第81回 牧神の午後への前奏曲/ドビュッシー

 今回取り上げるのは、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーの管弦楽曲「牧神の午後への前奏曲」です。指揮はブーレーズ、演奏はニュー・フィルハーモニア管弦楽団で、1966年の録音です。
 この曲はドビュッシーの出世作と言われています。それまでのクラシック音楽の理論にとらわれない内容で、「牧神以前、以後」という言い方がされるようになったほど音楽史上重要な曲です。
 さて、とは言うものの今聴いてみると特別インパクトがあるわけではありません。むしろ地味で主題らしい主題がなく、印象に残りにくい曲だと思います。曲調はゆったりとして穏やか、どことなくフワフワした浮遊感があります。普段ポップスやロックしか聴かない人にとっては、ぼやけて退屈な曲だと思います。
 ヘッドホンとしては、弦楽器や木管楽器が得意なもので、繊細さや適度な温かみがあり聴きやすいものが良いでしょう。また、できれば音場も広い方が良いでしょう。


・1台目 K240monitor(AKG)
 今回はあまり悩まずに決まりました。1万円台でクラシックを聴くならこれ、というのもありますが、実際に聴いてみてもやはり素直に良いと感じたためです。
 粗がないですし、変な音を鳴らすこともなく安心して聴けます。このあたりは、さすがに世界中でクラシックの録音モニター用に使われているだけのことはあります。ある意味最高レベルの原音忠実性だと思います。
 他にもいろいろ聴いてみましたが、K240monitorに比べるとどれも気になる点がありました。ATH-AD700は比較的良かったのですが、それでもK240monitorと比べると不自然な音を鳴らすことがありますし、無音時や弱奏時にホワイトノイズがやや気になります。もっと“普通の”ヘッドホンでも聴いてみようと思い、RH-300でも聴いてみましたが、ヴァイオリンが無機質なのが気になりました。
 不満点は、もっと遠くで音を鳴らして欲しい点です。どうも今回の録音は演奏者の近くで録音しているような感じが気になります。もっと言うなら、頭内定位が気になりやすい録音です。また、左右の音の分離が不自然です。右の方で鳴る音は右端で鳴り、左の方で鳴る音は左端で鳴るといった感じで、左右の端に偏っています。ヘッドホンでこの点を改善するのは録音の意図を損なうという意味で邪道なのかもしれませんが、この点はスピーカーで聴くよりもヘッドホンで聴く方が圧倒的に気になるはずですし、ともかく普通に聴くなら改善したい点であるのは確かです。音そのもには大きな不満はありませんが、もう少し柔らかく温かみがある方が良いと思います。

・2台目 K701(AKG)
 1台目の不満点を踏まえて素直に選びました。
 前述の音場関係の不満点がかなり改善され、あまり気にならなくなります。
 弦楽器にしろ木管楽器にしろ、音の質感がやや柔らかくなり、心地よく聴けるようになります。これにより、今回の曲の浮遊感がよりはっきりと感じられるようになります。1台目と比べて曲の雰囲気をしっかり出してくれるとも言えます。
 また、伸び伸びと音楽を奏でてくれる点が良いです。それでいて細部の描写も非常に精細です。
 不満点は特にありません。見事と言う他ないです。

・3台目 SR-007+SRM-717(STAX)
 正直、2台目で非常に満足してしまったので、3台目を探すのは気が向きませんでした。が、今回の曲の内容を考えると、「これも良いのではないか」と思える機種がありました。それがこれです。
 実際に聴いてみると、2台目より更に浮遊感が感じられます。細部の描写でもやや勝っています。2台目も、1台目と比べれば伸び伸びしていると感じましたが、3台目は更に上を行きます。
 コンデンサー型特有の質感が苦手でないのであれば、2台目より3台目の方が好きという人が多そうです。


 今回は定番ばかりになってしまいました。が、これは結果を見ればそうなっているという話で、実際にいろいろ聴いてみた結果こうなったので、私としては今回取り上げた機種がクラシックを楽しむのに向いていることを再確認した感じです。クラシック向きという風に漠然と言われることの多い機種ですが、特に今回の曲のような弦楽器や木管楽器メインの曲には良く合うと思いました。これが金管楽器や打楽器が多く入ってくるような曲であれば、おそらく今回取り上げたヘッドホンのアドバンテージは小さくなるでしょう。
 ともあれ、今回の内容を参考に選んでみてください。


試聴はこちら(表示上は5曲目になっていますが実際は1曲目です)。










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