第2回 Svefn-G-Englar/Sigur Ros「Agaetis Byrjun」より

 Sigur Rosはアイスランド出身のポストロックバンドです。メンバーはヴォーカル、ギター、ベース、ドラムス、キーボードですが、それ以外の楽器が使われることも多いです。ポストロックというジャンルについて知らない方のために書いておくと、従来のロックとは違う、という程度の意味です。普通にロックと言って想像される音楽とはまったく違うものだと考えて良いと思います。
 今回取り上げるのは1999年発表のアルバム「Agaetis Byrjun」の2曲目です。Sigur Rosらしいオリジナリティのある曲です。ゆったりとしていて捉えどころがなく、フワフワと現実感がないような感じです。ヴォーカルは男性なのですが、ほとんどファルセットで歌っているようで女性のようにも聴こえます。楽器としてはギターやドラムスが使われていますが、個々の楽器がどうこうと言うより全体の雰囲気で聴く曲のように思います。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、「重視するのは広大な音場、繊細な音の表現」とのことです。


・1台目 HP-RX900(Victor)
 1万円未満で音場の広い機種という条件だと、それだけでかなり限られてきます。思い当たる機種はHP-RX500、HP-RX900、MDR-XD400、SHP8900、UR/40くらいしかなかったので、全部並べて聴いてみました。その結果選んだのがHP-RX900です。
 音場の広さと繊細さの合計点で評価するとHP-RX900が最も良く、今回の曲の雰囲気とかなりマッチします。ゆったりとした感じ、フワフワした感じが良く出ます。個人的には、今回の曲を楽しむにはこの感じを出してくれることが重要であるように感じました。
 ただ、見晴らしという点ではHP-RX900は上記の5台の中で最も悪いと思います。今回の曲では見晴らしはそれほど重要ではないと感じたのでHP-RX900を選びましたが、やはり見晴らしが悪いと音場の広さも殺されてしまいますし、その点を気にするのであれば他の4台から選んだ方が良さそうです。MDR-XD400とSHP8900はやや粗っぽい感じで繊細さに欠けますし、全体的に見ても今回の曲とは合わないような印象です。したがって、HP-RX500かUR/40が妥当ではないかと思います。どちらもHP-RX900と比べてそれほど見劣りしない印象です。
 不満点は、ヴォーカルがやや不自然で悪目立ちする点、見晴らしが悪い点です。

・2台目 SE-A1000(Pioneer)
 1万円未満と同様、1万円台も音場の広い機種という条件だけで厳しいものがあります。ATH-AD700、DJ1 PRO、DR150、HD280Pro、RP-21、SE-A1000、T50RPと聴いてみて、正直「コレは!」と思うものはなかったです。
 ATH-AD700は大きな不満はないのですが音場の広さはもう少し欲しいですし、どことなく魅力に欠ける印象です。DJ1 PROは思ったほど違和感はありませんが、明るく切れが良いところが今回の曲ではマイナスに働いているように感じます。DR150は音場の左右の広がりが狭い点とエッジがきつい点が気になります。HD280Proはキッチリしすぎていてもう少し柔らかさや遊びが欲しい印象です。RP-21は全体的に見て曲との相性は悪くないのですが、音場は多少不満ですし、HD280Pro同様もう少し遊びが欲しいです。T50RPは薄く曇っている点が今回の曲に合う面はあるのですが、見晴らしの悪さが気になります。
 SE-A1000にしても特別良いとは感じませんでしたが、他機種で感じられた上記のような不満点が比較的気になりませんでした。ゆったりとした感じやフワフワした感じも前述の機種の中では最も良く出してくれると思います。1台目の不満点であるヴォーカルと見晴らしは改善されます。ちなみに次点はATH-AD700です。
 不満点は、もう少し繊細で癖がない方が望ましいという点です。

・3台目 SR-007+SRM-717(STAX)
 曲を何度か聴いた後に「重視するのは広大な音場、繊細な音の表現」という条件を見て、真っ先に思い浮かんだ機種です。
 実際に聴いてみると、素晴らしいのひとことです。1、2台目で感じたような不満はまったく感じません。単に音場の広さと繊細さという条件だけ見てもこれ以上の機種はないと思いますし、実際に今回の曲を聴いてみても非常に相性が良いと感じます。ゆったりとした感じやフワフワした感じもしっかり出してくれますし、もっと言うなら今回の曲の現実感のなさがこれ以上ないくらい感じられます。全体のバランスの良さや違和感のなさという意味でもかなりのものです。
 不満点はありません。

・4台目 HD650(SENNHEISER)
 4台目は少し悩みましたが、最終的にはこれに落ち着きました。音場の広さと繊細さは十分ですし、ゆったりとした感じやフワフワした感じも出してくれます。変な癖や気になる欠点もありません。
 3台目と比べると骨太でずっしりしている印象です。音場や繊細さだけでなく、現実感のなさという面でも見劣りしますが、これはHD53が足を引っ張っている面も大きいようなので、ヘッドホンアンプを適切なものに変えれば差はかなり縮まるでしょう。
 他にはEXH-313、DT880、K701、KH-K1000等でも聴いてみたのですが、それぞれ多少の不満がありました。EXH-313はなかなか良いのですが、HD650と比べると厚みの薄さと癖が気になります(ただし、慣れるまで聴き込んでしまえばEXH-313の方が現実感のなさが感じられて良いという評価をする人もいると思います)。DT880は繊細さに欠けます。K701は最も期待していたのですが、ヴォーカルが目立ちすぎで、うわずってキンキンする個所がある上、妙に聴き疲れが酷い点が気になりました(個人差はあるかもしれません)。KH-K1000はハイハットが目立ちすぎでやや違和感がありますし、ゆったりとした感じをあまり出してくれません。

・5台目 Super.fi 5 Pro(Ultimate Ears)
 Super.fi 5 Proは、音場は広いですし、粗なくある程度細かい表現もこなしてくれるという意味でそれなりに繊細です。ゆったりとした感じやフワフワした感じもある程度出してくれます。繊細さ重視と言っても、線が細いものや硬質なのものは今回の曲に合わないと思いますし、これくらいが良いラインだと思います。
 他にはMDR-EX90SLとHP-CN40が良かったです。やはりこの形状のものは音場という面では有利だと感じます。ゆったりとした感じやフワフワした感じもそれなりに出してくれますし、トータルとして今回の曲との相性はまずまずです。
 ただ、正直音場の広さについてはどんぐりの背比べだと思います。音場を重視するなら素直にカナル以外(できれば耳覆いサイズのオーバーヘッド)を使った方が良いと思います。開放型イヤホンなら、MDR-E888LPが良かったです。平面的な音場の広さではカナル型より有利ですし、繊細さも十分感じられます。ゆったりとした感じやフワフワした感じは、開放型イヤホンはあまり出してくれない傾向でしたが、その中では最も良い部類でした。


 今回はSR-007+SRM-717の良さが際立っていました。他の機種にしても沢山のヘッドホンを聴きながら最善を尽くして選んだのですが、改めて振り返ってみてもやはりSR-007+SRM-717と比べるとかなり見劣りします。
 音場の広さと繊細さ重視という条件で探索してきましたが、それに加えて前述の通りゆったりとした感じやフワフワした感じを出してくれるもの(言い換えると柔らかく響きが豊かなものと言えると思います)が良いように感じたので、その条件も含んだ上での結果になっています。曲別HP探索2ではリクエストした方の要望に添って探索していきますが、その条件を最優先して他の条件を無視すると、ヘッドホンを絞り切れなかったり普通の意味では相性の悪いヘッドホンを選ぶことに成りかねませんので、要望のあった条件以外についても必要に応じて加味していく方針です。ちなみに、音場が広く繊細という条件は満たしているものの今回の曲との相性は良くないと感じたヘッドホンはMDR-SA5000です。
 ヘッドホンアンプは私が所有しているものだとHA-1Aが良いです。繊細さが足りないようならSA-15S1(SACDプレーヤーのヘッドホン端子)になると思います。私が所有していないものだと、P-1やHDA-5210が良いと思います。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


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