第9回 レビューの読み方

 今回はヘッドホンのレビューを読む際の注意点についてまとめてみたいと思います。今更な感もありますが、本サイト立ち上げ当時(2004年)と比べると最近はネットで調べてヘッドホンを購入する人が非常に増えているため、こういったページを作っても役に立つのではないかと考えました。
 一応「購入を検討している製品のレビューを読む場合、どういう点に注意すれば良いか」という視点で書いていますが、それ以外のケースでもレビューを読む場合には当てはまる点が多いと思います(それどころかヘッドホン以外のレビューを読む場合にも当てはまる点が多々あるのではないでしょうか)。それから、本サイトに限った読み方ではなく一般論としての読み方として書いたつもりですが、本サイトを読む場合にも当てはめた方が良い点も多いと思います。
 だいぶ長くなってしまったので、まずは項目だけを並べておきます。上の方ほど基本的で重要なポイントになるように並べたつもりです。

・なるべく多くのレビューを読む
・個人の主観であることを前提に読む
・再生環境とレビューに使用した曲をチェックする
・用語の意味に注意する
・具体的な記述を拾う
・入手方法やレビューに至った経緯を確認する
・書かれた時期をチェックする
・不良、個体差、マイナーチェンジ、経年劣化、補修のおそれについて考慮する
・レビュアーについて調べる
・自分なりのルールを作る


☆なるべく多くのレビューを読む
 ある製品について1つのレビューだけを読んで判断するのは大変危険です。レビュアーと読み手の聴力、耳・頭の形状、聴く音楽、再生環境、使用条件、音量、比較機種、好み、感性、経験、評価基準、日本語の表現方法等が異なることが多いためです。それらの差異によって発生する問題を、なるべく多くのレビューを読むことによってできる限り回避する必要があります。
 仮にその問題がなかったとしても、多くのレビューを読むことによって単純に情報量が増えますし、個々の情報についてどの情報の信頼性が高いかという判断が的確にできるようになります。例えば、低音が少ないと書いてあるレビューが1件あったとしても、他に低音が多いと書いてあるレビューが10件あれば、自分が聴いた時には低音が多いと感じる確率が高いでしょう。
 また、多くのレビューを読むことによって必然的に「こういう音を言葉で表現するとこういう風になる」といった読み手としての経験を積むことになり、そういう経験を積めば積むほどレビューを正確に読めるようになっていきます。時には自分自身の好みや評価基準の偏り、視野の狭さといったものに気づかされて成長するきっかけにできるかもしれません(もっとも、そのためには自分自身を疑ってかかる姿勢が大事になりますが)。

☆個人の主観であることを前提に読む
 先ほど書いたとおり、聴力、耳・頭の形状、聴く音楽、再生環境、使用条件、音量、比較機種、好み、感性、経験、評価基準、日本語の表現方法等が人それぞれ異なるため、レビュアーと自分の意見が同じになる確率はそれほど高くありません。他人の書いたレビューは自分にとっては根本的に参考の参考の参考くらいにしかならないと考えるべきです。
 仮にレビュアーが非常に経験豊富で客観的にレビューを書こうと努力していたとしても主観を完全に排除することは不可能ですし、逆に言うと読み手の主観を完全に排除することも不可能です。自分の知っているある製品のレビューを読んで偏った内容だと感じたとしても、実は自分の方が偏っているというおそれもかなりあります。疑い始めるときりがありませんが、ともあれ一つのレビューに完全性を求めるのではなく、レビューの一例くらいに考えておくのが無難です。
 考え方を変えると、聴力、耳・頭の形状、聴く音楽、再生環境、使用条件、音量、比較機種、好み、感性、経験、評価基準、日本語の表現方法等が自分に近い人のレビューは、自分にとっては比較的アテになる可能性が高いと言えます。あるいは、自分の方をレビュアーに近づけてアテになるように努力するということもある程度は可能です。例えば、聴く音楽、再生環境、使用条件、音量、比較機種については(明記してあれば)レビューを読む側の努力で近づけることが容易です。

☆再生環境とレビューに使用した曲をチェックする
 レビューを読む際にチェックした方が良いポイントは沢山ありますが、特にこの2つは基本中の基本です。
 再生環境(アンプやプレーヤー)である程度音が変わってくることは誰でも分かると思いますが、特にバランスド・アーマチュア型のイヤホンは別物と言っても良いほど大きく変わることがあるので注意が必要です(インピーダンス特性の凹凸が原因で、この点については初心者講座第7回で触れています)。理想的にはレビュアーの再生環境と自分の再生環境が同じであることが望ましいですが、厳しく見るなら電源環境や設置条件でも音が変わると言われるわけで、厳密に再生環境を合わせるよりも「レビュアーの再生環境と自分の再生環境の間にどういう音の違いがあるのか」とアバウトに考えて若干の補正をするくらいが現実的なのではないかと思います。
 レビューに使用した曲については、シンプルに考えるなら自分が良く聴く曲と近い方が参考になる可能性が高くなります。他に、「こういう曲を聴いてレビューを書いている人はこういう傾向がある」というような知見を自分なりに蓄積させることで、同じレビューでも活用具合が変わってくることがあります。例えば、最近のダンスミュージックやメタルは古いクラシックやジャズと比べて所謂重低音の量が圧倒的に多いため、そういった曲を聴いてレビューを書いている人は同じ「低音」という表現でも意味する帯域がより低い周波数の傾向がある、といった具合です。あるいはもっと単純にメタルを聴く人よりクラシックを聴く人の方がフラットなヘッドホンを好む傾向があるというようなことも言えるかもしれません。

☆用語の意味に注意する
 レビューに使われる用語の中には正確に定義されていないものが多々あります。深く考えなくても通じてしまうことも多いですが、そうやって適当に読んでいると気づかないうちにレビュアーの意図とは違ったものを読み取ってしまうおそれがあります。
 レビューに使われている用語の意味については、レビュアーが定義している場合にはその定義に従い、そうでない場合には日本語としての意味に従って読むのが基本です。
 「それでも良く分からない用語が多い」と思う人もいるでしょうが、それは知識と経験が足りないことが原因であるかもしれません。そもそも耳で感じる音を言葉で表現する時点で無理があるわけで、知識も経験もないのに他人の書いたレビューをきちんと理解するのは不可能に近いです。例えば、「100Hz前後が多い」と書かれていたとするとその意味を読み取るには、Hzが何の単位なのか、100Hzがどれくらいの高さの音なのか、100Hz前後が多いと具体的にどの楽器がどういう風に聴こえるのか、といった知識と経験が必要になるわけです。これは「明瞭さ」や「温かみ」といった感覚的な表現であっても同じことですが、こちらは知識と言うよりも「どういう音をそういう風に表現する人が多いのか」といった読み手としての経験が重要になってきます。
 もっとも、定義されていない以上厳密には人それぞれ使い方が違いますので、正確に読もうとするのであれば個々のレビュアーがどういう意味で使っているのかを読み解く必要があります。例えば、単に低音と言っても何Hz〜何Hzの範囲を指すのかは人それぞれ違いますし、同じ範囲だとしても何Hzあたりを重視して何Hzあたりを軽視しているかはかなり差があります。
 最初は自分の持っているヘッドホンのレビューを読んで考えてみると分かりやすいと思います。

☆具体的な記述を拾う
 抽象的な表現で漠然と褒めたり貶したりしているものは、きちんとその製品を使って書かれたレビューなのかさえ怪しいです。メーカーの社員やショップの店員が褒めることを目的として書いているケースがありますし、逆に競合製品を貶す目的で書かれていることもあります。このようなケースのアバウトな見分け方としては、具体的に書かれているかどうかということに加えて、良いところだけでなく悪いところも書いてあるか、片方に偏っていたとしても(極端に良い製品や悪い製品であれば偏るのも当然ですから)同じように書こうとする姿勢が見えるか、といった点に注意すると良いでしょう。
 ただし、仮に褒める目的で書いてあったとしても、良し悪しに直結しない部分については有意義な情報である可能性もあります。例えば、「低音が少し多め」と書いてあっても多くの人にとっては良し悪しと言うより傾向の違いに当たるので、褒めるための障害にはならず正直な意見として書かれているかもしれません。
 また、メーカーやショップとは無関係な人が書いたレビューについて全体としてはアテにならないと感じたとしても、個々のポイントについてはそうでないこともあります。例えば、低音よりの音を好む人が書いたレビューを高音よりの音を好む人が読んだとしたら、全体としては意見が違ってくる可能性が高いでしょうが、その場合でも低音が多いか少ないかというポイントについては参考になるでしょう。
 個々のポイントについて見ても具体的に書かれている方が有意義で信頼性が高いことが多いです。例えば、先ほど書いた再生環境とレビューに使用した曲についてなら「安物ヘッドホンアンプ」「ロック」といった表現よりも「AMP800」「MetallicaのBATTERY」といった具体的な型番・曲名が書いてある方が正確に判断できます。音質の表現についても、単に「低音が多い」といった表現よりも「ベースよりもバスドラが目立つ」「100Hz前後はしっかり出るがそこより下は少ない」「K701より多くHD650より少ない」といった表現の方が、経験を積んだレビュアーがきちんと使ってみて書いている可能性が高いでしょう。ただし、具体的になればなるほど読み手に知識や手間が要求されるようになるわけですし、それゆえにわざとそういった"読み手を選ぶ表現"を避けて抽象的な表現を使っているケースもあります。
 そもそも読み手は自分の好みや求めるものが分かっているわけですから、そのポイントについて重点的に読んでいくのが効率的という見方もできます。

☆入手方法やレビューに至った経緯を確認する
 同じ製品についてのレビューを同じ人間が書いたとしても、同じものになるとは限りません。精神状態や体調の変動といった原因も考えられますが、もう少し具体的な原因として入手方法が挙げられます。例えば、友人のお気に入りということで借りたものを酷評するのは難しい、といった類のことです。
 入手方法について大雑把に分類すると、自腹購入、知人からの贈与・貸与、メーカー・ショップからの贈与・貸与、店頭試聴等があります。
 自腹購入であればしがらみがなく思ったままを書けると思われるかもしれませんが、自腹購入ならではの問題、つまり「せっかく金を払って買ったんだから良いものに違いない」という心理が働くおそれがあります。このケースの分かりやすい例は、初めての高級ヘッドホンでしょう。
 知人であれメーカーであれ、人から貰ったり借りたりしたものを貶すのは心理的に抵抗のある人も多いでしょう。ただし、ヘッドホンに真剣に向き合っている人がそういう経験を十分に積んでいれば相手の同意を得たりした上で自腹購入したものとほとんど同じように評価できる可能性も十分ありますし、元々そういったことに惑わされない人もいます。ただし、発売前にメーカーから借りてレビューを書いているケースやレビューを書くことを条件にしたモニター販売のようなケースについては販売されている製品とは異なるものであるおそれがあります。
 店頭試聴では他のケースと違って再生環境の違いや騒音といった問題が生じます(この点については初心者講座第4回で触れました)。
 どのケースでどういった影響があるかは人それぞれ違ってくるのでレビューを読んでどのように補正すれば良いのか分からないことが多いと思いますが、それならそれで例えば「試聴は全部参考にしない」とか「借りてレビューを書いているものは話半分で読む」といった自分なりのルールを作っても良いかと思います。
 なお、写真がないものは購入したと書いてあっても実際には購入していないおそれがありますし、酷い場合にはよそから写真を拝借していることもあります。一見個人のブログに見えても、メーカーから製品を提供されて褒めざるをえない状況で書いているものや、メーカーの社員とまではいかなくともその関係者が書いているものも多いようです。
 最悪、その製品を使ったこともない人が適当に書いていることもあります。

☆書かれた時期をチェックする
 書かれた時期と読まれた時期のギャップが大きいと、同じ文章でも意味が大きく異なってしまうケースがあります。
 例えば、カナル型の製品はここ数年で質・量ともに急激に充実したため5年前にコストパフォーマンスが非常に良かったものでも今は普通ということもありえますし、「平均的なカナル型はこんな音」といったイメージもだいぶ変化があったのではないかと思います。カナル型でなくても、「5万円以下のヘッドホンとしては最高」と書いてあって仮に当時としてはそれが妥当であったとしても、それが書かれたのが5年前であれば今とは存在する製品がまったく異なるので最高ではなくなっている可能性が高いです。また、レートの変動や発売からの時間経過等の理由により価格が大幅に下落していることもあります。
 レビュアーは予知能力者ではありません。そんなことは分かっていると思うかもしれませんが、無意識のうちに予知能力者だと考えている人(何年も前に書かれたものを今の感覚で解釈する人)はかなり多いようです。最近になってヘッドホンに興味を持った人が数年前の事情を知るのは難しいでしょうが、それでもレビューの書かれた時期をチェックしておけば「今とは違うかも」という前提で読むことは可能で、それだけでも十分意味があると思います。

☆不良、個体差、マイナーチェンジ、経年劣化、補修のおそれについて考慮する
 レビューに使われたものがその製品として正常なものという保証はありませんし、正常なものだったとしても現在販売されているものや読み手が所有しているものと同じであるとは限りません。
 例えば、不良であってもそうと気づかないでレビューを書いているケースもあるでしょうし、個体差は不定期コラム第57回で取り上げたように製品によってはかなり大きいです。仮に不良でなく個体差の小さいものであったとしても、マイナーチェンジにより違うものになっている可能性もあります(マイナーチェンジは公表されていないことも多いです)。経年劣化は購入して数ヶ月以内にレビューを書いている場合にはあまり問題にならないでしょうが、試聴の場合は試聴機の経年劣化は激しい傾向があるので注意が必要です。場合によっては、補修で純正ではないイヤーパッドが使われているかもしれませんし、カナル型ではデフォルト以外のイヤーピースが使われているかもしれません。
 別途マイナーチェンジ情報を調べたりすることによって何か分かるかもしれませんが、基本的には「同じものであるとは限らない」という意識を持ってレビューを読むことが必要です。

☆レビュアーについて調べる
 単一のレビューについてきちんと読み解こうとするならこの項目はとても重要なのですが、レビューを沢山読む場合には一つ一つのレビューにあまり時間を割けないといった問題があるので必然的に重要度を下げることになるケースも多いと思います。
 最初の方で「レビュアーと読み手の聴力、耳・頭の形状、聴く音楽、再生環境、使用条件、音量、比較機種、好み、感性、経験、評価基準、日本語の表現方法等が異なる」と書きましたが、それぞれどう異なるのかを知っておくとより正確にレビューを読み解くことができます(聴く音楽と再生環境については上述のとおりです)。
 すべてについて書いていると膨大な量になってしまうので割愛しますが、簡単にまとめるなら「目的の製品についてのレビューだけでなく他の記述も注意深く読むべし」ということになります。例えば、年齢、所有機種、レビューを書いた台数、オーディオ全般や楽器演奏の経験等をチェックすると、そのレビュアーが自分にとって参考になるレビューを書いている可能性が高いかどうかを推測することができるかもしれません。
 特にそのレビュアーが書いた他のレビューを読むと、色々な意味で役立つ可能性が高いです。例えば、何でもかんでも褒めるような人もいるわけですが、そのような場合には複数のレビューを読むことによって「この人の場合にはベタ褒めだからといって良いものとは限らない」と警戒することができます。自分の意見と異なるレビューだと思っても、他にレビューが書かれている製品が比較対象だと考えれば納得がいく場合もあります。ショップや価格比較サイトのカスタマーレビューにはメーカーや代理店の宣伝レビューが紛れ込んでいますが、メーカーや代理店の共通している製品のレビューばかり書いている人や1件だけしかレビューを書いていない人については怪しいと判断できます。他にもレビュアーの音の好み、自分との聴力や感性の違い、何らかの偏り等を読み取ることができるかもしれません。
 ただし、勘違いや思い込みには注意する必要があります。例えば、あるレビュアーが低音よりのヘッドホンを1つ褒めていたからと言って、そのレビュアーが低音を好むとは言い切れません。他の理由で褒めている可能性も高く、何十ものレビューを並べて明らかに低音よりのものほど評価が高いといった傾向でもなければそうそう断定できるものではありませんし、仮に明らかな傾向があっても好みとは直接関係ない(評価基準の偏りや他の好みの間接的な影響が原因である)可能性も高いです。そんなことは当たり前と思う人もいるでしょうが、少数のレビューでレビュアーの好みを語る人が大勢いるのは確かで、そうやって変なフィルターを通してレビューを読むと正確に読み取れないおそれがあるので気をつけてください。

☆自分なりのルールを作る
 レビューを沢山読んでいると、「こういうことを書いているレビューはアテにならない」という法則のようなものに気づくことがあります。例えば、先ほど書いた「試聴は全部参考にしない」というのもこのような法則を利用した"自分なりのルール"に当たるでしょう。
 他に「エージングで別物になる」「高級ヘッドホンを買うのは初めて」「開放型ヘッドホンを買うのは初めて」といったことが書いてあるとアテにならないと判断する人も多いようです。
 これをもっと突き詰めて「良いレビューの条件」というようなものを設定し、その条件を満たすレビューだけ参考にするという方法もあります。例えば、「再生環境とレビューに使用した曲が明記してありかつ10台以上レビューを書いている」といった感じです。
 こういったルールを作ることによって、有用性の低いレビューに惑わされたり時間を無駄にしたりすることを避けられるかもしれません。


 だいぶ長くなってしまいましたが、以上です。
 今回書いてみて改めて思ったのですが、レビューを正確に読み解くには注意しなければならない点が多々あり、そう簡単ではありません。別に適当に読んでも構わないのですが(それでレビュアーに文句を言ったり他人に迷惑をかけたりしなければ)、知っているだけで失敗を避けられるポイントもあるので、簡単なところや気になったところだけでも覚えておくと良いのではないかと思います。これらの点についてすべて留意してレビューを読むのは難しいでしょうが、レビューを読んでいて納得がいかないとか自分と意見が違うと思うことがあったら再度このページを見てみるとその原因がはっきりするかもしれません。
 これだけ長く書いておいて何ですが、これで完璧という自信はありません。はしょった部分もあります。人によっては「他にもっと大事なことがある!」と思われるかもしれませんが、そこは各自項目を付け加えるなりして頂いて、今回の記事を自分なりの読み方を模索するための参考にして頂ければ幸いです。







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