第10回 なごり雪/イルカ「イルカベスト」より

 イルカは日本のフォークシンガーです。1975年にかぐや姫の「なごり雪」をカバーして大ヒットしたことで一躍有名になりました。
 今回取り上げるのは2008年発表のベストアルバム「イルカベスト」よりその「なごり雪」です。伴奏はピアノ、ギター、ベース、ドラム、シンセ等です。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、今回はリクエストされた曲ではないので私が決めたいと思います。ヴォーカルを自然かつ魅力的に鳴らしてくれること、全体の雰囲気をしっかり出してくれることを重視したいと思います。


・1台目 DT231PRO(beyerdynamic)
 前述の条件を最も満たしているように感じたので選びました。艶や響きを乗せて脚色する感じなので、音源をそのまま聴きたい場合にはこの価格帯でももっと良いものがあると思いますが、そういうことを抜きに最終的な出音でヴォーカルの魅力や全体の雰囲気を求めるなら最高だと思います。温かみがあり、良い意味で少し古臭さを感じさせます。
 他にはHFI-15G、MDR-XB700、PortaPro、PX100、UR/40等で聴いてみました。MDR-XB700は低域が多すぎてベースやドラムがヴォーカルを邪魔するのが気になりますし、全体の雰囲気もいまひとつです。UR/40はバランスが良く欠点らしい欠点は見当たりませんが、今回聴いたものの中ではかなりあっさりしていてヴォーカルの魅力や雰囲気には不満が残ります。HFI-15GとPortaProはヴォーカルの魅力や雰囲気はなかなか良いのですが、低域が多すぎです。PX100は最後までDT231PROと迷いましたが、ヴォーカルの魅力にしろ雰囲気にしろDT231PROにもう一歩及ばない印象だったので外しました。
 不満点はほとんどありませんが、小型のせいかスケールが小さいところは気になります。

・2台目 DTX900(beyerdynamic)
 1台目の不満点を踏まえて選びました。1台目のヴォーカルの魅力や全体の雰囲気をそのままに、スケールを大きく、よりフラットに自然にしたような感じです。同一メーカーだけあって似ているところが多い印象です。
 他にはDR150、MUSIC SERIES ONE、SW-HP10等で聴いてみました。DR150は1台目と比べてスケールは大きくなりますし各楽器の表現もうまいのですが、ヴォーカルが細い感じになる点とやや聴き疲れしやすい点が気になります。MUSIC SERIES ONEは基本的にはなかなか良いのですが、DTX900のような濃密さや深みがなく、やや薄く明るい感じになる点が気になります。SW-HP10は他の機種とは少し違う傾向ではあるもののヴォーカルの魅力や全体の雰囲気をそれなりに出してくれるのですが、今回の曲にはDTX900の方が合っている印象です。ただ、あまり艶や響きを乗せない傾向で今回の曲の良さを出そうとするなら、かなり良い選択肢になると思います。
 不満点はありません。あとは細かいところで完成度を上げていくか、少し違った傾向のものを選ぶしかないと思います。

・3台目 DT880(beyerdynamic)
 2台目のヴォーカルの魅力や全体の雰囲気を維持したまま更にプラスアルファを望める機種は多くありません。その一つがこれです。
 2台目と比べて音場が広く、細部の描写で勝っています。細部の描写は例えばアコースティック・ギターのエッジやヴォーカルの消え際で顕著です。そういったところで少しずつリアリティを積み重ねていて、それが全体の完成度の高さに繋がっている印象です。ヴォーカルの表現は2台目と比べると若干明るく透明感がある傾向です。濃密でずっしりと落ち着いた感じが欲しいなら2台目の方が良いでしょうが、女性ヴォーカルのフォークソングなのでDT880くらいの明るさの方が良い気もします。
 不満点はありません。

・4台目 RS-1(GRADO)
 かなり迷った末、これになりました。
 今回聴いた他の機種に比べるとかなり明るく爽やかですが、それでいて雰囲気や情感は出してくれます。これに比べると、これまで選んだヘッドホンはどれもじっとりと重苦しいとも言えます。先ほども書いたとおり、フォークソングなので多少の明るさや爽やかさが欲しいという見方もあると思いますが、その場合にはRS-1は非常に良いと思います。曖昧なフィーリングですが、フォークソングらしさのようなものが最も感じられる印象です。ヴォーカルは3台目よりも更に明るく透明感があります。また、良くも悪くもアコースティック・ギターがかなり目立ちます。
 他にはDT990PRO、HD650、PROline2500等で聴いてみました。DT990PROはなかなか良いのですが、低域も高域も多すぎな点とやや聴き疲れしやすい点が気になります。HD650は2台目のスケールを大きくしたような感じです。ヴォーカルは若干太くしっかりした表現になります。DT880やRS-1とかなり迷ったのですが、最終的にはDT880やRS-1よりも2台目に似ていて追加する意味はあまりない気がしたので外しました。先ほど書いた「じっとりと重苦しい」感じが最も気になったというのも一因です(これはこれで一つの魅力ではあるのですが)。PROline2500はヴォーカルの魅力や全体の雰囲気はそれなりに良いのですが、少しヴォーカルが遠い上、低域が多すぎてベースやドラムがヴォーカルを邪魔するのが気になります。

・5台目 CX95(SENNHEISER)
 色々と聴いてみたのですが、なかなか満足行くものが見つからず、最終的には消去法でこれに落ち着きました。ER-4Sは音が硬くて明るすぎる、Image X10は綺麗なだけで雰囲気が出ない、Super.fi 5 Proは雰囲気が出ない上にアコースティック・ギターのエッジが丸すぎる、Westone3は雰囲気は出る傾向ではあるものの低域が多すぎるしハイハットも悪目立ちする等、機種によって様々な不満があり、最も不満が小さいものを選びました。消去法で選んだとは言いましたが、改めてじっくり聴いてみるとやはり他の機種より魅力的に感じられます。特に雰囲気を出した上でバランスが良く各楽器が自然なのは見事です。肝心のヴォーカルについても、先ほど挙げた機種より魅力的に感じられます(バランスド・アーマチュア型だと綺麗で濁りがなく今回の曲には合わない傾向になるようです)。オーバーヘッド型だとDT880に近い印象です。
 他にはSHE9700が良かったです。低域の量は少し多すぎますが、それ以外はCX95と比べてもそれほど大きな不満は出ない印象です。


 今回はbeyerdynamicが選ばれそうだとは思っていましたが、実際にやってみると予想以上に相性が良い印象でした。むしろなるべくbeyerdynamicは選ばないようにしようとしたくらいのつもりだったのですが・・・・・・
 ヘッドホンアンプはAT-HA2002やHA-1Aが良いと思います。ただし、DTX900やHD650だとAT-HA2002やHA-1Aでは濃すぎて暑苦しい感じになってしまうので、HD-1L Limited Edition(RC1)やSA-15S1(SACDプレーヤーのヘッドホン端子)くらいの方が合うかもしれません。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


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