第11回 予算2万円の密閉型ヘッドホン比較

 ATH-A900DT770PROHFI-650HP-DX3K271studioTriPort
 今回は大体2万円くらいで買える密閉型の特集です。例によって価格分けははアバウトです。
 やはりヘッドホンは音が漏れないのが基本だ、という人も多いと思います。極端な話をするなら、音がスピーカー並みに漏れて良いならスピーカーを使えばいいことが多いわけです。個人的にはヘッドホンにはヘッドホンでしか味わえないものがあるとは思いますが。
 なお、密閉型ヘッドホンでは音漏れ防止も重要だと思いますので、今回は比較項目に加えることにします。


・周波数特性
 平均が3になるように5段階で表示しています。

超低域 低域 中域 高域 超高域
ATH-A900 2 3 3 4 3
DT770PRO 3 3 2 4 3
HFI-650 2 4 3 4 2
HP-DX3 5 4 2 2 2
K271studio 2 3 3 4 3
TriPort 4 4 2 3 2


・分解能

DT770PRO≧ATH-A900≧HFI-650≧K271studio>TriPort≧HP-DX3
 DT770PROはこの価格にしてはかなり分解能が高いです。低域が強いもののイヤーパッドが布製で音の抜けが密閉型にしては良いこと、エッジがきつめであること、響きが適度であること、意外と高域の線が細いこと等、色々理由はあると思いますが、根本的な実力が十分あってこそです。ATH-A900とHFI-650もなかなかのものです。ほとんど互角の実力だと思いますが、線が細い分ATH-A900の方が良いように感じます。K271studioも悪くないですが、中域〜低域にかけて意外と太い音で、その上かなりこもり感が気になること等からいまいちな印象になってしまっています。TriPortとHP-DX3はどちらも低域が出すぎです。低域がないソースではHP-DX3の方が線が細く良いかもしれませんが、少しでも低域があるとHP-DX3は完全に他の音が飲み込まれてしまいます。TriPortは根本的な分解能は最も低いような気もしますが、HP-DX3ほど埋もれないような印象です。

・音場の明確さ
HFI-650≧DT770PRO≧ATH-A900≧TriPort≧K271studio≧HP-DX3
 HFI-650は癖がある上、音場の広さはそれほどでもないですが、明確さという意味では非常に良いです。DT770PROはかなり無難な印象です。ATH-A900はオーソドックスでそれなりに広いのですが、耳の近くで音が鳴っているのが気になります。TriPortは非常に独特で面白いですが、今回取り上げた機種の中で最も癖が強いです。K271studioは音場が狭めで、こもり感がひどいためにどうしても明確さも劣っているように感じます。HP-DX3は低域が少しでもあると他の音が非常に埋もれてしまうため音場という言葉自体が虚しく感じます。

・聴きやすさ
K271studio≧HFI-650≧TriPort≧HP-DX3≧ATH-A900≧DT770PRO
 K271studioは高域がしっかり聴こえてくるわりには非常に聴きやすい音です。HFI-650とTriPortもかなり聴きやすいですが、TriPortはホワイトノイズがやや大きいように感じます。HP-DX3は音そのものはかなり聴きやすいのですが、低域が出すぎで疲れます。ATH-A900とDT770PROはややエッジがきつめです。
 ただし、最も聴き疲れすると感じるDT770PROも刺激として許容できる範囲内だと思います。

・原音忠実性
DT770PRO≧K271studio≧ATH-A900≧HFI-650≧HP-DX3≧TriPort
 DT770PROとK271studioはかなり原音に近いと思います。DT770PROの方が生の粗っぽさが感じられます。K271studioはかなりマイルドで、金管楽器の高域はおとなしすぎるように感じますが、弦楽器の自然さはDT770PROより上です。ATH-A900は特に原音に近いわけではありませんが、下位3機種よりは良いです。HFI-650はやや周波数特性に癖がある上、音そのものも太めで原音とは違います。HP-DX3は中域〜高域はそこそこ原音に近いのですが、低域が量が多い上に致命的に不自然です。TriPortは全音域に渡って原音忠実性よりもノリの良さや如何に楽しく聴かせるかを追求した音作りになっています。

・温かみ
HP-DX3≧DT770PRO≧K271studio≧TriPort≧HFI-650≧ATH-A900
 HP-DX3はとにかく低域が支配的なだけでなく、中域〜高域にかけても刺激に欠けるため、結果としてかなり温かみがあるように感じます。DT770PROは低域が出るだけでなく、非常にウォームです。ただし、刺激もかなりあるため、そういう意味ではK271studioの方が良いと感じる人もいるかもしれません。K271studioは高域は出ますがエッジはきつくないためかなりマイルドです。TriPortは音そのものは丸みがあり超低域も十分なのですが、ノリの良さで温かみが打ち消されています。HFI-650も音そのものは丸みがあるのですが、超低域不足気味で、しかも響きがあっさりで温かみはいまいちに感じます。ATH-A900はやや高音よりであること、高域の金属めいた鳴り方があること、音が細めであること、超低域が不足気味なこと等からかなり冷たい印象になっています。

・明瞭さ
DT770PRO≧ATH-A900≧HFI-650≧TriPort≧K271studio≧HP-DX3
 ATH-A900とDT770PROは非常に明瞭ですが、エッジがきつく分解能が高い分DT770PROの方が明瞭です。HFI-650とTriPortはそれなりといった感じです。TriPortは非常に癖がある上に低域が強いためソースによってかなり印象が変わります。K271studioは高域が出る上、繊細なのですが、全体的にやや低めな音でおとなしい音作りになっているためか明瞭さには欠けます。HP-DX3は低域が支配的なだけでなく、非常に曇っています。

・ノリの良さ
TriPort≧HFI-650≧DT770PRO≧ATH-A900≧K271studio≧HP-DX3
 TriPortはドンシャリで音が太く、非常にノリが良いです。HFI-650も基本的には負けていませんが、低域がやや足りません。DT770PROはノリが良いのですが、ややウォームな部分があります。ATH-A900はノリの良さという点ではこれ以上ないほど平均的な機種だと思います。K271studioは低域はそこそこ出るのですが、とにかく繊細でウォームなのでノリの良さはいまいちです。HP-DX3は音に丸みがある上に低域しか聴こえてこないためノリが悪いです。

・弦楽器の表現
K271studio≧DT770PRO≧HFI-650≧ATH-A900≧HP-DX3≧TriPort
 低域はこもり感が気になるものの中域〜高域は流石です。DT770PROは低域はK271studioより良いですが、基本的な繊細さでは負けています。HFI-650はそれなりに生っぽいですが、音が太めで繊細さに欠けます。ATH-A900は繊細さはあるのですが、自然さと温かみに欠けます。HP-DX3はそれなりに繊細ですが、ややかすんだ音で原音の生っぽさが足りません。しかも低域はかなり不自然な音を鳴らします。TriPortは実は意外と繊細に表現してくれますが、やはり原音の生っぽさはありません。

・金管楽器の表現
DT770PRO≧ATH-A900≧HFI-650≧TriPort≧K271studio≧HP-DX3
 DT770PROは非常に美しく、ほとんど文句のない音を聴かせてくれます。ATH-A900も悪くないですが、DT770PROと比べるとやや安っぽく不自然です。HFI-650はATH-A900より低めでおとなしい音です。TriPortはHFI-650より更に低い音で不自然ですが、なかなか楽しめます。K271studioは自然ではあるのですが、かなり低い音で輝きが足りません。HP-DX3は中域〜高域は聴こえてこない上、低域も不自然です。

・打ち込み系の音の表現
HFI-650≧ATH-A900≧TriPort≧DT770PRO≧K271studio≧HP-DX3
 HFI-650は非常に相性が良いですが、人によっては低域が不足に感じるかもしれません。ATH-A900はやや線が細いですが、高域がなかなか気持ちよい鳴り方です。TriPortは低域は十分ですし、悪くないのですが、やや鮮やかさに欠ける気がします。逆にDT770PROは鮮やかなのですがとにかく相性が悪いです。K271studioはおとなしすぎます。HP-DX3は高域がまったく聴こえてこない上にノリが悪すぎです。

・ヴォーカルの艶っぽさ
DT770PRO≧K271studio≧TriPort≧HFI-650≧ATH-A900≧HP-DX3
 DT770PROはソースによってはサ行の音等がやや痛いですが、非常に艶っぽいです。K271studioとTriPortはどちらも明瞭さに欠けますが、それなりに艶っぽいです。HFI-650とATH-A900は傾向はかなり違うもののヴォーカルの艶っぽさという観点ではかなり近いと思います。HFI-650は繊細さ、ATH-A900は温かみが足りません。HP-DX3は曇りすぎてしまって、いまいちに感じますが、相性の良いソースではそれなりに聴けます。

・側圧の弱さ
DT770PRO≧ATH-A900≧K271studio≧HP-DX3≧TriPort≧HFI-650
 DT770PROはやや弱めです。ATH-A900とK271studioは普通です。HP-DX3はフィットコントローラーという独自の構造でかなり側圧を変えられますが、耳の周囲全体にしっかり圧力がかかるように調節すると普通、そうでなければやや弱めになります。TriPortとHFI-650はやや強めですが、イヤーパッドがしっかり耳を覆うこともありそれほど不快ではないです。

・耳への負担の小ささ
DT770PRO≧HP-DX3≧ATH-A900≧TriPort≧HFI-650>K271studio
 K271studio以外の機種は、ほとんど耳に当たらないか、当たっても極一部で、耳への負担は小さいです。K271studioだけはイヤーパッドの内側がかなり耳に当たるため負担が大きいです。

・頭頂部への負担の小ささ
ATH-A900≧TriPort≧HP-DX3≧K271studio≧DT770PRO≧HFI-650
 ATH-A900はウイングサポートで頭頂部を押さえない作りになっているため負担は最も小さいです。TriPortは特にクッションがあるわけではないですが、軽量で側圧もそれなりにあるため負担が小さいです。HP-DX3とK271studioは普通のフリーアジャストのヘッドバンドです。DT770PROはヘッドバンドの内部に一応ゴムのクッションが入っていますが、やや痛いです。HFI-650はヘッドバンドにクッションが付いていますが、長時間使用すると痛いです。

・頭部への接触面積
K271studio>DT770PRO≧HP-DX3>ATH-A900>HFI-650>TriPort
 K271studioはヘッドバンドがかなり幅広で接触面積が大きいです。DT770PROとHP-DX3は普通の幅のヘッドバンドがそのまま接触します。ATH-A900はウイングサポート部分だけが当たるため上位3機種よりは接触面積が小さいです。HFI-650はヘッドバンドの一部付いているクッションが当たるためかなり接触面積が小さいです。TriPortはヘッドバンドがそのまま当たるのですが、細いため接触面積は非常に小さいです。

・イヤーパッドの材質の肌触り
DT770PRO≧HP-DX3≧HFI-650≒K271studio≒TriPort≧ATH-A900
 DT770PROはしっとりした布製、HP-DX3はメッシュ状のジャージっぽい素材、HFI-650・K271studio・TriPortはレザータイプの人工皮革、ATH-A900は安っぽい人工皮革です。レザータイプの3機種は肌触りはほとんど同じですが、柔らかさではTriPort≧K271studio≧HFI-650だと思います。
 どの機種もそれほど不快ではないですが、ATH-A900だけはパリパリしていていまいちに感じます。

・ずれにくさ
TriPort≧K271studio≧HP-DX3≧HFI-650≧ATH-A900≧DT770PRO
 どの機種も不満はありません。TriPortとK271studioは少しくらい動いてもまったくずれないです。TriPortは軽量で側圧もそれなりにあるため、K271studioは軽量で側圧・ヘッドバンドの圧力ともに強めのためです。HP-DX3もかなりずれにくいですが、重いのとイヤーパッドが滑りやすいためややずれやすいです。HFI-650はヘッドバンドのクッションが小さいためややずれやすいです。ATH-A900はとにかく重いです。DT770PROは今回の機種の中では側圧が弱めでヘッドバンドも頭を押さえないので最もずれやすいです。

・蒸れにくさ
HP-DX3≧DT770PRO≧ATH-A900≧HFI-650≧TriPort≧K271studio
 HP-DX3は密閉型にしては非常に蒸れにくいです。DT770PROもあまり蒸れないです。ATH-A900は普通、HFI-650以下はやや蒸れやすいです。K271studioは非常に蒸れます。

・イヤーパッドの内周のサイズ
ATH-A900:48mm×58mm
DT770PRO:55mm×55mm
HFI-650:42mm×54mm
HP-DX3:36m×58mm
K271studio:55mm×55mm
TriPort:35mm×60mm
 K271studioは深さがやや浅いためかなり耳に当たります。ATH-A900も浅いため、人によっては耳に当たると思います。HP-DX3とTriPortは横幅が狭いため耳に当たりますが、気にならないレベルです。それ以外の機種はほとんど耳に当たらないか、当たっても極一部だと思います。

・音漏れの少なさ
HFI-650≧TriPort≧K271studio≧ATH-A900≧DT770PRO≧HP-DX3
 ATH-A900以上は良好といえるレベルですが、中でもHFI-650とTriPortは良いです。DT770PROはイヤーパッドが布製のため密閉型にしてはやや悪いように感じます。HP-DX3はほとんど開放型に近い音漏れです。
 なお、遮音性もほぼこの順番どおりになります。


 以上です。簡単にコメントを書いてみます。

ATH-A900:
かなりオールマイティですが、スカスカで冷たい音に感じる人も多いと思います。得意分野はaudio-technicaらしくポップスです。
DT770PRO:
ジャズが得意ですが、基本的には何でも聴けると思います。一部で物凄い低音と言われていますが、それほどでもないと思います。
HFI-650:
打ち込み系の音楽との相性最高です。そういう意味では最高レベルの音です。
HP-DX3:
何を聴くにしてもあまりおすすめできません。
K271studio:
弦楽器を最重視するならこれが一番だと思いますが、耳が大きい人はかなり疲れると思います。
TriPort:
生半可な低音では満足できない人やポップスやロックをメインで聴く人、もちろんアウトドアでの使用を考えている人におすすめですが、2万円の音を聴きたいならあまりおすすめできません。

 今回取り上げた機種は、どれも他の機種とは違う個性を持っています。そういう意味で、個人的に非常に楽しい特集でした。やはりヘッドホンは向き・不向きがあるもので、聴く音楽や好みにあった機種を選ぶ必要があると再認識しました。今回の内容がそのお役に立てれば幸いです。







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