第9回 予算2万円の開放型ヘッドホン比較

 ATH-AD700K501HD595HP1000MDR-F1SE-A1000
 これを見て「・・・微妙・・・」と思ったソコの貴方、鋭い! 鋭いですが、今回の内容を読む意味はないかもしれません。何故なら既にこれらの機種について十分知っている可能性が高いからです。
 今回はそんな約2万円以下で買える開放型の特集です。初めて1万円以上のヘッドホンを買おうと思っている方には是非とも参考にしてもらいたいと思います。
 初めにお断りしておきますが、予算2万円とは言っても店によって1万円〜3万円くらいの幅があります。実売価格で話をしているので、そのあたりはどうしてもアバウトになってしまいます。ご了承ください。
 また、初っ端から「・・・微妙・・・」などと書いてしまいましたが、それは前回の高級機と比較したらの話です。今回取り上げるヘッドホンも、価格を考えれば悪くない機種が多いです。
 比較の方法ですが、せっかくなので前回と同じ項目に分けて比較します。


・周波数特性
 前回同様、平均が3になるように5段階で表示しています。

超低域 低域 中域 高域 超高域
ATH-AD700 2 2 3 4 4
K501 1 3 3 4 4
HD595 4 4 3 2 2
HP1000 4 3 2 3 3
MDR-F1 3 4 3 3 2
SE-A1000 4 3 2 4 2


・分解能
K501≧HD595≧HP1000≧ATH-AD700≧SE-A1000>MDR-F1
 K501は分解能が高いだけでなく、音の粒が細かく低域が弱いため非常に良く感じます。HD595はSENNHEISERの上位機種よりは劣る感じですが、それでも低域が弱めで全体的には負けていません。HP1000は超低域がやや出すぎで分解能の良さを妨げている感がありますが、それでもなかなか良いです。ATH-AD700は線が細い感じで悪くないのですが、沢山の音が重なるとあまり分かれて聴こえてきません。SE-A1000はHP1000と同様超低域が邪魔している上、音を丸めていてややぼやけているように感じます。MDR-F1は塗り潰したように情報が消されており、かなり悪いです。

・音場の明確さ
HD595≧HP1000≧K501≧ATH-AD700≧SE-A1000≧MDR-F1
 上位3機種はかなり近いです。明確と言っていいと思います。ATH-AD700にしてもそれほど劣っているわけではありません。SE-A1000は音が耳の近くで鳴っているため分かりづらくなってしまっています。MDR-F1は最低限のレベルです。

・聴きやすさ
HD595≧MDR-F1≧SE-A1000≧ATH-AD700≧K501≧HP1000
 HD595は高域がやや弱めで音に丸みがあり、長時間聴いてもまったく疲れません。MDR-F1は分解能の悪さが聴きやすさに直結しています。SE-A1000はHD595とはまた違った音の丸め方をしていて、繊細さを持ちながら聴きやすい音になっています。ATH-AD700は音が細くエッジもややきつめで、ソースによってはかなり疲れます。K501は原音の粗や生っぽさを残すためにどうしてもやや聴き疲れする音作りになっています。HP1000は低域・高域ともに刺激的な部分がありますが、どんなソースでもそこそこ鳴らしますし、聴き疲れしないソースであれば許容範囲です。どの機種も聴き疲れしやすいとは言えないレベルだと思います。

・原音忠実性
K501≧HD595≧ATH-AD700≧HP1000≧SE-A1000≧MDR-F1
 このクラスの機種は原音忠実性がいまいちのものが多いですが、K501は非常に良いと思います。逆に言うと他の機種は何らかの色付けがされています。
 ほとんどの機種は個性として楽しめる範囲だと思いましたが、MDR-F1だけは聴きやすさ最優先でしかもSONYの癖が強く出ていてあまりおすすめできる音ではないと感じました。
 ちなみに他の機種を色付けという点から見ると、HD595は温かみと聴きやすさ、ATH-AD700は明瞭さと繊細さ、HP1000は刺激とウォームさ、SE-A1000は聴きやすさと迫力、という感じかと思います。もっとも、これは色付けではなくただのメーカーの癖の部分もありますが。

・温かみ
HP1000≧HD595≧SE-A1000≧ATH-AD700≧K501≧MDR-F1
 HP1000は全音域に渡って人肌のぬくもりを感じます。それでいて刺激的な部分を残しているのだから凄いです。HD595もかなり温かみがあるのですが、厚みで負けている印象です。SE-A1000は温かみと言うよりは単に低域を強めにして音を丸めたら結果的に温かみもそこそこいい線行ったという感じです。ATH-AD700は低域が不足気味で音もシャープなので温かみはあまり感じられません。K501はそれをより顕著にした感じです。MDR-F1は低域は十分出るし音の厚みもあるのですが、ウォームとは正反対の音調で、どちらかと言えば冷たさを感じます。

・明瞭さ
K501≧ATH-AD700≧HD595≧HP1000≧SE-A1000≧MDR-F1
 K501は分解能が高く、高音よりでしかも低音がタイトなため、非常に明瞭です。ATH-AD700も似た傾向ですが、K501より超低域がかなり出る上に分解能で劣っているので、どうしても明瞭さも負けます。HD595はSENNHEISERの中では低域が全体的に弱めで、しかも高域の曇りもないためかなり明瞭です。HP1000は高域はしっかり聴こえるものの低域がかなり前面に出ていてやや明瞭さには欠けます。SE-A1000はHP1000といい勝負ですが、音が丸まっている分明瞭さが足りません。MDR-F1は明瞭と言えば明瞭なのですが、分解能が圧倒的に足りないためどうしようもないといった印象です。

・ノリの良さ
SE-A1000≧HP1000≧HD595≧MDR-F1≧ATH-AD700≧K501
 SE-A1000はエッジはきつくないですし、音の立ち上がりもそこそこで、響きが豊かなのですが、それでも迫力でノリの良さを獲得しています。HP1000はエッジはきつめなのですが、低域の厚みが不足気味なのとウォームさによりSE-A1000よりはややノリが悪く感じます。HD595は丁度ノリの良さと繊細さを両立させていると言った感じです。ノリが良いというには切れがなく、ぬるい印象です。MDR-F1はそれなりに芯が通った音で低音も十分なのですが、鮮やかさがなくいまいちノリ切れないといった感じです。ATH-AD700は全体的に音が細く迫力が足りません。K501は低域が不足しているだけでなく音の立ち上がりが遅くスピード感が不足しています。

・弦楽器の表現
K501≧HD595≧HP1000≧SE-A1000≧ATH-AD700≧MDR-F1
 K501は低域の伸びはいまいちですが、原音に近く中高域の繊細さは抜群です。逆にHD595は低域の伸びはなかなか良いですが、中高域の繊細さではK501に劣ります。伸びにしてもSENNHEISERの中ではいまいちの部類に入るでしょう。HP1000は基本的には良いのですが低域がやや出すぎです。SE-A1000は高域の繊細さが不足で、低域がでしゃばりすぎです。ソースによっては密閉型のようなこもり感を感じます。ATH-AD700は線が細く繊細さはあるのですが温かみが感じられない音です。MDR-F1は生楽器か否かの判別さえ難しいです。

・金管楽器の表現
K501≧SE-A1000≧ATH-AD700≧HP1000≧HD595≧MDR-F1
 K501は低域の迫力が足りませんが、中高音は非常に良いです。SE-A1000は原音からやや離れているものの楽しめる音になっています。ATH-AD700は全体的に線が細く迫力にはやや欠けますが、なかなか鮮やかな音です。HP1000は低域が強いにもかかわらず非常に良く聴こえてきます。ホルンのふくよかさ等を考えると最も良いと感じる人もいるかもしれません。HD595はSENNHEISERの他の機種と比べてかなり高い音で、美しいのですがおとなしすぎる気がします。MDR-F1はそれなりに濃い音ですが、繊細さがまったく足りません。

・打ち込み系の音の表現
ATH-AD700≧HD595≧SE-A1000≧HP1000≧K501≧MDR-F1
 厚みのある低音はないですし、音が細すぎるきらいはありますが、それでもなおATH-AD700が最も良いように感じます。これは他の機種があまり良くないせいもあるかもしれませんが。HD595はSENNHEISERの中では打ち込み系の音と相性がかなり良いと思います。SE-A1000は芯の通った感じが不足していますが、それ以外はなかなか良いです。HP1000はウォーム過ぎるという一言に尽きます。K501は音そのものは切れが良くなかなか良いのですが、低域不足と繊細すぎる部分がいまいちに感じます。MDR-F1は他のジャンルと同じで音に鮮やかさが足りません。

・ヴォーカルの艶っぽさ
HP1000≧HD595≧SE-A1000≧ATH-AD700≧K501≧MDR-F1
 HP1000は水気があり非常に良いです。HD595もなかなか良いですが、HP1000と比べると水気が足りない気がします。SE-A1000はサラサラした感触が楽しめますが、芯が通っていません。ATH-AD700は癖がなくそれなりといった感じです。K501は声が硬く聴こえ、艶っぽいとは言えません。MDR-F1は繊細さがまったく感じられません。

・側圧の弱さ
MDR-F1≧ATH-AD700≧HD595≧SE-A1000≧HP1000>K501
 MDR-F1はかなり弱いレベルです。軽量さ、滑りにくい材質、フィットする構造があっての側圧の弱さだと思います。そうでなければこの側圧ではもっとずれやすくなっていたでしょう。ATH-AD700、HD595、HP1000、SE-A1000はどれも普通よりは弱めのレベルだと思います。少なくとも痛くなるほど押さえつけられるということはないと思います。K501だけはやや強めに感じましたが、それほど苦にははなりません。

・耳への負担の小ささ
MDR-F1≧K501≧SE-A1000≧HD595≧HP1000>ATH-AD700
 MDR-F1はほとんど耳がフリーになります。K501もほぼ同様です。SE-A1000はK501よりやや浅いため耳の外側が当たります。HD595とHP1000についても極一部耳が触れるという程度だと思います。ATH-AD700だけはイヤーパッドが浅いためかなり耳への負担が大きいと感じました。

・頭頂部への負担の小ささ
ATH-AD700≧HP1000>MDR-F1≧HD595≧SE-A1000>K501
 ATH-AD700とHP1000はいずれも頭頂部をおさえない作りになっていますが、ATH-AD700の方が軽いためやや負担は小さいと感じました。MDR-F1、SE-A1000、K501はフリーアジャストのヘッドバンドで、圧力の順になっています。

・頭部への接触面積
K501≒SE-A1000≒MDR-F1≧HD595≧ATH-AD700≒HP1000
 K501、SE-A1000、MDR-F1はフリーアジャストのヘッドバンド、HD595はクッション付きのヘッドバンド、ATH-AD700はウイングサポート、HP1000はATH-AD700とほぼ同面積のウイングサポート状のクッションが付いたヘッドバンドです。
 接触の仕方が様々で、ATH-AD700とHP1000だけは接触面積がやや小さくなっています。

・イヤーパッドの材質の肌触り
HD595≧K501≒SE-A1000≧MDR-F1≧HP1000>ATH-AD700
 HD595、HP1000、ATH-AD700は布製ですが、HD595はサラサラ、HP1000はフカフカ、ATH-AD700はザラザラという感じです。K501とSE-A1000はサラサラしたジャージ素材、MDR-F1はエクセーヌです。人によって好みは分かれるでしょうし、どれもかなり心地よいのですが、ATH-AD700だけはすこし気になりました。

・ずれにくさ
MDR-F1≧ATH-AD700≧HP1000≧K501≧HD595≧SE-A1000
 どの機種も不満はありませんが、あえて順番をつけるなら大体こんな感じになります。
 MDR-F1は側圧とヘッドバンドの圧力で軽くおさえているだけですが、軽量でイヤーパッドとヘッドバンドの材質がずれにくい材質のため、ほとんどずれません。ATH-AD700はイヤーパッドが大きく滑りにくいこと、ウイングサポートが押さえていることからかなりずれにくいです。HP1000もATH-AD700とほぼ同様なのですが、ウイングサポート状のヘッドバンドがほとんど頭を押さえないことと重量が重めであることから若干ずれやすいようです。K501は側圧とヘッドバンドの圧力がかなり強く、重量も重くないのですが、ヘッドバンドが滑りやすい材質だったりヘッドバンドの圧力が強すぎてうまく装着しないとずれやすくなってしまうようです。HD595は側圧がかなり弱くヘッドバンドが滑りやすいためずれやすいですが、真上を向いたりしなければ大丈夫なレベルです。SE-A1000はイヤーパッドが大きいせいで側圧が均等にかからず、それが原因で少しずれるという印象です。

・蒸れにくさ
MDR-F1>SE-A1000≒K501>ATH-AD700≧HD595>HP1000
 これはフルオープンでしかもイヤーパッドがエクセーヌのMDR-F1が文句なしのトップです。SE-A1000とK501はいずれもサラサラしたジャージ素材で、ハウジングの通気性もかなり似ています。ATH-AD700以下はすべて布製ですが、肌触りと通気性がかなり差があります。HP1000は開放型としては非常に蒸れる部類に入るでしょう。蒸れると言うよりはイヤーパッドが接している部分が暑いと言ったほうが的確かもしれませんが。

・イヤーパッドの内周のサイズ
ATH-AD700:45mm×55mm
K501:60mm×60mm
HD595:40mm×70mm
HP1000:40mm×58mm
MDR-F1:65mm×65mm
SE-A1000:60mm×60mm
 ATH-AD700とSE-A1000は内周のサイズよりも深さが浅いことの方が問題だと思います。


 以上、簡単にまとめてみます。

ATH-AD700:
audio-technicaらしくポップスが得意ですが、わりと繊細でクラシック向きです。
K501:
クラシック以外には使えないです。
HD595:
今回の機種の中で最も完成度が高いですが、やや刺激に欠けます。
HP1000:
超低域がやや出すぎで、高域は癖があります。しかしそれでもなお瑞々しく魅力的な音楽を聴かせてくれます。
MDR-F1:
音楽を楽しむのに致命的なものが欠けているように感じてなりません。情報量が少なく、情感ゼロです。
SE-A1000:
耳の近くで音が鳴っている感じが気にならない人には非常におすすめです。原音忠実とは違った路線ですが、なかなか楽しめます。

 この価格帯の機種は音質・装着感ともにかなりばらつきがあると思います。その個性を楽しむと言う意味で、前回の高級ヘッドホンとはまた違った楽しみがあります。その違いを楽しむのに、今回の内容が少しでもお役に立てば幸いです。
 それでは今回はこの辺で。







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