第11回 ナオミの中のもう一人の勇魚 乖離性同一性障害 そうはいっても飛ぶのは易しい
/「白倉由美作品集ベストセレクションシリーズVOL.3 S-nery リーディングストーリー
「東京星に、いこう」総集編」より
今回は音楽ではなく、「リーディングストーリー」という独自のジャンルの作品です。正式にリクエストはされていませんでしたが、一応希望があったのと私の希望を併せて取り上げることにしました。
リーディングストーリーとは簡単に言うと、ラジオドラマと朗読の間のような形式のものです。控えめなBGMを背景に、淡々と本を読むように複数の女性が一人称で物語を語り、時に他の登場人物の台詞が朗読に被るように挿入されます。ヘッドホン的視点で重要なのは、女性の声が魅力的に聴こえるか、声が被るシーンをしっかり聴き分けられるか、長時間使用しても疲れないか、という点でしょうか。ちなみにこのCDの声の出演は、桑島法子、前田このみ、桂川千絵、豊嶋真千子、前田千亜紀です。
ストーリーの方は大江健三郎やポール・オースターの影響をかなり受けているものの、オリジナリティのある叙情的なものです。実はこの作品の前に「夢から、さめない」というリーディングストーリーがあり、本作品は一応その続編に当たるのですが、その「夢から、さめない」は制作会社のミスで音源がロストして、一度もCD化されていません。代わりに、角川書店から同名の小説が発行されているので、今回採り上げたCDの物語をしっかり理解したいという方はその本を読んでからCDを聴いた方が良いと思います。
今回取り上げるtrackは、静かなピアノをBGMに、時にピアノよりも弱い声で語り、時に複数の声が被り、時に大きな声で、と様々なシーンがありますが、ピアノと女性の声だけというシンプルな構成はリーディングストーリーの典型的なスタイルです。
・1台目 ATH-SX1(audio-technica)
女性の声が魅力的に聴こえ、長時間使用しても疲れず、できればピアノと声がしっかり分離してくれる機種という観点で選びました。
概ね期待通りでした。長時間使用しても疲れないですし、声が弱いシーンでもしっかり聴き取れます。ただ、癖がない反面声に特別な濃さや魅力が感じられないように思いました。
・2台目 PROline2500(ULTRASONE)
声が魅力的に聴こえる機種、という点を重視して選びました。元々淡白な録音なので、このぐらい濃い方が魅力的に感じられるのではないか、と予想されました。
期待通り声が濃くしっかり感じられましたが、予想以上にピアノが目立つ部分もありました。ただ、それで声が埋もれるようなことはなかったので、それほど問題はないと思います。また、声の分離がATH-SX1より良く、声が被るシーンも自然と聴き取ることができました。
不満点を敢えて上げるなら聴き疲れでしょう。これはサ行の音がやや痛いせいです。短時間聴いた限りではそれほど聴き疲れしませんでしたが、この作品は2枚組のCDなので、全体を通して聴くとやや問題になるかもしれません。
・3台目 SRS-4040(STAX)
2台目でほぼ満足できてしまいましたが、聴き疲れを解消するのと、違う声の魅力の出し方をポイントに3台目を選んでみました。
予想通り、声が透き通るようでした。この点についてはPROline2500とは対照的といって良いと思います。それでいて非常に魅力的で、声が被るシーンの聴き取りもまったく問題ありませんでした。また、PROline2500ほどピアノが目立つこともなく、聴き疲れもしませんでした。
PROline2500も良いと思いましたが、この作品の繊細さや儚さを表現することを考えれば、SRS-4040の方が相応しいでしょう。
今回取り上げた機種以外にATH-W1000でも聴いてみましたが、少し明るすぎるのと叫ぶシーンがキンキンしたりするのが気になりました。この点は残念ながら録音があまり良くないせいもあるかとは思いますが、その辺も含めてうまく鳴らしてくれる機種を探索したつもりです。今回の内容を参考に自分の好みに合ったヘッドホンを探してみてください。
試聴は下のamazonのページで。
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