第41回 イヤーパッドの交換と音質の変化

 世に数多あるヘッドホンの中には、類似した構造をもつ機種がそれぞれいくつか存在し、それらのイヤーパッドは互換性があることもあります。今回は、その中でもULTRASONEのDJ1 PROHFI-2200ULEPROline2500PROlilne750の4機種についてイヤーパッドの交換を行い、周波数特性を測定しました。なお、今回測定に用いたヘッドホンのイヤーパッドは下記のようなものになっています。

DJ1 PRO:ビニールタイプの人工皮革。
HFI-2200ULE:ベルベット。
PROline2500:ベルベットと思われるが、HFI-2200ULEよりやや毛足が長く質感が異なる。
PROline750:一見PROline2500と同じに見えるが、PROlie2500とは異なる内部材質をベルベット素材でカバーしたもので、音の通りが異なる。

 測定は、まず初めにオリジナルのイヤーパッドを装着した状態で通常どおり1kHzが-40dBになるように測定した後、イヤーパッドを他機種のものに交換してボリューム固定のまま測定を行いました。したがって、イヤーパッドを他機種のものに交換したもののグラフでは、1kHzが-40dBになっていません。これは、1kHzでの音圧変化も含めてイヤーパッド交換による変化を見るためです。また、イヤーパッドの交換およびセッティングには細心の注意を払いましたが、ヘッドホンを一度測定装置から外す必要があるため、どうしても誤差が増えます。セッティング方法をいくつもの点について固定することにより誤差は小さくなりましたが、測定結果は誤差を含んでいることを念頭に置いて下さい。また、イヤーパッドはハウジング外周部の5箇所の凹凸で固定する構造になっていますが、このうち一つでも外れているだけでかなり測定結果が変わりました。したがって、イヤーパッド交換時には5箇所すべてが間違いなくロックされていることを確認するだけでなく、ロック時にはなるべく一定の強さ・位置で固定するように留意しました。

a.本体固定でイヤーパッドによる違いを考察
 オリジナルのイヤーパッドを装着したものを比較ベースに、イヤーパッドの交換による変化を見やすいように測定結果をまとめてみました。
イヤーパッド
DJ1 PRO HFI-2200ULE PROline2500 PROline750
本体 DJ1 PRO
HFI-2200ULE
PROline2500
PROline750
 まず、今回とりあげた4機種は二つのグループに分けることができます。一つはDJ1 PROとPROline750の密閉型グループ、もう一つはHFI-2200ULEとPROline2500の開放型グループです。少し意外に感じられるかもしれませんが、外観の似ているPROline2500とPROline750は、測定結果から分類すると異なるグループに属します。
 密閉型グループはイヤーパッドの密封度で低域の量をかせいでいる面があり、開放型のイヤーパッドに交換すると明らかに低域(ここでは20Hz〜1kHz程度)の量が減少します。逆に開放型グループは音が抜けるのを前提に作られているようで、密閉型のイヤーパッドに交換すると明らかに低域の量が増えます。
 同じ密閉型どうしだと、DJ1 PROにPROline750のイヤーパッドを装着した場合でもPROline750にDJ1 PROのイヤーパッドを装着した場合でも、低域の量はほとんど変わりません。それどころか、高域まで見渡してもかなり近い結果になっています。
 開放型どうしでも同様で、全帯域に渡ってかなり近い結果です。
 DJ1PROとPROline750のイヤーパッドはかなり外観が違いますし、HFI-2200ULEとPROline2500も多少違います。このことから、イヤーパッドの表面の質感は、周波数特性にあまり大きな影響を与えないということが分かります。
 上のまとめ表を音質改善の参考にすることも可能です。例えばDJ1 PROの低域の量がデフォルトでは多すぎると感じるのなら、開放型のイヤーパッドを使用すればかなり減るでしょう。さすがにPROline2500では減りすぎだと感じるなら、HFI-2200ULEのものが適当かもしれません。ただし、いずれにせよ4〜7kHzのディップがなくなるため、DJ1 PRO特有の尖った高域も失われると思われます。

b.イヤーパッド固定で本体による違いを考察
 aとは逆に、イヤーパッドを比較ベースにして、本体による違いが見やすいようにまとめました。
本体
DJ1 PRO HFI-2200ULE PROline2500 PROline750
イヤーパッド DJ1 PRO
HFI-2200ULE
PROline2500
PROline750
 グループ分けはaと同様で、密閉型と開放型という分け方が適切に思えます。イヤーパッドが密閉型グループの場合、本体が開放型だと低域の量が明らかに増えます。逆にイヤーパッドが開放型グループの場合、本体が密閉型だと低域の量が減ります。また、イヤーパッドが同じであっても、本体が密閉型であれば低域(ここでは300Hz前後)に減衰が見られ、開放型であれば減衰は見られない点も興味深いです。
 同じ密閉型どうしだと、PROline750にDJ1 PROのイヤーパッドを装着した場合DJ1 PROより低域の量がやや多く、逆にDJ1 PROにPROline750のイヤーパッドを装着した場合PROline750より低域の量がやや少ないことから、DJ1 PROとPROline750の本体を比べた場合DJ1 PROの方が低域の量が少ないことが分かります。また、PROline750にDJ1 PROのイヤーパッドを装着した場合、DJ1 PROと比べて高域のディップが小さいことから、DJ1 PROの高域のディップはイヤーパッドではなく本体に由来するものであると推測されます。ただ、逆にDJ1 PROにPROline750のイヤーパッドを装着した場合にはディップはかなり目立たなくなっているので、DJ1 PRO本体とイヤーパッドの相性でディップが発生しているのかもしれません。
 開放型どうしだと、PROline2500にHFI-2200ULEのイヤーパッドを装着した場合、HFI-2200ULEと低域の量はほとんど変わりませんし、HFI-2200ULEにPROline2500のイヤーパッドを装着した場合も同様です。したがって、HFI-2200ULEとPROline2500の本体のみでの低域の量はほとんど同じであることが分かります。高域についても傾向は近いようですが、多少の違いはあるようです。

 以上、今回の測定結果とあわせて考えたことをいくつか書いてみました。ところで、今回私が一番言いたかったのは、実はULTRASONEのヘッドホンのイヤーパッドを交換することによって音質を調整する方法ではありません。もっと広い目で、音を聴いたことのないヘッドホンを見たときに、その音質を推測するのに役立ててもらいたかったのです。例えば、密閉型と開放型は根本的に違うものであること、イヤーパッドの表面の材質はその内部の材質と比べて周波数特性に与える影響が小さいこと等の知見がそれに当たります。
 ヘッドホンの音質はあらゆる要素によって変わりますが、その中でイヤーパッドの占めるウェイトは決して小さくありません。それと同様、イヤーパッドでは変えようのない部分もあります。ヘッドホンにある程度詳しい人は、人それぞれ「こういう構造のヘッドホンはこういう音がする」というような経験則を持っていると思いますが、今回の内容がその経験則を手助けするものになれば幸いです。







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