今回は、不定期コラム第41回で取り上げたイヤーパッドの交換と音質の変化の2回目です。前回はULTRASONEのヘッドホンでしたが、今回はMDR-7506とMDR-CD900ST、K501とK701、MUSIC SERIES ONEとSR-225とSR-60を取り上げます。GRADOについてはSR-325iとRS-1も所有していますが、ハウジングの材質等が他機種に近いと思われるSR-225を代表として選びました。
測定は前回と同様の方法です。まず初めにオリジナルのイヤーパッドを装着した状態で通常どおり1kHzが-40dBになるように測定した後、イヤーパッドを他機種のものに交換してボリューム固定のまま測定を行いました。したがって、イヤーパッドを他機種のものに交換したもののグラフでは、1kHzが-40dBになっていません。これは、1kHzでの音圧変化も含めてイヤーパッド交換による変化を見るためです。また、イヤーパッドの交換およびセッティングには細心の注意を払いましたが、ヘッドホンを一度測定装置から外す必要があるため、どうしても誤差が増えます。セッティング方法をいくつもの点について固定することにより誤差は小さくなりましたが、測定結果は誤差を含んでいることを念頭に置いて下さい。
1.MDR-7506、MDR-CD900ST
写真は左がMDR-CD900ST、右がMDR-7506です。
イヤーパッドの材質はどちらも安っぽい人工皮革ですが、MDR-CD900STの方がしわが少ない感じです。厚みはMDR-7506の方がやや厚いです。フィルターは、MDR-CD900STが非常に薄く半ば透けているのに対して、MDR-7506はある程度の厚みがあります。ちなみに、この2機種のイヤーパッドの着脱は多少難しいです。特にMDR-CD900STのイヤーパッドをMDR-7506に装着するのはかなり厳しいので、交換する方は自己責任でお願いします。ちなみに難しい理由は、MDR-7506の本体の方がMDR-CD900STの本体と比べて若干サイズが大きいためです。
折角ですのでイヤーパッドを外した状態の写真も載せておきます。ドライバ周辺のパーツの色が違うこととナンバーの有無以外はかなり似ています。
1-a.本体固定でイヤーパッドによる違いを考察
オリジナルのイヤーパッドを装着したものを比較ベースに、イヤーパッドの交換による変化を見やすいように測定結果をまとめてみました。
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イヤーパッド |
MDR-7506 |
MDR-CD900ST |
本体 |
MDR-7506 |
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MDR-CD900ST |
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あまり大きな変化はありませんが、MDR-7506のイヤーパッドをMDR-CD900STのものに変えると低域から中域が若干強くなってフラットに近づくようです。これはMDR-7506のイヤーパッドよりもMDR-CD900STのイヤーパッドの方が薄いために振動板とマイクの距離が近づくことが原因でしょう。逆に、MDR-CD900STのイヤーパッドをMDR-7506のものに変えると低域から中域が若干弱くなります。これは前述の理由の通り振動板とマイクの距離が離れることが原因だと考えられます。
1-b.イヤーパッド固定で本体による違いを考察
aとは逆に、イヤーパッドを比較ベースにして、本体による違いが見やすいようにまとめました。
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本体 |
MDR-7506 |
MDR-CD900ST |
イヤーパッド |
MDR-7506 |
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MDR-CD900ST |
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aとは違い、かなり明確な変化があります。
MDR-7506のイヤーパッドを固定して本体をMDR-7506からMDR-CD900STに変えると、100Hz以下が弱くなり、250Hz付近のディップがなくなり、1kHz〜3kHzの隆起が緩和されます。このことから、MDR-7506特有のしっかりした低域や中域のうわずりは、イヤーパッドではなく本体側に原因があることが分かります。
逆に、MDR-CD900STのイヤーパッドを固定して本体をMDR-CD900STからMDR-7506に変えると、250Hz付近にディップができ、1kHz〜3kHzの隆起ができます。これは、MDR-7506のイヤーパッドを固定して考えた場合の結果と一致するものです。
これらの結果から、MDR-7506とMDR-CD900STの音の違いは、イヤーパッドによるものよりも本体側によるものが大きいと言えます。
2.K501、K701
写真は左がK501、右がK701です。
イヤーパッドの材質は、K501はジャージ素材で音の抜けが良さそうなもので、K701は上質な布製で音の抜けはあまり良くなさそうなものです。
形状としては、K501は全周同じ厚みであるのに対して、K701は前方が薄くなっています。
また、K701はイヤーパッドの内側に厚さ3mm程度のドーナツ型のスポンジが入っています。今回はそのスポンジもイヤーパッドの一部として扱いました。
イヤーパッドを外した状態の写真も載せておきます。中心部の凹凸以外はほぼ同じ形状と言って良いでしょう。
2-a.本体固定でイヤーパッドによる違いを考察
オリジナルのイヤーパッドを装着したものを比較ベースに、イヤーパッドの交換による変化を見やすいように測定結果をまとめてみました。
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イヤーパッド |
K501 |
K701 |
本体 |
K501 |
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K701 |
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K501のイヤーパッドをK701のものに変えると、低域がかなり強くなります。逆にK701のイヤーパッドをK501のものに変えると、低域がかなり弱くなります。これは単純にK501のイヤーパッドの方が音の抜けが良いためと考えてよいでしょう。
また、これは測定誤差なのか迷う程度の差ですが、K501のイヤーパッドをK701のものに変えると6kHz付近のピークがやや小さくなります。逆に、K701のイヤーパッドをK501のものに変えると6kHz付近のピークがやや大きくなります。K501の方がK701よりも高音よりというイメージがありますが、これは低域の差だけでなくこの6kHz付近のピークのせいもあるかもしれません。
2-b.イヤーパッド固定で本体による違いを考察
aとは逆に、イヤーパッドを比較ベースにして、本体による違いが見やすいようにまとめました。
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本体 |
K501 |
K701 |
イヤーパッド |
K501 |
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K701 |
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K501のイヤーパッドを固定して本体をK501からK701に変えると、低域が減ります。逆に、K701のイヤーパッドを固定して本体をK701からK501に変えると、低域が増えます。このことから、意外なことに本体のみではK501の方が低音よりであることが分かります。
ちなみに、K701のイヤーパッドの内側に入っているスポンジによる音の違いも見てみましたが、この違いは測定誤差の範囲内でしょう。
3.MUSIC SERIES ONE、SR-225、SR-60
写真は左からMUSIC SERIES ONE、SR-225、SR-60です。
イヤーパッドの材質はどれもウレタンのスポンジのようです。MUSIC SERIES ONEだけはやや柔らかい質感で、他の2機種と違い中央部にフィルターがあります。
3-a.本体固定でイヤーパッドによる違いを考察
オリジナルのイヤーパッドを装着したものを比較ベースに、イヤーパッドの交換による変化を見やすいように測定結果をまとめてみました。
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イヤーパッド |
MUSIC SERIES ONE |
SR-225 |
SR-60 |
本体 |
MUSIC SERIES ONE |
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SR-225 |
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SR-60 |
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MUSIC SERIES ONEのイヤーパッドをSR-225のものに変えると、低域の量がやや減ります。また、MUSIC SERIES ONEのイヤーパッドをSR-60のものに変えると、低域の量がやや増えます。このことから、MUSIC SERIES ONEのイヤーパッドの音の抜けはSR-225のイヤーパッドより悪く、SR-60のイヤーパッドより良いと考えられます。SR-225、SR-60についても同様に見比べてみると、やはり音の抜けの良さはSR-225、MUSIC SERIES ONE、SR-60の順のようです。
また、振動板とマイクの距離を考えてみると、SR-225、SR-60、MUSIC SERIES ONEの順に長いです。最も振動板と距離があいているSR-225の低域が減衰して少なくなるのは分かりますが、SR-60とMUSIC
SERIES ONEは順位が逆転しています。これはスポンジの材質の違いと振動板とマイクの間を遮るフィルターの有無によるものと考えて良いでしょう。
3-b.イヤーパッド固定で本体による違いを考察
aとは逆に、イヤーパッドを比較ベースにして、本体による違いが見やすいようにまとめました。
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本体 |
MUSIC SERIES ONE |
SR-225 |
SR-60 |
イヤーパッド |
MUSIC SERIES ONE |
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SR-225 |
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SR-60 |
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正直、あまり大きな違いはないように思います。
SR-225のイヤーパッドを固定して本体をSR-60に変えると、全体的に音量が小さくなります。逆に、SR-60のイヤーパッドを固定して本体をSR-225に変えると、全体的に音量が大きくなります。これは測定順の問題で、例えば本体がSR-60でイヤーパッドがSR-225のものは、SR-60の後に測定しているため、比較対象のSR-225よりボリューム位置が小さい状態で測定していることが原因です(イヤーパッドの厚みがあり振動板とマイクの距離が開いているSR-225の方が音量を取りづらい)。音量が同じになるようにボリュームを調節すれば、ほぼ同じ結果になると思われます。
GRADOのヘッドホンについては、機種が違っても同じドライバを使っているという説がありますが、今回の測定結果を見る限り、確かに本体による音質の違いは小さいようです。
以上、今回の測定結果とあわせて考えたことをいくつか書いてみました。第41回と同様、イヤーパッドの交換と音質の変化に関する知見としてお役に立てば幸いです。
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