第79回 ノヴェンバー・ステップス/武満徹

 今回取り上げるのは武満徹のノヴェンバー・ステップスです。指揮は小澤征爾、演奏はサイトウ・キネン・オーケストラで、1989年の録音です。
 武満徹は日本を代表する作曲家の一人で、ジャンルとしてはクラシックあるいは現代音楽に分類されることが多いようです。今回取り上げる曲は1967年作曲で、琵琶、尺八、オーケストラという編成です。作曲時にドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」の楽譜を手元に置いていたという話があり、確かに色々と似た部分があるように感じられます。あまり主旋律らしい旋律がなく、響きを大切にしているような印象です。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、「琵琶と尺八とオケの魅力を同時に引き出せるHP」とのことです。琵琶と尺八の質感や空気感を出してくれること、オーケストラに使われている楽器の音色が自然なこと、音場の広さや音の広がりがある程度感じられること等が重要になってくるのではないかと思います。


・1台目 ATH-TAD500(audio-technica)
 前述の条件を最も満たしているように感じたので選びました。どの点についても悪くないと思います。どこかが特別良いと言うよりは、総合得点で選ばれた印象です。とは言え、あえて挙げるならオーケストラに使われている楽器の音色が自然ということになるかと思います。
 他にはAPHN-AC30、DT231PRO、HI2050、HP-RX900、UR/40等で聴いてみました。APHN-AC30は最後までATH-TAD500と迷いましたが、ATH-TAD500の方が琵琶と尺八の質感や空気感を出してくれるように感じられたのでそちらにしました。DT231PROは琵琶と尺八の質感や空気感は良いのですが、音場の狭さが気になります。HI2050は琵琶とヴァイオリンの音がきつすぎます。HP-RX900は音場の広さは良いのですが、オーケストラに使われている楽器の音色がやや不自然です。UR/40は悪くないのですが、音場の狭さと言うか、音が近くて団子になっている感じが気になります。
 不満点は特にありません。全体的に少しずつ改善できれば良いのではないかと思います。

・2台目 MDR-MA900(SONY)
 最初に書いた条件を最も満たしているように感じたので選びました。1台目と比べると音場の広さが改善されます。それ以外の点はそれほど大きな差はないような印象です。
 他にはDTX900、K240monitor、SE-A1000、SRH840、T50RP等で聴いてみました。DTX900は琵琶と尺八の質感や空気感は良いのですが、音場の狭さが気になります。K240monitorはオーケストラに使われている楽器の音色は自然なのですが、琵琶と尺八の質感や空気感はあまり出してくれません。SE-A1000は最後までMDR-MA900と迷いましたが、MDR-MA900の方が若干オーケストラに使われている楽器の音色が自然で音場も広いように感じられたのでそちらにしました。SRH840は悪くないのですが、MDR-MA900と比べると音場の狭さが気になります。T50RPは、尺八の空気感は人によっては良いと感じるかもしれませんが、琵琶の質感はあまり出してくれません。
 不満点は特にありません。次は色々聴いてみて選ぶしかないと思います。

・3台目 RS-1(GRADO)
 色々聴いてみた結果これになりました。琵琶と尺八の質感や空気感が素晴らしいです。他の点についてはもっと良いものがあるのですが、その差を補って余りある印象を受けます。それに加えて、RS-1で今回の曲を聴くと響きと静寂の表現が非常に重要になってくることに気づかされます(1、2台目の探索中も重要だという認識はあったのですが、聴き比べる中でヘッドホンによってそれほど差が出るようには感じられませんでした)。響きと静寂、それぞれがしっかりと感じられる印象ですが、どちらかと言うと響きがしっかりしているからこそ静寂が生きているのではないかと思います。
 不満点は特にありませんが、琵琶と尺八の質感や空気感と同じくらい他の点も良いものがあれば理想的だとは思います。

・4台目 T1(beyerdynamic)
 3台目の不満点を踏まえて選びました。この点についてはある程度改善されますが、流石にすべての点について3台目の琵琶と尺八の質感や空気感と同レベルとは行きません。他には、静寂の表現が素晴らしいです。結果的には、3台目の不満点の改善よりもむしろこちらの方が重要だと言えるかもしれません。3台目とはまた違った方向性で、響きよりも静寂に重きを置いているような印象を受けます。3台目とどちらが良いかは好みによるでしょうが、オンリーワンの魅力なら3台目、総合的な完成度では4台目だと思います。
 他にはDT880、HD800、SR-007+SRM-717、SRH1840等で聴いてみました。DT880は悪くないのですが、3、4台目と比べると突出した魅力がなく物足りない印象です。HD800とSRH1840はなかなか良いのですが、3、4台目と比べると響きと静寂の表現で若干見劣りします。SR-007+SRM-717は音場の広さや音の広がりは良いのですが、琵琶と尺八の質感や空気感はどこか違うような印象を受けます。

・5台目 IE800(TDK)
 最初に書いた条件を最も満たしているように感じたので選びました。特に琵琶と尺八の質感や空気感が良いです。響きと静寂の表現も魅力的です。イヤホンの場合、静寂の表現には遮音性の高さや機器のノイズの拾いにくさも実用上影響してくることが多いと思いますが、IE800はその点でもかなり優秀です。色々と聴いてみたのですが、ER-4Sはなかなか良いもののIE800と比べると音場の狭さが気になる、MDR-EX1000はIE800と比べると響きと静寂の表現で若干見劣りする、SE535は尺八の空気感は良いものの琵琶の質感は微妙等の不満がありました。
 他にはSE215とSHE9700が良かったです。最初に書いた条件についてはどれもそれなりに満たしています。


 今回はあえて琵琶、尺八、オーケストラの調和は考慮しませんでした。曲を聴いて考えたり調べたりした結果、調和ではなくそれぞれの味を出してくれることが重要だと思ったからです。調和を重視する場合にはかなり違った結果になるのではないかと思います。
 ヘッドホンアンプはHead Amp 2/MkII SEが良いと思います。楽器の質感をそのまま出してくれますし、静寂の表現もうまいです。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


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