第55回 価格別favorite headphones 4回目

 久しぶりの価格別favorite headphonesです。カナル型を除くと約3年ぶりとなります。こんなに間があいてしまったのには二つの理由があります。一つ目は、不定期コラムの価格別favorite headphonesで取り上げたヘッドホンはレビューページのトップに「favorite!」と追記することにしているので、あまりfavoriteを増やすと見にくくなる上どれが本当にfavoriteなのか分からなくなってしまうと考え、あまり頻発しないようにしたことです。二つ目は、曲別HP探索を優先したり新機種のレビューが山積みになっていたりして不定期コラムが後回しになっていたことです。
 さて、前置きはこの辺にして、実際に選んでいきたいと思います。久しぶりですし、もう4回目なので、以前に選んだヘッドホンを挙げて振り返りながら見ていきたいと思います。


RP-HT560(5千円以下、Panasonic)
 これまでの3回で選んだヘッドホンはHP-X122、HP830、K24Pです。今回選んだRP-HT560は、この3台と比べて個性がなくこれといった魅力に乏しい機種だと思います。しかし裏を返せば、RP-HT560は自然で癖がないとも言えます。5千円以下でこの自然さ、癖のなさは非常に珍しいと思いますし、分解能や音場感も価格なりのものは持っています。5千円以下で何でも聴くという人にはイチオシです。
 密閉型のヘッドホンの多くは中低域やローエンドを弱くすることによって低域の締まりや明瞭さを得ていますが、本機はあまりそういうことがなくかなりフラットな低域です。それでいて曇りやこもりが酷いということもなく、比較的自然な低域を実現しています。最近ではRH-300やHP-AURVN-LVを始めとしてこういった低域を持つ密閉型ヘッドホンも増えてきているように思いますが、それでも5千円以下では希だと思います。
 装着感も良好です。以前かなり頭の大きい知人に薦めたのですが、問題なく使えている上に装着感が良いと高評価でした。個人的にはケーブルが細すぎる点が心配ですが、これまでのところ断線等の問題は発生していません。

SHP8900(5千円〜1万円、PHILIPS)
 これまでの3回で選んだヘッドホンはPortaPro、UR/40、HD497です。SHP8900は「やっぱり」と思う人も多そうですが、良いものは良いので、素直に選びました。
 SHP8900は、5千円以下で選んだRP-HT560とはある意味で正反対です。個性的で魅力的、合う曲には合う反面、合わない曲には合わない傾向です。ですが、この「合う曲に合う」という部分が素晴らしいです。ポップスやロックを明るく聴きたいときに向いているのですが、そういった音源では場合によってはSR-325iやATH-AD2000等のポップス・ロック向き高級ヘッドホンと同等以上に楽しめます。
 音質的に注目すべき点は、レビューにも書きましたが抜けの良さと低域の質・量の両立です。SHP8900以上に厚みや量感のある低域を持ちかつ抜けが良い開放型ヘッドホンはほとんどありません。個人的に思い当たるのはGRADOのPS-1だけです。そういう意味で、代えの利かない貴重なヘッドホンです。

RH-300(1万円〜2万円、Roland)
 これまでの3回で選んだヘッドホンはHP1000、DJ1 PRO、ATH-SX1です。RH-300はこの中ではATH-SX1に近い印象です。バランスが良く、比較的何でも聴けます。
 元々1万円台という価格帯は個性的な機種が多く使い分けを楽しんだりするのに向いているような印象があったのですが、この3年で完成度が高くバランスの良い機種がいくつも出てきていて、「以前とはかなり変わったなぁ」としみじみ思います。
 実は、今回の価格別favorite headphonesで最も迷ったのがこの価格帯です。この数年のヘッドホンブーム(ブームと呼ぶのが適切かどうかは議論の余地があると思いますが、ともあれヘッドホンに凝る人が増えて新製品が次々発売されたのは多くの人が同意できると思います)でどの価格帯も充実したと思いますが、個人的には特に1万円台の充実が目を引きます。普通に音楽鑑賞をするのであれば、1万円台で好みに合うものを1、2台持っていれば事足りるのではないでしょうか。
 と、RH-300の話を全然していませんね(笑) しかし改めて魅力を語るのが難しい機種です。とにかくバランスが良いという一言に尽きると思います。RH-300ほどバランスの良い機種は希少なのでそれだけでも価値はあるのですが、それだけでなく「音楽を楽しめるかどうか」という点で見ても十分価格なりの価値はあるところが凄いです。何でも聴けるのですが、あえて得意なジャンルを探すなら打ち込み系の曲です。電子ピアノで使用して非常に満足しているという報告を複数耳にしたこともあります。ヘッドホンについてはメーカーの売り文句は飾りでしかありませんが、RolandのRH-300の製品ページに書いてある「RH-300は、最新の電子楽器/デジタル機器に最適化された密閉タイプの高音質モニター・ヘッドホンです。」という文章は珍しく的を射ていると感じました。

HD25-1(2万円〜3万円、SENNHEISER)
 これまでの3回で選んだヘッドホンはSR-225、HD595、DT990PROです。SENNHEISERは2台目ですが、以前選んだHD595とはまったく違う音である点がおもしろいです。
 HD25-1(今はマイナーチェンジでHD25-1 IIになっていますが)は非常に有名で昔から人気のある機種なので、価格別favorite headphonesで取り上げるのも今更な感じがしますが、そういう点を考えずに単にこの価格帯で好きなヘッドホンを選んだ結果これになりました。
 音質的には、締まっていて厚みや圧力のある低音が魅力です。これに似た低音を持つヘッドホンはほとんどありません。また、HD25-1は屋外でロックを聴くときに良いというイメージがありますが、ロックを聴くなら屋内であっても非常に魅力的な機種です。
 側圧が強いため装着感に難がありますが、これは元々放送現場で使われる業務用機器なのでずれにくさ等を重視してのことでしょう。遮音性や音漏れ防止が優れているため屋外での使用に向いているというメリットは側圧の強さから来ている面もありますし、安直に「側圧がもう少し弱ければ良かったのに」と考えるのはどうかと思います。

AH-D5000(3万円以上、DENON)
 これまでの3回で選んだヘッドホンはHD650、RS-1、SRS-4040です。さすがにこの価格帯になるとハイレベルでまとまっている機種が多いですが、AH-D5000はバランスの良さや癖のなさという点では他の機種に引けを取らないと思います。
 これまであまり書いたことはなかったかもしれませんが、私はAH-D5000というヘッドホンがかなり好きです。ハウジングが木製のヘッドホンは近年多数出ていますが、その中でAH-D5000は最も好きなヘッドホンの一つです。古めのものまで入れるとATH-W2002、MDR-R10、RS-1の3機種はAH-D5000と同等かそれ以上に好きですが、例えばATH-L3000、ATH-W5000、GS1000、HP-DX1000あたりよりはAH-D5000の方が好きです(所有していない機種もありますし適当ですが)。
 良い点は沢山ありますが、バランスが良く自然で癖が小さい点を挙げる人が多いのではないでしょうか。私もその点は同感なのですが、それだけかと言われるとそんなことはないと思います。AH-D5000の魅力を一つ挙げるなら、ヴォーカルの透明感があります。この点はソースや再生機器によって変わってくるので誰もが同意できるとは思いませんが、iVHA-1やHD-1Lを使って明るめの女性ヴォーカルを透明感重視で聴くなら最高レベルの魅力を持っていると思います。ヴォーカルの艶っぽさでは例えばRS-1やHD650が素晴らしいものを持っていると思いますが、AH-D5000はそれとは違うベクトルで同じくらい魅力的だと思います。
 個人的な欠点は、側圧がやや弱すぎる点です。詳しく書くと長くなるので省きますが、真面目に音作りに取り組んでいないと断言されても仕方のない欠点です。ただ、私個人が日常的に使う分には少し気をつければ特に問題はありませんし、逆にメリットも多いのでfavoriteに選びました。


 ここまで書いた後で気づいたのですが、今回選んだヘッドホンは二つのグループに分けられます。一つ目は、RP-HT560、RH-300、AH-D5000のグループで、バランスが良く比較的オールマイティーです。二つ目は、SHP8900、HD25-1のグループで、オールマイティーと言うよりは明確な得意ジャンルがあると言った方が妥当であるように感じます。
 また、今回選んだすべてのヘッドホンに共通の特徴もあります。RP-HT560のところで書いた中低域やローエンドの凹みが少ないことです(HD25-1は多少あるようにも思いますが、密閉型ヘッドホンとしては少ない方と言えるでしょう)。中低域やローエンドが凹んでいると低域の締まりや明瞭さという点では有利ですが、どうしても音源とかけ離れた低域になってしまいます。そういう意味で、今回選んだヘッドホンから私の音の好みを推測すると、低域の締まりや明瞭さよりも自然さを重視しているように思われます。確かに締まっている低域は曲によっては魅力的ですが、不自然である点はマイナスだと常々思っていました。ただ、明瞭さについては、今回選んだヘッドホンについてはどれも悪くはないので、明瞭さよりも自然さを重視しているとは言えないように思います。あえて言うなら、明瞭さと自然さの両立を重視しているようには思いますが・・・・・・ しかも、もし各価格帯1台ずつではなく2台ずつ選ぶとすると中低域やローエンドが凹んでいるヘッドホンも入ってくるので、今回中低域やローエンドの凹みが少ないヘッドホンが多かったのは偶然という気もします。
 さて、今回は久しぶりということもあって少し気合を入れて文字数多めでお送りしてみましたが、如何でしたでしょうか。個人的にはまだ他にもかなり好きなヘッドホンがあるので、もう1回くらいやっても良いかな、という印象です。ただ、そうは言ってもイントロで書いたようにあまり頻発するのもデメリットがあるので、おいおい考えたいと思います。







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