第23回 Sour Times/Portishead「Dummy」より
Portisheadはイギリスのグループです。ジャンルとしてはトリップホップやエレクトロニカになるようです。メンバーはヴォーカル、ギター、コンポーザーです。
今回取り上げるのは1994年発表の1stアルバム「Dummy」の2曲目です。けだるい感じの女性ヴォーカルが印象的です。テンポが遅く、刺激的な音はほとんど鳴らしません。全体の雰囲気は退廃的と言うのがしっくりきます。
「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、「ダークな雰囲気重視でお願いします」とのことです。ダークな雰囲気を出してくれるヘッドホンとはどういう音なのかを考えると、周波数特性が右肩下がり、柔らかい音、切れが悪い、といった傾向があると思います。とは言え、それだけで決まるものでもないので、そういった条件を考慮しつつ実際に聴いてみて探していきたいと思います。
・1台目 HD435(SENNHEISER)
前述の条件を最も満たしているように感じたので選びました。周波数特性が右肩下がり、柔らかい音、切れが悪い、どの点についてもある程度満たしていると思います。そういう理屈を抜きで聴いても、ダークな雰囲気がしっかり感じられます。周波数特性が右肩下がりと書きましたが、今回の曲は高域があまり含まれていないので実質的には低域から中域にかけて右肩下がりであることが重要な印象です。
他にはDT231PRO、HFI-15G、HGP-755、HP-RX900、MDR-XB700等で聴いてみました。DT231PROとHFI-15Gは最後までHD435と迷いましたが、若干低域の量が少なく中域がクリアに聴こえてくるせいでダークな雰囲気という意味では見劣りする印象だったので外しました。HGP-755は低域と中域が繋がっていないような感じで中域がクリアに聴こえてくるせいであまりダークな雰囲気が出ませんし、違和感があります。HP-RX900はHD435と比べると前述の条件すべてにおいて見劣りします。MDR-XB700は悪くないのですが、HD435と比べると付帯音が少ないせいか重苦しい感じや退廃的な感じが出ません。
不満点は特にありませんが、全体のバランスを考えると低域が多すぎる気もします。
・2台目 T50RP(FOSTEX)
1台目と比べて低域が少ないですし、また違った方向性でダークな雰囲気を出してくれるように感じたので選びました。T50RPは周波数特性が右肩下がりかと言うとそれほどでもありませんが、あまり硬い音ではなく切れも良くありません。うっすら曇っていて生気やメリハリに欠けるという意味で退廃的な感じを良く出してくれます。ダークな雰囲気という意味ではどちらが上か微妙なところですが、退廃的ということなら1台目よりT50RPの方が上だと思います。ヴォーカルは厚みが薄く独特な質で、人によっては非常に魅力的に感じられると思います。
他にはc-JAYS、DTX900、MUSIC SERIES ONE、SRH840、SW-HP10等で聴いてみました。c-JAYSは悪くないのですが、1台目と比べると付帯音が少ない分さっぱりしている感じでダークな雰囲気が出ないような気がします。DTX900とMUSIC SERIES ONEもc-JAYS同様悪くないのですが、1台目と比べるとやや明るくメリハリがあるためダークな雰囲気が出ません。SRH840とSW-HP10は一つ一つの音がくっきりはっきり聴こえてくるため重苦しい感じや退廃的な感じが出ません。
不満点は特にありませんが、1台目と2台目が違った感じでダークな雰囲気を出してくれたように、3台目以降もそういう点に期待しつつ聴いていきたい思います。
・3台目 HD650(SENNHEISER)
最初に書いた条件をしっかり満たしているように感じたので選びました。1台目と2台目であれば、明らかに1台目に近い傾向です。1台目の音場を広くして、過剰な低域を抑えバランスを整えたような音です。それでいてダークな雰囲気は同じくらいしっかりと感じられます。また、今回の曲は(おそらく意図的に)ザラザラとしたノイズがところどころ入っているのですが、HD650はそのノイズが比較的気になりにくく、総合的に見てかなり聴き疲れしにくいです。ノイズが目立った方が良いという聴き方もあるでしょうが、今回の曲はそこまでノイズっぽさを求めるような感じではないと思いますし、HD650の聴き疲れのなさはどちらかと言うと長所だと思います。
不満点は特にありません。次は色々聴いてみて選ぶしかないと思います。
・4台目 EXH-313(Audio Interu)
3台目が1台目と似た傾向だとすると、EXH-313は2台目と似た傾向です。低域の量は少なめですが、硬い音ではなく切れも良くありませんし、うっすら曇っていて生気やメリハリに欠けるという意味で退廃的な感じを良く出してくれます。ヴォーカルの独特な質までもが比較的似ています。2台目の方がやや中低域の量が多いのでより暗く曇っているように感じられる面はありますが、音の分離や一つ一つの音の微細な描写が不満なようであればこちらの方が良いと思います。
他にはBose on-ear headphones、DT990PRO、MDR-7509HD、PRO900等で聴いてみました。Bose on-ear headphonesは悪くないのですが、MDR-XB700と似たような感じで付帯音が少ないせいか重苦しい感じや退廃的な感じが出ません。DT990PROはこれはこれで魅力的なのですが、3台目と比べると中域が低域の曇りに覆われずクリアに聴こえてくる上にエッジがきついため、ダークな雰囲気という意味ではいまひとつで聴き疲れもしやすいです。MDR-7509HDは4台目と比較的似た傾向ですが、若干メリハリがあり一つ一つの音がくっきりはっきり聴こえてくるため重苦しい感じや退廃的な感じが出ません。PRO900は低域がしっかり出るという意味では3台目以上なのですが、どうしても迫力や力強さが前面に出てきてしまってダークな雰囲気という感じではありません。
・5台目 IE8(SENNHEISER)
最初に書いた条件をしっかり満たしているように感じたので選びました。他にはヴォーカルがきめ細かい、聴き疲れが少ない、全体的にまとまりがあるといった点も長所だと思います。色々と聴いてみたのですが、HP-TWF11Rはどうしても迫力や力強さが前面に出てきてしまってダークな雰囲気という感じではない、Super.fi 5 ProはIE8と比べると低域が少なくまとまりに欠ける、Westone3はIE8と比べると音色が明るい等の不満がありました。
他にはHP-RLF11とS1110が良かったです。どちらもダークな雰囲気という点ではなかなか良いですが、音色の自然さやまとまりといった点ではIE8に比べると見劣りします。HP-RLF11はヴォーカルのきめ細かさがIE8に近い印象です。
今回は大きく分けると二つのパターンがあったように思います。一つは1台目と3台目のグループ、もう一つは2台目と4台目のグループです。前者が最初に書いた条件を満たす傾向で比較的万人向け、後者の方がレアで人を選ぶ、という印象です。
ヘッドホンアンプはHD-1L Limited Edition(RC1)が良いと思います。HD53やhpa200b(ハイエンド仕様)のような冷たさや明るさがないためダークな雰囲気が出ます。HD-1L Limited Edition(RC1)では音が締まりすぎていると感じるならAT-HA2002も良いと思います。使用するヘッドホンによってはHA-1Aも良いでしょうが、ノイズが酷かったり低域過剰になったりする恐れがあるので注意が必要です。
今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。
試聴はこちら。
戻る