第15回 モニター用ヘッドホン比較

 ATH-SX1HD280ProMDR-CD900STPRO/4AASE-MONITOR 10RT50RP
 今回はモニター用ヘッドホン特集です。とは言っても、モニター用に分類していいか疑問の残る機種もありますが・・・
 初めにお断りしておきますが、モニター用ヘッドホンは一般的にはあまり音楽鑑賞には向かないです。エッジがきつめであること、ソースのノイズを拾い過ぎること、周波数特性的にはかまぼこのものが多いこと、温かみや艶っぽさにかけること等、様々な理由があります。個人的には、聴き疲れするのが最大の欠点だと思います。
 長所としては、原音に近いこと、芯の通った音を鳴らすこと等があります。なので、これらの特徴を踏まえた上で使いたいと思う人だけ検討したほうが良いと思います。
 そんなモニター用ヘッドホンを音楽鑑賞に使ったときの評価をするわけで、本来そのヘッドホンが持っている能力の一部しか見ていないことになると思います。その点はご了承ください。


・周波数特性
 平均が3になるように5段階で表示しています。

超低域 低域 中域 高域 超高域
ATH-SX1 2 3 4 3 3
HD280Pro 3 3 4 3 2
MDR-CD900ST 3 3 3 3 3
PRO/4AA 1 2 4 4 4
SE-MONITOR 10R 3 4 2 3 3
T50RP 4 3 4 2 2

・分解能
MDR-CD900ST≧ATH-SX1≧SE-MONITOR 10R≧HD280Pro≧PRO/4AA≧T50RP
 T50RP以外は価格なりの分解能はあります。
 MDR-CD900STとATH-SX1は非常に分解能が高いです。価格を考えればこれ以上は望めないでしょう。SE-MONITOR 10R、HD280Pro、PRO/4AAはほぼ互角ですが、得手不得手があります。単に細かい音を聴き取りたいならHD280Proが最も良いですが、ソースによっては低域が邪魔するため、その場合にはSE-MONITOR 10RやPRO/4AAの方が良いです。ただし、基本的にはSE-MONITOR 10Rは細かい音は聴き取りづらいですし、PRO/4AAは粗があります。T50RPはかすんでいて低音よりなのでどうしても分解能が悪く感じます。

・音場の明確さ
T50RP≧HD280Pro≧SE-MONITOR 10R≧PRO/4AA≧ATH-SX1≧MDR-CD900ST
 T50RPは珍しい全面駆動型のため、普通のヘッドホンとは比較にならない音場の広さがあります。ただ、音が響きすぎでやや音場の広さが死んでいる部分があります。HD280Proは音場の広さはそこそこなのですが、立体感があり明確です。SE-MONITOR 10Rは耳の近くで音がなっている感じが気になりますが、明確さは悪くないです。PRO/4AAは本来の音場の明確さはあまり良くないのかもしれませんが、響きがあっさりで芯の通った音なので、非常に把握しやすいのは事実です。ATH-SX1とMDR-CD900STは正直いまいちですが、モニター用として必要なレベルは満たしているでしょう。

・聴きやすさ
ATH-SX1≧T50RP≧SE-MONITOR 10R≧PRO/4AA≧HD280Pro≧MDR-CD900ST
 ATH-SX1はモニター用にしては非常に聴きやすいです。audio-technicaの一般的なレベルと比較しても聴き疲れが少ない方なのではないかと思います。T50RPは半開放なのですが、妙なこもり感のようなものがあり、エッジのきつさとは別の意味で聴き疲れします。SE-MONITOR 10R、PRO/4AA、HD28Proは聴き疲れの程度はかなり近いですが、SE-MONITOR 10RとPRO/4AAは芯が通り過ぎていて痛く、HD280Proはエッジがきつくて痛いという違いがあります。MDR-CD900STは響きが豊かでしかもエッジがきつく、ソースのノイズを拾いやすい上にホワイトノイズが大きいため、非常に聴き疲れしやすいです。

・原音忠実性
MDR-CD900ST≧ATH-SX1≧HD280Pro≧SE-MONITOR 10R≧T50RP≧PRO/4AA
 上位3機種は非常に原音に近く、甲乙つけがたいですが、あえて順位をつけるとこうなります。もちろん楽器別に見れば順位の逆転するところもあるとは思います。MDR-CD900STは高域がやや曇っているように感じられ、響きが豊かすぎる気がします。ATH-SX1は響きは適度ですが、高域にaudio-technica独特の癖があります。HD280Proは低域がやや強く、SENNHEISERらしい薄さがあります。ただし、SENNHEISERにしては厚いほうかと思います。また、高域がややシャリつきます。SE-MONITOR 10Rは芯の通り具合などはかなり原音に近いと思いますが、生っぽさが足りない上シャリつきます。T50RPはそこそこ原音に近いとは思うのですが、特殊な曇りがあり、判別が難しいです。PRO/4AAはかなり癖があります。ただし、どういう癖なのかを把握した上で使うなら、ある意味最も原音忠実とさえ言えるかもしれません。

・温かみ
HD280Pro≧T50RP≧MDR-CD900ST≧ATH-SX1≧SE-MONITOR 10R≧PRO/4AA
 どの機種も基本的に温かみに欠けます。原音忠実、芯が通った音でかまぼこのものが多いので、無理もないと思います。
 HD280ProとT50RPは超低域がしっかり出ることから最低限の温かみはあります。MDR-CD900STとATH-SX1は極めてモニターライクな鳴らし方で、ある意味最も温かみに欠けるかもしれません。ただ、MDR-CD900STはそれなりに低音が出るため、ATH-SX1はあまりエッジがきつくないため、下位2機種よりは冷たくありません。SE-MONITOR 10Rは低音は出るのですが、超低域は弱めでシャープな音なので温かみには欠けます。PRO/4AAは低音が出ない上、シャープな音なので非常に冷たいです。

・明瞭さ
SE-MONITOR 10R≧PRO/4AA≧ATH-SX1≧HD280Pro≧MDR-CD900ST>T50RP
 SE-MONITOR 10RとPRO/4AAはほぼ互角です。SE-MONITOR 10Rは高域が強めでシャープな音で、明るい音調なのでかなり明瞭です。PRO/4AAはとにかく低域が出ないことと芯の通った音で余計な音を鳴らさないです。ATH-SX1は響きが適度で低域も控えめ、高域はしっかり出るので、明瞭と言って良いレベルだと思います。HD280ProはATH-SX1よりは低音よりなので明瞭さではやや劣ります。MDR-CD900STはフラットではあるのですが、高音よりは若干低音が強めで響きが豊かなので、上位4機種よりはどうしても劣ります。T50RPは高域が出ない上に全体的にかすんでいてかなり明瞭さに欠けます。

・ノリの良さ
SE-MONITOR 10R≧HD280Pro≧ATH-SX1≧MDR-CD900ST≧PRO/4AA≧T50RP
 SE-MONITOR 10Rはドンシャリで芯の通った音なので、モニター用とは思えないくらいノリが良いです。HD280ProとATH-SX1は音に厚みはあり低音も必要量出るのですが、良くも悪くもモニター用の冷静な鳴らし方です。MDR-CD900STは低音は出るのですが、切れが悪く厚みや迫力に欠けます。PRO/4AAはとにかく低音が足りません。T50RPはかすんでいて音に厚みがなく、非常にノリが悪いです。

・弦楽器の表現
T50RP≧HD280Pro≧ATH-SX1≧MDR-CD900ST≧SE-MONITOR 10R≧PRO/4AA
 T50RPは伸びがよくなめらかなので心地よく聴けます。ただし、生っぽさや瑞々しさには欠けます。HD280Pro、ATH-SX1、MDR-CD900STは、原音そのままと言った感じです。生の粗っぽさがある代わりに心地よさが感じられません。伸びもいまいちです。SE-MONITOR 10RとPRO/4AAは芯が通り過ぎていて硬く感じられます。

・金管楽器の表現
ATH-SX1≧SE-MONITOR 10R≧HD280Pro≧MDR-CD900ST≧PRO/4AA≧T50RP
 上位3機種はかなりいい勝負で人によって好みが分かれると思います。ATH-SX1はaudio-technicaらしく非常に硬く高い音が楽しめます。SE-MONITOR 10Rはソースによっては安っぽくなってしまいますが、最も鮮やかです。HD280Proは癖がなくしかも鮮やかです。MDR-CD900STは上位3機種と比べるとどうしても曇っているように感じます。PRO/4AAは芯が通っていて明瞭なのですが、癖が強すぎます。T50RPは非常に曇っています。

・打ち込み系の音の表現
SE-MONITOR 10R≧HD280Pro≧ATH-SX1≧MDR-CD900ST≧PRO/4AA≧T50RP
 SE-MONITOR 10Rはなかなか相性がいいです。HD280ProとATH-SX1はほぼ互角ですが、低音が出る分HD280Proの方が楽しく聴ける傾向はあります。MDR-CD900STはとにかく切れが悪いです。PRO/4AAは相性自体は悪くないのですが、どうしても低音が不足しています。T50RPはかすんでいて魅力に欠けます。

・ヴォーカルの艶っぽさ
HD280Pro≧T50RP≧ATH-SX1≧MDR-CD900ST≧SE-MONITOR 10R≧PRO/4AA
 モニター用なのでどれも艶っぽさにはやや欠けますが、それでも上位3機種はそれなりの艶っぽさがあります。HD280Proはサ行の音等がやや痛いです。T50RPは艶っぽさよりもぬるさが目立ちます。ATH-SX1はやや硬いです。MDR-CD900STは原音そのままです。SE-MONITOR 10RとPRO/4AAはシャープで芯の通った音で、艶っぽさは感じられないです。

・側圧の弱さ
MDR-CD900ST>ATH-SX1≧T50RP>PRO/4AA≧SE-MONITOR 10R>HD280Pro
 MDR-CD900STはかなり弱め、ATH-SX1とT50RPはやや弱め、PRO/4AAとSE-MONITOR 10Rはやや強め、HD280Proはかなり強めです。

・耳への負担の小ささ
HD280Pro≧ATH-SX1≧SE-MONITOR 10R≧MDR-CD900ST≧T50RP≧PRO/4AA
 上位3機種は、耳の小さい人ならほとんど耳がフリーになると思います。逆に下位3機種はイヤーパッドの深さがかなり浅いので耳の外側が当たると思います HD280Proは側圧は強いのですが、イヤーパッドの内周のサイズが大きい上に深さもあるため、側圧の影響は皆無です。ATH-SX1は逆に側圧が弱いので負担が小さいです。イヤーパッドの内周のサイズと深さ、それとイヤーパッドの柔らかさも負担の小ささに一役かっています。SE-MONITOR 10Rは側圧は強いのですが、イヤーパッドの内周のサイズは広いのでそれほど負担は大きくありません。MDR-CD900STとT50RPは側圧は弱いのですが、とにかく耳に当たります。また、T50RPはイヤーパッドの内周の縦が短いため、耳たぶがつぶされる人も多そうです。PRO/4AAはMDR-CD900STの側圧を強くしたものと考えれば分かりやすいと思います。

・頭頂部への負担の小ささ
ATH-SX1≧MDR-CD900ST≧SE-MONITOR 10R≧HD280Pro≧T50RP≧PRO/4AA
 ATH-SX1とMDR-CD900STはクッションは薄めですがヘッドバンドの幅がそれなりにあることと軽量であることから頭頂部への負担は小さいです。SE-MONITOR 10Rは皮のヘッドバンドがそのまま当たりますが、2本に分かれているため痛いポイントに当たらないように装着すればそれほど痛くありません。HD280Proは普通です。T50RPはゴムの硬いヘッドバンドがそのまま当たるためかなり痛いです。PRO/4AAはクッションが付いているのですが、とにかく重いので痛いです。

・頭部への接触面積
PRO/4AA≧ATH-SX1≒MDR-CD900ST≒SE-MONITOR 10R≒T50RP≧HD280Pro
 PRO/4AAはかなり幅広のヘッドバンドがそのまま当たります。ATH-SX1、MDR-CD900ST、SE-MONITOR 10R、T50RPは普通の幅のヘッドバンドです。SE-MONITOR 10Rだけは2本に分かれていますが、面積は他の機種とほぼ同じです。HD280Proはヘッドバンドの一部に付いているクッションが当たるため、最も接触面積が小さいです。

・イヤーパッドの材質の肌触り
ATH-SX1≧HD280Pro≧SE-MONITOR 10R≧PRO/4AA≧MDR-CD900ST≒T50RP
 ATH-SX1は天然コラーゲン配合レザー、HD280Proは紙っぽい質感の独特の人工皮革、SE-MONITOR 10Rはレザータイプの人工皮革、PRO/4AAはビニール地に空気を封入したもの、MDR-CD900STとT50RPはシワが気になる安っぽい人工皮革です。
 かなり材質が違うので、一言で肌触りと言っても個人差があると思いますが、ATH-SX1は非常に心地よいレベル、T50RPは一般的なレベルです。どれも特に不快ではありません。文句をつけるなら、SE-MONITOR 10Rはやや硬く長時間使用すると痛い点、PRO/4AAは肌に張り付くのが気になる点でしょうか。

・ずれにくさ
SE-MONITOR 10R≧HD280Pro≧PRO/4AA>T50RP≧ATH-SX1>MDR-CD900ST
 SE-MONITOR 10Rはヘッドバンドが2本に分かれている上、側圧が強めなため非常にずれにくいです。HD280ProとPRO/4AAは側圧が強めで真上を向いたり真下を向いたりしてもほとんどずれないレベルです。T50RP、ATH-SX1、MDR-CD900STは側圧が弱めでヘッドバンドも滑りやすいことから、かなりずれやすいです。特にMDR-CD900STは非常にずれやすいです。

・蒸れにくさ
ATH-SX1≧MDR-CD900ST≧HD280Pro≧SE-MONITOR 10R≧T50RP≧PRO/4AA
 ATH-SX1とMDR-CD900STは側圧が弱く密封度が低いため、あまり蒸れません。HD280Proは側圧が強くしっかり密封されるのですが、イヤーパッド内の空間が広いのであまり蒸れません。SE-MONITOR 10Rはイヤーパッドが硬いことからしっかり密封されないため、あまり蒸れません。T50RP、PRO/4AAはイヤーパッド内の空間が狭いのでかなり蒸れます。

・イヤーパッドの内周のサイズ
ATH-SX1:38mm×58mm
HD280Pro:44mm×66mm
MDR-CD900ST:38mm×58mm
PRO/4AA:36mm×64mm
SE-MONITOR 10R:42mm×64mm
T50RP:40mm×52mm
 最も幅が狭いPRO/4AAはやや耳に当たりますが、それ以外の機種は幅そのものは十分だと思います。最も縦が短いT50RPはやや耳たぶがつぶされますが、耳の小さい人は当たらないレベルだと思います。
 MDR-CD900ST、PRO/4AA、T50RPはイヤーパッドの内周のサイズよりも深さが浅いのが問題だと思います。

・音漏れの少なさ
PRO/4AA≧HD280Pro≧MDR-CD900ST≧ATH-SX1≧SE-MONITOR 10R≧T50RP
 PRO/4AAとHD280Proは非常に音漏れが少ないです。MDR-CD900STとATH-SX1は上位2機種より劣るとはいえ、音漏れの少ないレベルです。SE-MONITOR 10RとT50RPは普通の密閉型よりやや悪いレベルです。上位4機種はアウトドアでの使用に十分堪えるレベルです。
 なお、遮音性はHD280Pro≧PRO/4AA≧SE-MONITOR 10R≧T50RP≧ATH-SX1≧MDR-CD900STになると思います。


 簡単にコメントを書いてみます。

ATH-SX1:
今回取り上げた機種の中で最も音楽鑑賞向きだと思います。基本的にはモニター用の音でありながら、同価格帯のATH-A900よりも楽しめる音に感じられます。
HD280Pro:
エッジがきつすぎです。SENNHEISERはHD590が刺激的といわれますが、それ以上です。ただ、高域は非常に良く聴こえてきます。
MDR-CD900ST:
とにかく原音忠実最優先のモニターユースならおすすめですが、非常に聴き疲れするので音楽鑑賞にはおすすめできません。
PRO/4AA:
防御力の高いヘッドホンとして有名ですが、音の個性と言う意味でも他にはないものを持っています。ただ、低域が非常に不足している上、芯の通った硬い音なので、1台で済まそうと思っている人にはおすすめできません。
SE-MONITOR 10R:
世間ではドンシャリと言われていますが、それは普通のモニター用がかまぼこであるためにドンシャリに感じてしまう部分が強いです。普通のDJ用と比べればフラットですし、音楽鑑賞用ヘッドホンに近い音作りになっています。ただし、かなり芯の通った音ではあります。個人的にはデザインが非常に好みなのですが、壊れやすいようです。
T50RP:
非常に珍しい全面駆動型です。ある意味音場の広さは最高レベルです。ただし、非常にかすんだ音を鳴らすので、モニター用の音を求めている人やノリ良く楽しみたい人には絶対におすすめできません。

 モニター用ということで、あえて得意なジャンルは明記しません。基本的には何でも原音そのままに味付けなく鳴らそうとはしているように思います。それが本当に原音かどうかは別問題ですが・・・
 個人的意見としては、どの機種もメーカーの色が出ていて面白いと思います。一言でモニター用といっても色々な機種があると言うことです。自分の好みと用途に合わせて選んでみて下さい。







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