第43回 チェンバロ協奏曲第1番ニ短調/バッハ

 今回取り上げるのはバッハのチェンバロ協奏曲第1番ニ短調です。演奏はピノック(チェンバロ)とイングリッシュ・コンサートで、1979年の録音です。
 バッハのチェンバロ協奏曲は1台用から4台用まで存在しますが、今回の曲は1台用のものとなっています。ピノックはイギリスの著名なチェンバロ・オルガン奏者で、イングリッシュ・コンサートはそのピノックが1973年に結成したオリジナル楽器によるオーケストラです。今回の録音はバッハのチェンバロ協奏曲としてはコープマンやリヒターと並んで非常に高く評価されています。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、「チェンバロを気持ちよく聞けるもの」とのことです。気持ちよいにも色々あると思いますが、今回はチェンバロの独特の質感を出してくれるもので癖や聴き疲れの少ないものの中からフィーリングで選びたいと思います。あとは、今回のCDはオリジナル楽器によるオーケストラでなおかつバッハのチェンバロ協奏曲としては瑞々しい演奏・録音になっているので、できればそのあたりも生かしてくれるヘッドホンを選べればと思います。


・1台目 HD215(SENNHEISER)
 前述の条件を最も満たしているように感じたので選びました。チェンバロの独特の質感を出してくれる上、癖も小さいです。全体のバランスが良いですし、今回の録音の瑞々しさも出してくれます。この価格帯としては音場が広くこもり感が少ない点も魅力です。ただ、良くも悪くもチェンバロが目立つ傾向なので、チェンバロを主役でなく多数の楽器のうちの一つとみなしてまとまり重視で聴くならあまり合わないと思われます。
 他にはATH-A500、CPH7000、HP-535、PRO DJ100等で聴いてみました。ATH-A500は最後までHD215と迷いましたが、HD215の方が若干チェンバロに癖がなく全体のバランスも良かったのでそちらにしました。CPH7000はチェンバロの質感はそれほど悪くないものの、低域が少なすぎてバランスが悪く違和感も大きいです。HP-535はHD215と比べるとチェンバロの質感でやや見劣りしますし、バランスもやや悪いです。PRO DJ100はなかなか良いのですが、チェンバロの質感ではHD215に分があります。ただし、チェンバロの質感についてはHD215やATH-A500は明るすぎてわざとらしいという場合には、PRO DJ100くらいの方が自然で聴きやすいと思います。
 不満点は特にありませんが、全体的に少しずつ改善できれば良いのではないかと思います。

・2台目 HA-MX10-B(Victor)
 最初に書いた条件を最も満たしているように感じたので選びました。チェンバロの独特の質感を出してくれる上、癖も小さいです。全体のバランスが良いですし、今回の録音の瑞々しさも出してくれます。比較的1台目に近い傾向ですが、1台目と比べると音場が狭く、その代わりまとまりがあるような印象です。チェンバロの質感については1台目ほど作ったような感じがしない点は良いです。
 他にはHP-AURVN-LV、K530、RH-300、SE-A1000等で聴いてみました。HP-AURVN-LVは悪くないのですが、HA-MX10-Bと比べるとチェンバロの独特の質感を出してくれません。K530は最後までHA-MX10-Bと迷いましたが、HA-MX10-Bの方が若干チェンバロに癖がないように感じたのでそちらにしました。RH-300はHA-MX10-Bと比べるとチェンバロに癖があります。SE-A1000はチェンバロに癖がありますし、低域の量が多すぎてバランスが悪いです。
 不満点は、音場が狭い上に全体的にきっちりかっちり鳴らすせいか、直感的にはあまり気持ちよいという感じではない点です。

・3台目 SRS-4040(STAX)
 2台目の不満点を踏まえて選びました。この点についてはしっかり改善されます。最初に書いた条件をある程度満たした上で2台目の不満点を改善するのにこれ以上のものはそうないと思います。全体のバランスも悪くありませんし、1台目のようにチェンバロが目立ってまとまりに欠けるということもありません。むしろまとまりがあって聴き疲れしにくくすんなり音楽に入っていけるような印象です。チェンバロはコンデンサー型特有の線の細い質なのである意味癖はありますが、チェンバロの独特の質感はそれなりに出してくれます。
 不満点は特にありませんが、チェンバロのコンデンサー型特有の質が合わない人もいるかもしれません。

・4台目 AH-D5000(DENON)
 2台目とも3台目とも違うもので最初に書いた条件を満たしてくれるもの、と考えて選びました。別の見方をすると、これまでの経緯を踏まえずシンプルに「チェンバロの独特の質感を出してくれるもので癖や聴き疲れの少ないもの」を選ぶとしてもこれになるのではないかと思います。他の機種のような不満点がほとんどありません。
 他にはATH-A2000X、HD800、KH-K1000、MDR-SA5000、RS-1等で聴いてみました。ATH-A2000Xはチェンバロの独特の質感を出してくれますが、癖は強いですし全体の違和感も大きいです。HD800とMDR-SA5000はチェンバロの質感は良いのですが、2台目のような感じで直感的な気持ちよさには欠けるので外しました。KH-K1000はチェンバロの独特の聴きやすさが印象的ですが、チェンバロ本来の独特の質感をきちんと出してくれる方向性ではないと感じたので外しました(とは言え、人によっては最も魅力的に感じるかもしれません)。RS-1は最後までAH-D5000と迷いましたが、AH-D5000の方が癖が小さく聴き疲れが少ないのでそちらにしました。ただし、フィーリングだけで楽しめるものを選ぶならRS-1を選んでいた可能性も高いと思います。

・5台目 ER-4S(Etymotic Research)
 フィーリングで最も気持ちよいと感じたので選びました。チェンバロの質感が3台目やKH-K1000のような感じでやや個性的ですが、それが気持ちよく聴けることに繋がっている印象です。他に大きな不満点もありません。色々と聴いてみたのですが、ATH-CK10はチェンバロの質感は良いものの癖や聴き疲れがやや気になる、EPH-100はチェンバロの質感は良いものの癖や低域の量が多すぎる点が気になる、MDR-EX1000はチェンバロの質感がそれなりに良いだけでなく癖や聴き疲れも少ないもののあまりに無個性で淡々と鳴らすためある意味気持ちよさとは最も遠いようにも感じられる等の不満がありました。チェンバロの質感、それから癖や聴き疲れの少なさを総合的に考えるならMDR-EX1000だったのですが、どうしてもフィーリングの気持ちよさが引っかかったので最終的にはER-4Sを選びました。
 他にはMA850G/AとHP-FXC50が良かったです。MA850G/AはER-4Sに近い傾向、HP-FXC50はEPH-100に近い傾向です。


 今回は「気持ちよい」の定義によって選ぶヘッドホンが変わってくると思います。そのあたりも本文中で触れているので、選ばれたヘッドホンだけでなく本文まで読んで自分に合ったヘッドホンを探してみてください。
 ヘッドホンアンプはhpa200b(ハイエンド仕様)とD2が良いと思います。高域の澄んで硬質な感じがチェンバロにマッチします。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


試聴はこちら。














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