AT-HA2002
明瞭で情報量豊かなAT-HA2002の良さをある程度感じられるが、出し切れてはいないように感じる。おとなしいHD650を無理やり元気づけたような印象。HD53ではローエンドまで伸びているように感じる低域が、塊のように凝縮されてしまう。使用前は、AT-HA2002ならHD650の弱点とも言える高域のおとなしさを解消してくれるかもしれないと思っていたのだが、期待していたほどではなかった。ただし、それなりには良くなる。HD650として見るのではなく、まったく別の機種という見方をするなら、こういう機種も有りだと感じる。非常に大雑把に言うなら、若干ドンシャリ気味で且つあっさりした音に感じられる。合う曲には合うのかもしれないが、HD650本来の良さを殺してしまっているのは間違いない。
AT-HA2002とは思えないほど艶っぽいヴォーカルの表現をしてくれる。ぼやけたり曇ったりしている声は、ややクッキリになるように感じられる。HD650にしてはポップスやロック向きの音。HD650の打ち込み系の音との相性の悪さも緩和される。ギターのエッジもしっかり聴こえるし、切れの良さを感じさせる。弦楽器はヴァイオリンやギターはいいのだが、チェロ等の低域は量も少なく響きも希薄なため物足りない。ブラスはなかなか鮮やかな鳴りっぷり。オーケストラは緻密に描き出すといった印象。AT-HA2002とは思えないほどピアノが滑らか。このあたりはHD650の力だろう。ジャズはDT880同様ウッドベースが沈みきらない印象。残響音は希薄。
HA-1A
HD650の線の細さがやや殺され、濃密でマイルドな音になる。低域はやや強めに感じられ、SENNHEISER独特の薄い感じはあまりしない。高域はあまり明るく表現してくれないが、最低限の量はある。HD650のおとなしさはそのままだが、とにかく暑苦しいくらい濃くて厚みのある音。全体的には、合うソースには合うが、合わないソースには合わない印象。そういう意味ではHD650のオールマイティーさがやや損なわれているが、合うソースなら非常に美しくしかも力強い音楽を聴かせてくれるのは間違いない。
マイルドすぎてポップスやロックをノリ良く楽しみたいなら、いまいち合わないように感じる。ヴォーカルは非常に艶っぽい。コーラスも混じったりはしないで、なおかつ協調した鳴り。非常に残響音豊かで伸びも良いので、弦楽器が心地よい。ただし、柔らかくて美しいが原音とは違うし、K501やSRS-4040のような線の細さを求めるなら方向性の違う音。ブラスも悪くはない。オーケストラは雄大な表現で、迫力をしっかり感じられる。ピアノは蕩けるように心地よいが、やや響きすぎで輪郭が甘い感は否めない。太鼓の低域が太くしっかり響く点が好印象。ジャズはウッドベースが深く沈み、量も十分でかなり楽しめる。
HA-1Aのノイズはやや気になるが、インピーダンス切り換えを一段下げると気にならないレベルになる。
HD53
なかなかバランスが良い無難な音を鳴らす。HD650の特長であるローエンドまで伸びている低域をうまく出してくれるし、量も程々。ただ、やはりHD53由来の曇りは若干感じる。高域はしっかり鳴らしてくれるので、あまり曇っているとは感じないが、AT-HA2002やHA-1Aと比べると粗があるように思う。鳴らしきれていない感はあるものの、HD650のオールマイティーさを素直に感じることができる。もう少し情報量があれば、文句無いと感じる音になっていただろう。AT-HA2002やHA-1Aと比べるとただ何となく鳴らしているような、無難な音。
ヴォーカルの艶っぽさは十分感じられる。なかなか滑らかな質感で、伸びが良く弦楽器が心地よいし、残響響きも適度。ブラスはやや粗があるが気にならない程度。オーケストラはバランスよく無難ではあるのだが、AT-HA2002のような緻密さもHA-1Aのような雄大さも感じられない。ピアノの鳴らし方は非常にバランスが良いように感じるが、どこか物足りない感はある。ウッドベースも同様にどこか薄い。HD650の得意分野を敢えて挙げるなら、クラシックや女性ヴォーカルものだと、改めて感じた。
SXH2
非常に柔らかく滑らかな質感。HD650の繊細さは生かし切れていない感はあるものの、これ以上ないほど心地よい。やや低音よりのHD650のキャラクターがそのまま出ている。情報量や原音の実体感はいまいち。低域がかなり邪魔をしている部分もあるし、柔らかくぼやけ気味。高域の量といい刺激といい、かなり不足に感じる。エッジのきつさがまったくと言っていいほど感じられない。元々HD650が曇っているように感じられる人には合わない可能性が高いし、明るい表現を求めている人には合わないだろう。音場感の良さはしっかり感じられる。このあたりは流石と言った感じ。残響音は程々。それよりも伸びの良さが強く感じられる。
ヴォーカルは温かみに溢れなかなか艶っぽいが、前述の通り繊細さという点ではHD650の能力を出し切れていないように感じる。コーラスは分離のよさよりも一体感を楽しめる傾向。ピアノの輪郭は甘いが、HA-1Aほどではないし、柔らかいタッチが非常に魅力的。オーケストラは分離の甘さが残念ではあるが、HD650の持つ雄大な表現はしっかり楽しめる。ジャズはウッドベースの量感がHA-1Aと比べると劣るものの、基本的には及第点。おとなしすぎる嫌いはあるものの、まったり浸りたいときにはむしろ好ましい。ギターのエッジはあまりに感じられないため、ギターを聴くには使えないと言って良いだろう。ロックを聴くには音が柔らかく刺激がなさ過ぎる。ただ、低域の量は意外としっかり出るので聴けないことはない。打ち込み系の音を聴くにはメリハリや厚み、明るさが足りない。弦楽器は非常に滑らかで心地よい。チェロ等の低域はHA-1A程の厚みはないが、心地よさという点では全く負けていない。ブラスはHD650とSXH2両方のキャラクターから予想されるよりは明るく楽しめる。もっとも、意外と、というレベルで、基本的にはおとなしい部類。オルガンは流れるように滑らかでありながら十分な存在感を放っている。
また、HD53のようなボリュームのガリノイズやHA-1Aのような無音時のノイズがないのは良い。
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