第9回 Travels/Pat Metheny Group「Travels」より

 Pat Metheny Groupは有名なギタリストであるPat Methenyが中心となって結成されたジャズ・フュージョン・バンドです。メンバーはギター、ピアノ、ベースです。
 今回取り上げるのは1983年発表のライブアルバム「Travels」のタイトル曲です。ゆったりとしたテンポの曲で、すべての音が柔らかく心地よく響くような印象です。使われている楽器はエレキ・ギター、ピアノ、エレキ・ベース、ドラムスに加え軽いシンセです。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、「ライブ感というか、空気や雰囲気をゆったり楽しめるように。重視する点は、全体を支配するギターとライブ録音らしい強めのリバーブを違和感なく、疲れることなく聴けるような音の抜けと、ギターに寄り添うようにメロディを奏でる、ピアノと独特のシンセサイザーの音を気持ちよく鳴らせるか」とのことです。


・1台目 MDR-XB700(SONY)
 前述の条件を最も満たしているように感じたので選びました。特に「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」点が素晴らしいです。これは、柔らかい音で響きも豊かなのが主要因だと思います。音場も広く奥行きがあるので、リバーブを違和感なくしっかりと楽しむことができます。抜けが良いとまでは言えませんが、そのせいで疲れるようなことはありません。この辺りはどうしても開放型には劣る印象ですが、密閉型としてはかなり良いレベルだと思います。主役はあくまでギターで、ピアノやシンセは寄り添うようにギターを引き立てるところも好印象です。ただ、他の多くのヘッドホンと比べてピアノが目立たない傾向なので、ピアノをしっかり聴きたいときには合いませんし、他のヘッドホンのバランスに慣れていると多少違和感があるとは思います。
 他にはHD435、HFI-15G、HP-RX900、PortaPro、PX100、UR/40等で聴いてみました。HP-RX900は「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」かどうかという点でMDR-XB700にやや劣りますし、ピアノの音に変に芯が通っているようなところが気になります。UR/40はこの中で最も抜けが良く響きがどこまでも広がっていくような感覚が気持ち良いですが、「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」かどうかという点ではHP-RX900以下で、トータルとしてはMDR-XB700の方が良いと判断しました。密閉型では得ることのできない抜けの良さが欲しいのであれば、UR/40が良いと思います。HD435、HFI-15G、PortaPro、PX100はどれも「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」という点はなかなか良いのですが、耳のせだと耳の近くで音を鳴らす上に音場に奥行きがないためどうしてもリバーブに不満が出てくる印象です。音の抜けもUR/40に比べると見劣りします。
 不満点は、開放型のように響きがどこまでも広がっていくような感覚がない点、低域がやや多すぎる点です。

・2台目 DTX900(beyerdynamic)
 1台目の不満点を踏まえて選びました。1台目を聴いた時点ではほとんど気にならなかったのですが、実際にDTX900と比べてみるとやはり密閉型特有の圧迫感があったことに気づかされます。その点で、DTX900はより違和感がなく聴き疲れしにくいと言えます。1台目同様、「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」点は素晴らしいです。1台目はピアノがかなり控え目になるのが特徴的でしたが、DTX900はそういうことはありません。どの楽器も柔らかめではあるものの、音色は自然ですんなりと音楽に浸ることができます。
 他にはATH-AD700、DR150、SE-A1000等で聴いてみました(1台目の不満点を考えて耳覆いの開放型を選ぶことにしました)。ATH-AD700は「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」かどうかという点で他の機種と比べて多少見劣りします。低域ももう少し欲しい印象です。ただ、DTX900やDR150ではこってりしすぎと感じる場合には良い選択肢になると思います。DR150はホワイトノイズが大きく聴き疲れする点が気になります。SE-A1000は低域の量や響きという点でDTX900とATH-AD700の間くらいである点は良いのですが、音色がやや不自然であるように感じられたので外しました。
 不満点は、音場が狭い点です。

・3台目 SR-007+SRM-717(STAX)
 曲を何度か聴いた後に漠然とこれが合いそうだと思っていたのですが、1、2台目の不満点を考えてみても有力な選択肢になると思い選びました。1台目と比べると響きがどこまでも広がっていくような感覚がありますし、低域も少ないです。2台目と比べると音場がかなり広いです。そのため、音場的な意味で音の分離が良いのも魅力です。「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」については1、2台目も相当良かったのでそれほど大きな差は感じませんが、SR-007+SRM-717も同等以上であるのは間違いありません。ただ、1、2台目と比べると少しすっきりあっさりした傾向なので、好みによっては物足りないかもしれません。響きが豊かで美しく、しかも抜けが良いので「リバーブを違和感なく、疲れることなく聴ける」という条件をしっかり満たしているように感じられます。また、1、2台目と比べて細部の描写に優れています。今回の曲はそれほど細部の描写が重要になるとは思いませんが、他の条件を満たした上で細部の描写を丁寧にしっかりこなしてくれると、プラスアルファの魅力が感じられるのも確かです。
 不満点は特にありませんが、もう少し2台目のようなウォームさがあった方が「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じが出るのではないかと思います。

・4台目 HD650(SENNHEISER)
 3台目の不満点(と言うよりも希望でしょうか)を踏まえて選びました。ちょうど2台目の音場を広くしたような感じです。3台目と比べると線が太く響きに透明感がない印象ですが、これは2台目のようなウォームさと両立させるのはまず無理なので、致し方ないところでしょう。「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じはしっかり出ます。この点は期待したとおりです。各楽器の音色や響きも自然で、安心して聴けます。一つ気になった点を挙げるなら、ピアノが低く落ち着いた音色で良くも悪くもギターやベースと溶け合うところです。
 他にはDT880、PROline2500、RS-1等で聴いてみました。DT880は最後までHD650と迷いましたが、最終的にはHD650よりもホワイトノイズが大きく聴き疲れする点がどうしても気になったので外しました。それ以外の点は、HD650とほぼ同等か若干良いくらいだと思います。特にピアノの音色はHD650ほど落ち着いた感じではなく、リアルでかつ色気を感じさせるような風合いです。PROline2500は「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じについてはHD650やDT880と比べてもそれほど見劣りしないのですが、音色にしろ響きにしろ不自然で違和感があります。RS-1はHD650やDT880より少し明るめですが、「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じは出ますし、響きも豊かで心地よくこれはこれで魅力的です。ただ、今回は2、3台目の不満点を考えると選べませんでした。色々書きましたが、どれが最も良いと感じるかは(PROline2500を除いて)好みの範疇だと思います。

・5台目 Westone3(Westone)
 音が柔らかく響きも豊かなので、「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じがしっかり出ます。ピアノやシンセがギターやベースと溶け合うような感じです。低域はやや多すぎな気もしますが、屋外ならこれくらいでちょうど良いかもしれません。「リバーブを違和感なく、疲れることなく聴ける」かどうかについては悪くはないのですが、この点を重視するならImage X10の方が良いと思います。ただし、Image X10は「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じについてはWestone3より劣ります。
 他にはHP101とSHE9700が良かったです。どちらも「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じを出してくれますし、「リバーブを違和感なく、疲れることなく聴ける」かどうかについても特に不満はありません。各楽器の音色や響きも自然です。Westone3やImage X10と比べても価格差ほどの違いは感じません。
 また、「リバーブを違和感なく、疲れることなく聴ける」という点については、カナルよりも開放型イヤホンの方が良いと思います。他の条件まで含めて総合的に考えると、MDR-E888LPが良いと感じました。


 今回は価格を制限しなければ魅力的なヘッドホンが多く、どれが選ばれてもおかしくなかった印象です。なので、選ばれたヘッドホンが良いものだと決めつけるのではなく、本文まで読んで自分に合ったヘッドホンを探して欲しいと思います。
 ヘッドホンアンプはHA-1AやAT-HA2002が良いと思います。ただ、流石にMDR-XB700やDTX900だと低音過多になったり暑苦しくなったりするとは思います。「リバーブを違和感なく、疲れることなく聴ける」かどうかを重視するならHD-1L Limited Edition(RC1)が良いと思います。HD53やhpa200b(ハイエンド仕様)は「空気や雰囲気をゆったり楽しめる」感じをあまり出してくれず合わない印象です。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


試聴はこちら。













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