第12回 耳のせ開放型比較
Form2、HFI-15G、K24P、PortaPro、PX100。
今回は、使いどころに困る耳のせ開放型特集です。需要が少なそうですね・・・
用途としては、人通りの少ない道を歩くときや、屋内で長時間使用するときに使うのがメインなのでしょうか? 私は屋内で長時間聴くときや、耳覆いで聴き疲れしたとき、音の抜けが楽しみたいときなんかに使っています。音質的に耳覆いのものより劣るという印象を持っている人が多いと思いますが、今回取り上げる機種はそんなことはないと思います。むしろ音の抜けを求める人には積極的におすすめします。騙されたと思って使ってみてください。
なお、特集と言ってもこのタイプのもので音楽鑑賞に適している機種はかなり限られているようです。また、何故か海外のものが多いようです。今回取り上げる機種のメーカーはデンマーク(Form2)、ドイツ(HFI-15G、PX100)、オーストリア(K24P)、アメリカ(PortaPro)となっています。
比較項目は、若干いじってありますが、基本的にはこれまでと同じです。
・周波数特性
平均が3になるように5段階で表示しています。
超低域 | 低域 | 中域 | 高域 | 超高域 | |
Form2 | 3 | 3 | 4 | 3 | 2 |
HFI-15G | 4 | 4 | 3 | 2 | 2 |
K24P | 4 | 3 | 2 | 3 | 3 |
PortaPro | 4 | 4 | 2 | 3 | 2 |
PX100 | 4 | 4 | 3 | 2 | 2 |
・分解能
K24P≧Form2≧PX100≧PortaPro≧HFI-15G
あまり大きな差はないように感じます。K24Pはわりと線の細い音で、しかも全音域綺麗に聴こえることもありかなり分解能が良く感じます。Form2は一聴してK24Pのように線が細いように感じますが、かなり粗があり、しかもかなりのかまぼこなので中域以外が厳しいです。PX100は低域が支配的なため、分解能が悪い印象を受けますが、実はそれなりのものを持っています。PortaProも悪くはないのですが、低域が出すぎな上K24PやForm2より太い音なので、どうしても分解能は劣ります。HFI-15GはPX100同様低域が支配的なのに加えて、音がやや太めなため分解能は悪いです。
・音場の明確さ
HFI-15G≧PX100≧K24P≧Form2≧PortaPro
耳覆いのものと比べるとどうしても音場の広さ・明確さともに劣ります。正直言って、この順位はどんぐりの背比べです。HFI-15GとPX100は音場は一応ある、PortaProはほとんど感じられないレベルです。
・聴きやすさ
HFI-15G≧PX100≧PortaPro≧K24P≧Form2
どの機種もエッジはきつくなく、かなり聴きやすいレベルです。
HFI-15Gは非常にマイルドな上に低域がいい感じに痛さを消してくれています。PX100もかなり聴きやすいですが、ソースによってはサ行の音等がやや痛いです。PortaProは音が太めでやや丸みがあるため聴きやすいです。K24PはPortaProとほぼ同等ですが、線が細く高域が出る分聴き疲れします。Form2は中域がきつく、ソースのノイズを意外と拾うため今回の5機種の中では最も聴き疲れします。
・原音忠実性
Form2≧K24P≧PX100≧HFI-15G≧PortaPro
かなり傾向が違うので一概に原音に近いのはどれかというのは判断しにくいのですが、原音の生っぽさや粗っぽさはForm2が最もあるように感じます。K24Pは繊細さはあるのですが、生っぽさはあまり感じられません。PX100とHFI-15Gも同様ですが、さらに音を丸めています。PortaProはかなり味付けされていると感じます。
・温かみ
PX100≧HFI-15G≧PortaPro≧K24P>Form2
PX100は低音よりで音に丸みがあり、温かいを通り越して暑苦しいくらいです。HFI-15GはかなりPX100に近いですが、やや繊細さに欠けるために温かみでも劣るように感じます。PortaProは上位2機種と比べて高域も出る上、若干刺激的な音なので温かみという意味ではやや劣ります。K24Pは十分温かみがあるのですが、上位2機種と比べるとやや劣ります。劣りますが、これくらいの方が丁度良いと言う人も多そうです。Form2は低域が出ない上かすんだような音で、温かみに欠けます。
・明瞭さ
K24P≧Form2≧PortaPro≧PX100≧HFI-15G
K24Pは音域傾向、分解能、音の粒の細かさ等から総合的に見て最も明瞭です。Form2は低域が出ない上それなりに繊細ですが、ややかすんでいるため明瞭さではK24Pには劣る感じです。PortaProは低域が強いわりにはかなり明瞭と言えますが、上位2機種よりは劣ります。PX100とHFI-15Gは低域が支配的で音に丸みがあるため明瞭さに欠けます。
・ノリの良さ
PortaPro≧K24P≧PX100≧HFI-15G≧Form2
PortaProは低域が出るだけでなく中域〜高域にかけて意外と切れが良く、スピード感があるため非常にノリが良いです。K24Pも負けていませんが、低域が弱く音が細い分やや劣る感じです。PX100とHFI-15Gは高域が出ないことと切れが悪いことから上位2機種よりかなりノリが悪いです。Form2は音そのものはわりとシャキッとしているのですが、低域も高域も不足しているためかなりノリが悪いです。
・弦楽器の表現
PX100≧HFI-15G≧K24P≧PortaPro≧Form2
PX100は低域が出すぎな感はありますが、それにしても繊細で温かみがありなかなか魅力的です。HFI-15GはPX100とかなり近いですが、やや大味で伸びも悪いです。K24Pは上位2機種より生っぽさや澄んだ感じはあるのですが、心地よく聴けるかという意味では劣ります。PortaProは低域が響きすぎで、繊細さに欠けます。Form2は生の粗のようなものはわりと感じられますが、伸びも響きも悪く、スカスカに感じます。
・金管楽器の表現
K24P≧PortaPro≧PX100≧HFI-15G≧Form2
K24Pは素晴らしいです。芯が通っていてしかも繊細さもあり、響きも十分です。PortaProも意外と良いのですが、K24Pと比べると鮮やかさが足りません。PX100とHFI-15Gとは低音よりのわりには意外と良い音を鳴らすといった感じです。Form2もそれほど悪くないですが、やはりかまぼこなので低域も高域も不足に感じられます。
・打ち込み系の音の表現
K24P≧PortaPro≧Form2≧PX100≧HFI-15G
K24Pはシャキシャキした感触が楽しく、低域も高域も十分で非常に相性が良いです。PortaProも悪くないですが、K24Pと比べるとどうしても高域が足りないです。Form2は音そのものは意外と相性良いと思いますが、低域も高域も不足で、鳴り方も上品過ぎます。PX100とHFI-15Gは高域が不足の上、音に丸みがありノリもいまいち良くないのでかなり相性が悪いです。
・ヴォーカルの艶っぽさ
PX100≧HFI-15G≧PortaPro≧K24P≧Form2
Form2以外は艶っぽいと言って良いレベルだと思います。上位3機種にはそれほど大きな差はありません。ヴォーカルの長所をあげるならPX100とHFI-15Gは温かみ、PortaProは勢い、K24Pは繊細さだと思います。
・側圧の弱さ
PX100≧HFI-15G≧Form2≧PortaPro≧K24P
PX100はかなり側圧が弱めです。HFI-15GはPX100ほどではないですが、やや弱めです。下位3機種はどれも普通からやや強めといった感じです。基本的にはそれほど気にならないレベルだと思います。耳のせということもあるでしょうが。
・耳への負担の小ささ
Form2≧PX100≧HFI-15G≧PortaPro≧K24P
Form2はイヤーパッドのサイズが非常に小さいため耳への負担も小さくなっています。PX100とPortaProは、イヤーパッドの大きさはほとんど同じなのですが、側圧が弱い分PX100の方が楽です。HFI-15Gはイヤーパッドは大きいのですが、側圧は弱めで耳への負担という意味では丁度PX100とPortaProの間といった感じです。K24Pはイヤーパッドが最も大きい上、側圧も強めで耳への負担が大きいです。
・頭頂部への負担の小ささ
PX100≧HFI-15G≧Form2≧PortaPro≧K24P
今回の機種はどれも軽量なので、頭頂部への負担はあまり大きくありません。
PX100は頭頂部を避ける形でクッションが付いており、非常に負担が小さいです。HFI-15Gはしっかりクッションが付いているため楽です。Form2は剥き出しのプラスチックがもろに頭頂部を圧迫します。ただし、軽量で側圧もそれなりにあるので、特に痛いわけではありません。PortaProは頭の大きい人はヘッドバンドを伸ばしきった状態で装着することになるため、頭頂部にストッパーが当たりかなり痛いかもしれません。K24Pの方がヘッドバンドの長さに余裕があるため、そういう事態は避けられると思いますが、ストッパーが出っ張っている分痛いです。
・頭部への接触面積
Form2≧HFI-15G≧PX100>K24P≒PortaPro
Form2はヘッドバンドがそのまま当たるため面積は最も広いです。HFI-15Gはクッションが付いている分Form2よりは狭いです。PX100は頭頂部を避ける形で2箇所にしっかりしたクッションが付いていて、それがあたります。K24PとPortaProはストッパーの四角形の部品×2個が頭部に当たる形になりますが、PortaProの方はK24Pと違ってクッションが付いていないため金属のヘッドバンドも頭に当たる人もいるかもしれません。
・イヤーパッドの材質の肌触り
Form2≒K24P≒PortaPro≒PX100≧HFI-15G
HFI-15Gはややザラザラした布製、それ以外は普通のスポンジです。スポンジのものはGRADO等と違ってザラザラしておらず、肌触りが良いです。
・ずれにくさ
K24P≒PortaPro≧HFI-15G≧PX100≧Form2
K24PとPortaProは構造も良く似ている上側圧がやや強めなところも似ており、どちらも同じくらいずれにくいです。HFI-15Gは上位2機種より側圧が弱いためずれやすいです。PX100はHFI-15Gより更に側圧が弱い上、頭部への接触面積が狭いためずれやすいです。Form2はイヤーパッドが小さい上ヘッドバンドが剥き出しのプラスチックなので、今回取り上げた機種の中では最もずれやすいですが、それでもかなりずれにくい部類に入ります。真上や真下を向かなければほとんどずれません。
・蒸れにくさ
Form2≧PortaPro≒PX100≧K24P≧HFI-15G
どれも非常に蒸れにくいのでこの比較はほとんど無意味ですが、あえて順位をつけるとこのようになります。これはイヤーパッドの小さい順になっています。
・イヤーパッドのサイズ
Form2:40mm×48mm
HFI-15G:φ72mm
K24P:φ58mm
PortaPro:φ50mm
PX100:φ50mm
Form2は長方形、他は円形です。個人差はあると思いますが、普通のサイズの耳の人はForm2は耳からはみ出さないサイズ、HFI-15GとK24Pは耳からはみ出すサイズになると思います。
簡単にまとめてみます。
Form2:
価格分の価値はないと思われます。発売されてからだいぶ経っているせいもあると思いますが、インテリアとしての価値以上を求める人にはあまりおすすめできません。やや粗はありますが、上品な音を好む人にはわりと合うと思います。
HFI-15G:
PX100とかなり近いです。耳のせは音場感を求めるものではないと思いますが、少しでも音場感の良いものが欲しいならおすすめです。
K24P:
コストパフォーマンス抜群です。今回取り上げた機種の中で最も安価ですが、これ一台で何でも聴きたいという人には最もおすすめです。
PortaPro:
ノリの良さ重視なら、耳覆いのものを含めてもこれ以上の機種はそうないです。それでいて分解能等の基本性能も価格分の価値はあります。
PX100:
SENNHEISERの低域が好きな人にはおすすめですが、そうでない人にはぬるすぎると思います。弦楽器をまったり聴きたいときやヴォーカルに浸りたいとき等には良いです。
耳のせ開放型特集、如何でしたでしょうか?
使いどころにはやや困りますが、普通の耳覆い型のヘッドホンを幾つか持っている人が違う傾向のものを求めるなら、非常に有力な選択肢の一つだと思います。比較的安価なものが多いので、偏見を捨てて購入を検討してみてはどうでしょうか。
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