第14回 1万円以下の開放型ヘッドホン比較

 DTX900HD497HP-AK101K101RP-HT770UR/40
 今回は1万円以下の開放型ヘッドホン特集です。
 1万円以下という価格帯は、ヘッドホンに詳しい人の間では低価格帯と考えられていますが、そうでない人にとってはヘッドホンというのは1万円以下が普通だと思います。そのためか、高級機と違って遮音性や音漏れ防止を重視した密閉型が大半を占め、開放型はかなり少ないです。今回取り上げた機種も、音の良いものを選んだというよりは、選択の余地がなかった感じです。
 なお、価格わけはアバウトです。若干1万円を出るものもあります。


・周波数特性
 平均が3になるように5段階で表示しています。


超低域 低域 中域 高域 超高域
DTX900 4 4 2 2 3
HD497 4 4 3 2 2
HP-AK101 4 4 3 2 2
K101 3 4 3 3 2
RP-HT770 4 4 3 2 2
UR/40 3 4 2 3 3

・分解能

HD497≧DTX900≧UR/40≧K101≧HP-AK101≧RP-HT770
 HD497とDTX900はどちらも低域が十分出るにもかかわらず、全音域の音が埋もれずにしっかり聴こえます。UR/40とK101は比較的シャープな音で、一聴して分解能が良いように感じますが、やや粗があり上位2機種よりは劣ります。HP-AK101とRP-HT770はどちらも低域がやや強く曇っているような印象がある上、音に丸みがあり細部がはっきりしません。

・音場の明確さ
UR/40≧HP-AK101≧HD497≧DTX900≧RP-HT770≧K101
 UR/40は明確なだけでなくかなり広いです。HP-AK101は純粋な音場の明確さや広さではないのかもしれませんが、なかなか良いように感じます。HD497とDTX900は狭いのですが明確さはしっかりと感じられます。RP-HT770は漠然としていていまいちです。K101はとにかく非常に狭いです。

・聴きやすさ
RP-HT770≧HP-AK101≧HD497≧DTX900≧UR/40≧K101
 どの機種もそれほど聴き疲れしないと思います。
 RP-HT770は高域が出ない上に音に丸みがあるため非常に聴きやすいです。HP-AK101も似ていますが、RP-HT770よりは音が細く高域も聴こえてきます。HD497はSENNHEISERらしい滑らかな質感があり聴き疲れしません。DTX900も基本的にはかなり聴きやすい音なのですが、上位3機種と比べるとサ行の音等が痛いです。逆にUR/40はサ行の音は痛くないのですが、基本的にシャープな音で粗があります。K101は最もシャープで芯の通った音です。しかも感度が非常に低いので、他の機種よりどうしてもホワイトノイズが目立ちます。

・原音忠実性
DTX900≧HD497≧K101≧UR/40≧RP-HT770≧HP-AK101
 DTX900とHD497はかなり原音に近いです。DTX900の方が厚みのある音で実体感があります。K101とUR/40はどちらもあまり原音忠実を気にかけない方向性の音作りになっているように思います。ただ、K101は生の粗っぽい感じがあり人によってはかなり原音に近いと感じるかもしれません。RP-HT770とHP-AK101はかすんでいたり嫌味があったりと、かなり原音から遠い音になってしまっています。

・温かみ
DTX900≧HD497≧UR/40≧RP-HT770≧HP-AK101≧K101
 どの機種も低音がしっかり出るため、基本的には最低限の温かみはあるように感じます。
 DTX900は低域が超低域までしっかり出る上に厚みもあり、太く密度の高い音で暑苦しいほど温かみがあります。HD497はDTX900よりも全体的に薄い感じで暑苦しいと言うよりはぬるいという感じです。UR/40は音そのものは粗くシャープなのですが、ある種人間味のある温かみを感じます。RP-HT770は単に音が丸く低音よりなため、結果的に温かみもそこそこあるといった感じです。HP-AK101も同様ですが、ややシャープなぶん温かみには欠けます。K101は超低域が弱めでしかも芯の通った音なので、温かみに欠けます。

・明瞭さ
UR/40≧DTX900≧HD497≧K101≧HP-AK101≧RP-HT770
 かなり傾向が違うのでこの順位は人によってかなり変動すると思います。基本的にはRP-HT770以外の機種はある種の明瞭さがあります。
 UR/40はシャープな音で、低音が出るわりには非常に明瞭です。DTX900は太い音で明瞭と言うよりもハキハキしていると言った方が適切かもしれません。HD497はSENNHEISERらしい薄めの音ですが、全音域しっかり聴こえてきます。K101はスカスカした感じと曇った感じを少しずつ加えたような微妙な不明瞭さがあります。HP-AK101とRP-HT770は低域の曇った感じ支配的で不明瞭です。

・ノリの良さ
UR/40≧DTX900≧HD497≧K101≧HP-AK101≧RP-HT770
 UR/40は明るく元気です。DTX900はUR/40とは正反対の重苦しい音調ですが、それでもUR/40とは別のノリの良さがあります。HD497はそこそこ鮮やかで無難なのですが、やや音の薄さが気になります。K101は芯の通った音なのですが、スカスカした感じがあります。HP-AK101とRP-HT770は音の厚みがいまいちで、しかも高域が聴こえてこないためノリが悪いです。

・弦楽器の表現
HD497≧DTX900≧UR/40≧K101≧RP-HT770≧HP-AK101
 HD497とDTX900は1万円以下とは思えない表現力です。どちらも魅力的ですが、あえて長所を挙げるならHD497は心地よさ、DTX900は実体感です。UR/40はサラサラした透明感のようなものが楽しめます。K101は原音の粗っぽさは出ているのですが、心地よく聴けるかどうかは別問題です。

・金管楽器の表現
DTX900≧HD497≧UR/40≧K101≧HP-AK101≧RP-HT770
 上位3機種は各々違う魅力を持っていて優劣つけがたいです。DTX900はbeyerdynamicらしい金属めいた芯の通った音、HD497は澄んだ心地よい音、UR/40は鮮やかでいい意味で粗がある音です。K101は芯が通っていて悪くはないのですが、やや元気が内容に思います。HP-AK101はそこそこ高い音ですが、原音と違いすぎます。RP-HT770は曇っています。

・打ち込み系の音の表現
UR/40≧HD497≧DTX900≧HP-AK101≧K101≧RP-HT770
 どの機種も密閉型のような厚みや力感には欠けるように思います。
 UR/40は迫力には欠けますが非常に鮮やかで楽しめます。HD497は鮮やかでうまいとは思うのですが、やはり厚みに欠けます。DTX900は逆に厚みはあるのですがウォーム過ぎていまいちです。HP-AK101は良くもなく悪くもなくと言った感じです。K101は音そのものは相性悪くないように感じますが、スカスカでノリが悪いのが致命的です。RP-HT770は曇りすぎです。

・ヴォーカルの艶っぽさ
DTX900≧HD497≧UR/40≧RP-HT770≧K101≧HP-AK101
 DTX900とHD497は非常に艶っぽいです。DTX900の方が安定感があり、HD497の方が繊細さがあります。UR/40は艶っぽいと言うには少し明るすぎるかもしれませんが、サラサラした独特の感触が楽しめます。RP-HT770は繊細さが足りずぬるい感じになっていますが、悪くはないです。K101は芯が通り過ぎです。HP-AK101は癖が悪い方向に出ることが多いようです。

・側圧の弱さ
UR/40>DTX900>RP-HT770≧HP-AK101>HD497>K101
 UR/40は非常に弱いです。DTX900もかなり弱い部類に入ると思います。RP-HT770とHP-AK101は普通、HD497とK101は強めです。特にHD497とK101はヘッドバンドが硬いため、頭の幅が広い人ほどきつく感じると思います。

・耳への負担の小ささ
HP-AK101≧UR/40≧DTX900≧RP-HT770≧HD497≧K101
 HP-AK101は耳がほぼフリーになります。UR/40は深さがやや浅いため耳に当たります。DTX900、RP-HT770は縦が短いため耳たぶが押さえつけられるような感じになります。HD497は幅が狭いため耳の後ろにかなりイヤーパッドが当たります。K101はとにかくイヤーパッドの内周が狭く、側圧も強いため耳がもろにつぶされます。

・頭頂部への負担の小ささ
UR/40≧HD497≧DTX900≧HP-AK101≧RP-HT770≧K101
 UR/40は軽量の上ヘッドバンドがネット状になっているため非常に負担が小さいです。HD497は側圧が強めで軽量なのでほとんど頭部に圧力がかかりません。DTX900はヘッドバンドがそのまま当たるのですが、軽量でヘッドバンドが比較的幅広なので痛くありません。下位3機種はフリーアジャストのヘッドバンドが頭を押さえますが、特に痛いというわけではありません。

・頭部への接触面積
UR/40>RP-HT770≧K101≒DTX900≧HP-AK101≧HD497
 UR/40はヘッドバンドがネット状になっているため非常に接触面積が大きいです。RP-HT770はやや幅広のヘッドバンドが当たります。K101とDTX900はRP-HT770より若干幅が狭いヘッドバンドです。HP-AK101はそれよりもさらに幅が狭いヘッドバンドです。HD497はヘッドバンドの一部(と言ってもほとんど全部ですが)に付いたクッションが当たります。

・イヤーパッドの材質の肌触り
DTX900≧RP-HT770≧HP-AK101≧UR/40≧HD497≧K101
 DTX900、HP-AK101、RP-HT770は布製ですが、DTX900は撥水性が良さそうなきめ細かい化学繊維、HP-AK101はややザラザラした化学繊維、RP-HT770は綿っぽいフカフカの布です。HD497、UR/40はシワが気になる安っぽい人工皮革、K101はレザータイプの人工皮革です。
 正直なところ、どれもいまいちに感じますが、基本的にはそれほど不快ではないと思います。K101だけは肌触りというより硬いのが気になりました。

・ずれにくさ
K101≧HD497≧HP-AK101≧RP-HT770≧UR/40≧DTX900
 どれもずれやすくはありません。
 K101とHD497は軽量の上に側圧もそれなりにあるため多少動いてもまったくずれません。HP-AK101とRP-HT770は側圧がそれなりにある上にフリーアジャストのヘッドバンドが結構頭を押さえつけるためかなりずれにくいです。UR/40は側圧は非常に弱いのですが、ヘッドバンドがネット状になっていることと軽量なことからそこそこずれにくいです。最もずれやすいと感じたDTX900も、真上を向いたり真下を向いたりしてもほとんどずれません。

・蒸れにくさ
HP-AK101≧UR/40≧RP-HT770≧DTX900≧HD497≧K101
 開放型なので、どれもそれほど蒸れません。
 HP-AK101は一応フルオープンなので非常に蒸れにくいです。UR/40はイヤーパッドは普通なのですが、側圧が弱めであまり密閉されないこと等からかなり蒸れにくいです。RP-HT770は普通の開放型といった感じです。下位3機種はイヤーパッド内の空間がやや狭いこととハウジングの通気性もいまいちなことから開放型にしては蒸れます。

・イヤーパッドの内周のサイズ
DTX900:48mm×48mm
HD497:30mm×52mm
HP-AK101:60mm×60mm
K101:46mm×46mm
RP-HT770:44mm×50mm
UR/40:42mm×58mm
 最も幅の狭いHD497はさすがにかなり耳に当たります。一方、縦寸法が46mmのK101は耳たぶがもろにつぶされます。よほど耳が小さい人なら大丈夫でしょうが、そうでない人は側圧が強いこともありかなり痛いと思います。


 簡単にコメントを書いてみます。

DTX900:
今回取り上げた機種の中では高価なこともあり、かなり完成度が高いです。作りは非常に安っぽいですが、音は決して安っぽくありません。beyerdynamicにしてはかなりおとなしい部類に入ります。ジャズが得意ですが、なんでもいけます。
HD497:
SENNHEISERは上位機種がゴロゴロしている上、独特のデザインからあまり音質の評判を聞かない機種ですが、非常にコストパフォーマンスが良いです。SENNHEISERの中ではかなりポップス向きの明るい音調になっています。ポップスや弦楽器メインのクラシックにおすすめです。
HP-AK101:
装着感が良いこともあり1万円以下の開放型の定番の一つです。やや原音から離れすぎているのが気になりますが、価格なりの音質ではあります。ポップス向きです。
K101:
音質といい装着感といい「硬い」のが特徴の機種です。耳が小さい人で、芯の通った音が好きな人におすすめです。
RP-HT770:
Panasonicの中ではかなり評判の良い機種です。が、かすんだ音でいまいち魅力に欠けます。その代わり聴き疲れはしませんし、装着感もなかなか良いです。ポップス向きです。
UR/40:
PortaProを薄味にしたような鮮やかで元気な音が魅力です。ポップス向きです。

 今回取り上げた機種は、頭の大きい人にはつらい機種が多いです。DTX900とUR/40はヘッドバンドの長さがかなり短いです。HD497とK101は幅が狭く硬いため、頭の幅が広い人は耳の上を押さえて耳の下に隙間が空くような感じになったり側圧が非常に強く感じたりすると思います。RP-HT770とHP-AK101はまだマシな部類ですが、それでも頭の大きい人はきつそうです。今回取り上げた機種でサイズ的に最も余裕のあるのはHP-AK101です。
 音質的にはコストパフォーマンスが良い機種もあるのですが、上記のような理由で万人にすすめられる機種がないのが実情です。音質改善よりずっと簡単だと思うので、メーカー様はそのあたりをもっと考慮してもらいたいと思います。







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