反射音としては、MDR-CD3000の10kHz、MUSIC SERIES ONEの2〜4kHz、R/200の2kHzと4kHz、MDR-7506の3kHz、FH-40の4kHz、RP-HC500(NC機能ON時)の1kHzあたりが気になります(細かく見ればもっと沢山ありますが、この測定もそれなりに誤差が大きいのであまり細かいところは意味がないです)。MDR-CD3000の10kHzのピークは少しおかしいような気がしますが、何度か測定しなおしても同じような結果だったので、おそらく間違いないと思います。高域に多少癖があると感じるのはこの辺りも原因なのかもしれません。また、R/200の4kHz、MDR-7506の3kHz、FH-40の4kHz等、「1/6octサイン:位相+高周波歪み測定」の歪みが大きかったことと関係がありそうなところもあります。
トータルとして見たときにピークがなかなか減衰しないのは、MHP-AV1(DOLBY機能ON時)、MHP-AV1(DOLBY機能OFF時)、SRS-4040、MDR-7506、減衰が早いのはFH-40、ZM-DS4Fあたりでしょうか。MHP-AV1(DOLBY機能ON時)の結果は思ったとおりです。聴いてみれば分かると思いますが、不要な響きがかなり気になるからです。
・インパルス:録音波形
「インパルス:累積スペクトラム測定」の測定で録音された波形を表示しています。MySpeakerの測定項目ではないのですが、粗忽ヘッドホンさんでも結果を載せていましたし、測定結果を見ていくとおもしろい面もあったので載せてみます(とは言え、「インパルス:累積スペクトラム測定」の結果があればだいたい分かりますが・・・・・・)。
ループバックです。
綺麗な単一ピークです。根元が多少荒れていますが、これくらいは仕方ないでしょう。特に問題のない結果だと思います。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
「サインショット:応答波形表示」で位相が反転していたヘッドホンについては、インパルスのピークも反転していて上向きではなく下向きに出ているようです。
「インパルス:累積スペクトラム測定」ではあまり目立ちませんでしたが、この録音波形を見るとHD650が非常に綺麗です。FH-40やmix-style
headphonesは、「インパルス:累積スペクトラム測定」の結果はそれほどおかしくはありませんでしたが、この録音波形を見ると酷い印象を受けます。上から順にHD650とPROline2500、MDR-CD30000とEXH-313・・・・・・と1対1で見比べていくと、だいたいグループAの方がグループBより良い結果になっていると(私は)思います。
なお、MHP-AV1(DOLBY機能ON時)は、他の機種と同じ個所を切り出すと上の図のようになりますが、全体は下図のようになっています。
細かい理由は分かりませんが、ドルビープロロジックUの信号処理の結果このように滅茶苦茶な波形になっているのは間違いないと思います。
・インパルス:エネルギー時間応答測定
インパルス応答波形を解析して、エネルギータイムレスポンスを算出、表示します。周波数ごとの変化は分かりませんが、トータルの減衰の仕方を見るには分かりやすいです。
ループバックです。
0msで入力したピークが綺麗に立ち上がり、それ以降時間経過に従ってなだらかに減衰しています。表示条件によっては10ms以降も見ることができますが、ヘッドホンの場合マイクと振動板の距離が短いせいか10msで機種間の違いは十分見れるようですし、時間が経てば経つほど測定誤差が大きくなり10ms前後でもある程度の誤差があるようでしたので、今回は10msで表示しました。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
どの機種もそれなりに凹凸がありますが、極端に変なピークはないようです。ヘッドホンはスピーカーと違って変な反射は出にくいのかもしれません。グループAとグループBを見比べると、グループAの方が変に細かい凹凸がなく素直に減衰している傾向がある点が興味深いです。ちなみに、細かい凹凸がある機種の方が実際の出音はザラザラしていたり粗があるように感じたりする傾向があるようです。そういう点で、響きと言うよりは付帯音という見方をした方が妥当なのかもしれません。MUSIC
SERIES ONEだけは納得が行かない感じですが、耳のせでイヤーパッドがフラットなのでその影響が出るのかもしれません(同じく耳のせでイヤーパッドがフラットなFH-40も細かい凹凸がありますし)。
MHP-AV1(DOLBY機能ON時)はなかなか減衰しない上、変にギザギザしていて、実際の音の妙な残響音がそのまま出ているような印象です。
RP-HC500は、NC機能ON時の方がOFF時と比べて立ち上がりが乱れていますし、減衰も遅めであまり良くない印象です。
SRS-4040はなかなか減衰しませんが、立ち上がりも減衰も綺麗で好印象です。
・サインスイープ:高周波歪み測定
サインスイープによって高周波歪みを測定します。測定に使用するサインスイープは、20Hzから20kHzまでのサイン波を10秒かけてリニアに移動させているようです。ちなみに、サインスイープは周波数特性の測定に用いられる最もポピュラーな音源だと思います。「1/6octサイン:位相+高周波歪み測定」と内容が被りますが、歪みの解析精度はこちらの方が良好です。
ループバックです。
周波数特性(黒色)・2次歪み(青色)・3次歪み(緑色)・ノイズ(灰色)という表示になっています。2次歪み・3次歪み・ノイズは40dB高く表示されています。ノイズがあまり大きいと、その周波数での歪みの値は当てにならないということになります。正直、ノイズがかなり大きいように思います。これは、すべてのヘッドホンを同一条件で測定するためにマイクボリュームをかなり上げた状態で固定しているのが大きな原因だと思います。特定のヘッドホンに最適化してより良い結果を得ることも可能ですが、すべてのヘッドホンを同一条件で測定して横並びで比較できるようにすることを優先してこのような条件にしました。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
「1/6octサイン:位相+高周波歪み測定」のところでも書きましたが、歪みと周波数特性はかなり相関があります。
「1/6octサイン:位相+高周波歪み測定」と同じく、MUSIC SERIES ONEの2次歪み、R/200の2次・3次歪み、MDR-7506の2次歪み、FH-40の3次歪み、MHP-AV1(DOLBY機能ON時)の3次歪みあたりが気になります。あとはRP-HT560の2次歪み、PROline2500の2次歪み、MHP-AVA1(DOLBY機能OFF時)の2次歪みでしょうか。
MySpeakerの測定は以上で終わりですが、誤差がどの程度あるのかも知りたかったので、機器のセッティングをやりなおしてHD650を3回測定した結果が以下のようになります(左の列がこれまで使ってきた結果です)。測定条件そのものは同じです。サインショットは他の測定と比べて測定誤差が小さいようです。なお、3回測定した結果をそのまま載せているだけなので、実際の誤差はもっと大きいはずです。
それから、MySpeakerではないのですが、以前から倍音の出方の測定もやりたいと考えていて、今回簡易的に測定したものを載せてみることにしました。
測定に使った音源は、WaveGeneで100Hz、1kHz、10kHzの3つのサイン波を合成したものです。作成したwavファイルをWaveSpectraで再生すると、下のようになります。
これをヘッドホンで再生してマイクで拾い、WaveSpectraで見るだけです。理想的には上のグラフのようになれば良いのですが、実際には元の信号には含まれていない倍音や歪みが生じます。そうなると、当然原音忠実性が損なわれますし、音が濁っていると感じたりする原因にもなります。と言っても、基本的にヘッドホンはスピーカーと比べて不要な倍音や歪みは発生しにくいようで、例えばさいたまaudioさんのこの測定と比べると良好なことが多いです(測定条件が違うので参考程度に)。
一応ループバックの結果です。
ノイズが大きいのは前述のような理由です。とりあえず測定してみる分には問題ない程度にはなっていると思います。
次に実際にヘッドホンを測定した結果です。
倍音の出方は音量によって大きく異なります。音量が大きいほど倍音も大きくなります。また、ヘッドホンの周波数特性にも影響を受けます。今回の測定では1kHzで音量を合わせてそのまま測定しているため、例えば10kHzが弱いヘッドホンでは10kHzの倍音である20kHzのピークも小さくなります。mix-style
headphonesは20kHzのピークは出ていないように見えますが、これはmix-style headphonesの10kHzの音圧が低いことにも原因があります。今回の測定では10kHzが弱いことが原因なのか、それとも本当に倍音が出にくいのかは分かりません。本来は別途10kHzで音量を合わせて測定した方が横並びで見られて良い面もあるのですが、実際に音楽を聴くときに10kHzで音量を合わせることはありえませんし、仮に1kHzで音量を合わせて音楽を聴くとしたら上記のmix-style
headphonesのような場合には不要な20kHzの音がほとんど聴こえないのは明白なので、この測定方法の方が実際に即していて良い面もあると思います。そもそも、この測定はヘッドホンによる違いが見やすいように実際に音楽を聴く音量としてはかなり大きめの音量に設定していますので、実際の音楽鑑賞ではもっと影響は小さいです。
このような前提の上で、各測定結果を見ていきます。
HD650はかなり良い結果だと思います。10kHzのみやや倍音(20kHz)と歪み(9kHzと11kHz)が出ていますが、あまり問題ないレベルでしょう。実際の出音から想像されるとおりだと思います。
MDR-CD3000は数百Hzが多少荒れていますが、トータルとしてはなかなか良いと思います。これも想像どおりです。
MUSIC SERIES ONEは、1kHzに歪み(900Hz、1.1kHz)が見られますし、100Hzの倍音(200Hz、300Hz)も見られます。10kHzの倍音と歪みが大きいですが、これはMUSIC
SERIES ONEの周波数特性により10kHzが強いことが原因という面が大きいと思います。
HP-AURUVN-LVはかなり悪い結果だと思います。300Hzに大きな倍音が出ていますし、1kHzの倍音や歪みも大きいです。多少予想外ではありますが、出音と結果を照らし合わせて再度考えてみると思い当たる節もあります。
HP830は各所に倍音・歪みが見られますが、全体的にはまずまずの結果だと思います。価格を考えれば十分良好と言えるでしょう。
RP-HT560はHP830以上に良いです。10kHzの倍音・歪みがやや大きいですが、これは周波数特性上10kHzが強いのが原因でしょう。
PROline2500は100Hz、1kHz、10kHzすべてに大きな倍音が見られますし、価格を考えれば悪い結果だと思います。
EXH-313はなかなか良いように見えますが、100Hzの倍音が出ていないのは周波数特性上100Hzが弱いためでしょう。もう少し音量を上げれば倍音が出そうな感じです。
R/200はかなり酷い結果です。特に1kHzの歪みはちょっとありえないレベルだと思います。
MDR-7506は1kHzの倍音が大きめです。低域は一見問題ないようにも見えますが、100Hzがかなり弱いことを考えると、300Hzのピークはかなり大きいと言えるでしょう。
FH-40は100Hzの倍音と1kHzの歪みが気になります。
mix-style headphonesは意外にも良好な結果ですが、良く考えると微妙です。100Hzから400Hzまで全体的に膨らんでいますし、10Hzの倍音や歪みがほとんど出ていないのは単に周波数特性上弱いからだと思われます。とは言え、1kHzの倍音や歪みが出ていないのは確かで、それだけでも十分良いと言えるかもしれません。
MHP-AV1は、DOLBY機能ON時とOFF時を比べるとON時の方が若干悪いような印象ですが、思ったほど差はありません。おそらくDOLBY機能ON時の音がおかしいと感じるのは、倍音ではなく「サインショット:応答波形表示」や「インパルス:累積スペクトラム測定」の結果が悪い点と関係があるのでしょう。
RP-HC500は、NC機能ON時とOFF時を比べるとOFF時の方が100Hzの倍音が大きくON時の方が10kHzの歪みが大きいです。RP-HC500は周波数特性のグラフから受ける印象以上にNC機能OFF時よりON時の方が低域が少ないように感じるのですが、これは100Hzの倍音の出方も関係あるのかもしれません。10kHzの歪みについては、私がノイズキャンセルヘッドホンの音があまり好きでない理由はこの辺りにもあると思います。
ZM-DS4Fはなかなか良好だと思います。マルチドライバだとこのあたりは有利なのでしょう。
SRS-4040もかなり良い結果だと思います。
今回の測定結果を見渡して、機種ごとに簡単にまとめてみたいと思います。
HD650は今回測定したものの中で最も良い結果だと思います。大きな欠点は皆無と言って良いでしょう。ただし、あくまでも今回の測定における「良い結果」とは、ソースの信号を忠実に再現していて歪みや位相のズレが少ないということです。「音楽をいかに楽しめるか」と関係がないとまでは言いませんが、イコールではありません。
MDR-CD30000は「サインショット:応答波形表示」で位相が反転しているのが気になります。あとは「インパルス:累積スペクトラム測定」の10kHzのピークくらいでしょうか。基本的にかなり良好な結果だと思います。
MUSIC SERIES ONEは2次歪みが大きい点と「インパルス:エネルギー時間応答測定」の減衰の仕方が気になりますが、トータルとしてはまずまずの結果だと思います。
HP-AURVN-LVは倍音がかなり悪かったですが、それ以外はなかなか良い結果だと思います。
HP830は特に気になるところはなかったように思います。「サインショット:応答波形表示」がもう少し良ければなお良かったでしょうが、価格を考えれば贅沢でしょう。
RP-HT560は位相と2次歪みが多少気になりますが、トータルとしては十分良好と言える結果だと思います。
PROline2500は「サインショット:応答波形表示」の波形の崩れ、2次歪み、倍音あたりが気になります。「インパルス:累積スペクトラム測定」も微妙です。トータルとしては価格の割にかなり悪い印象です。
EXH-313は「サインショット:応答波形表示」の波形の崩れが気になりますが、それ以外は思ったより良かったように思います。とは言え、価格を考えれば微妙な気もしますが・・・・・・
R/200はすべての測定結果が酷かったように思います。ここまで酷いとむしろ爽快です。
MDR-7506は「サインショット:応答波形表示」の波形の崩れがかなり酷いです。その他の測定結果もかなり悪いと思います。やはりMDR-7506のドライバに使われているサマリウムコバルトマグネットは、多くのヘッドホンのドライバに使われているネオジウムマグネットと比べて劣るのでしょうか(1機種だけで判断するのはどうかと思いますが・・・・・・)。
FH-40はどの測定結果も酷いですが、価格を考えれば致し方ないかと思われます。
mix-style headphonesは意外と良い結果だったように思いますが、それでも「サインショット:応答波形表示」の波形の崩れや「インパルス:録音波形」は気になりますし、それ以前に周波数特性の凹凸があまりに酷いので問題外という気もします。
MHP-AV1は、DOLBY機能ON時の音がOFF時と比べていかにおかしいかが測定結果にも出ていておもしろかったです。OFF時はON時と比べればまともな結果ではあるものの、それでも価格の割には非常に悪い結果と言わざるをえません。実売価格は約2万円ですが、測定結果は2千円程度でしょう。やはりワイヤレスヘッドホンの音質面のコストパフォーマンスはどうかと思います。
RP-HC500は、NC機能ON時とOFF時で思ったほど違いは出ませんでしたが、それでも細かい違いは各所に見られ、なかなか興味深かったです。
ZM-DS4Fは総じて予想より良い結果だったように思います。と言っても、「マルチドライバだから悪そう」と何となく思っていただけで出音から判断したわけではないので、あまり意味はないのですが。今回の結果だけ見ると、測定上はマルチドライバだからどうこうというのはなさそうです。
SRS-4040は「サインショット:応答波形表示」の波形の崩れがかなり気になりますし、それ以外の結果も一癖あるような印象です。正直、ソースの信号を忠実に再現するという意味においては良い結果とは言えないと思います。
また、事前の予想通りグループAとグループBを比べると、グループAの方が結果が良好なことが多かったように思います。
長くなってしまいましたが、如何でしたでしょうか。個人的には実際に耳で聴いたときの音とある程度相関のある測定結果になっていると感じました。もちろん、実際に音を鳴らして測定しているわけで相関がないわけはないのですが、自分の耳で聴いて例えば「これは波形が崩れていそう」とか「響きが豊かで変な癖があるのでインパルス応答の結果が悪そう」と予想していたのがある程度当たっていた、という意味です。今回の内容は、測定結果と実際の音の関係や測定誤差を見て、今後他のヘッドホンについても測定結果を公開する意味があるかどうかを考えるという側面もあったのですが、これならやる意味はあるように思いました。
将来的に本サイトで測定結果を公開する場合には測定結果を見て音を想像するわけで、今回とは逆になるわけですが、これはこれでおもしろかったと思います。本音を言うと、もう少し劇的な違いが出てくれた方が良いとは思いましたが・・・・・・(今回は違いが大きそうなものを選んで測定したので)
ともあれ、細かいことにこだわらなければ簡単に測定できるので、興味のある方は是非自分で測定してみることをお勧めします。色々なことが分かると思いますし、ヘッドホンに対する理解も深まると思います。
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