第42回 マタイ受難曲/バッハ

 J・S・バッハのマタイ受難曲は新約聖書「マタイによる福音書」を題材にし、聖句、伴奏付きレチタティーヴォ、アリア、コラールによって構成された作品です。バッハの作品のみならず、あらゆるクラシック音楽の作品の中で最高傑作と評されることもある名曲です。
 今回取り上げるのは、リヒター指揮、ミュンヘン・バッハ管弦楽団演奏の1958年の録音で、数あるマタイ受難曲の録音の中でも最も評価の高いものの一つです。音楽的な完成度の高さはもちろんのこと、古い録音の割には録音状態も悪くないです。
 ヘッドホンとしては、この曲の壮大さや緊張感を伝えてくれるものが良いでしょう。あまり派手なものや癖のあるものは合わないと思います。また、演奏時間が3時間を越える大作なので、重視するポイントは人それぞれ多々あるかと思いますが、私はとにかく声の表現を重視しました。それは、独唱にしろ合唱にしろこの曲の主役は人の声であり、この曲の魅力の大きな部分を担っていると感じたからです。


・1台目 HP1000(PHILIPS)
 HP1000の声の表現のうまさと音楽性をかって選びました。声以外に、弦楽器、木管楽器、オルガンもこの曲の重要なファクターですが、HP1000はこれらの表現もかなりうまいです。その上で、何と言うか雰囲気があり、自然と演奏に引き込まれます。
 他にはDR150も良いと思いましたが、録音との相性でDR150では少し低域が多く声が不明瞭になりがちな個所があったため、こちらにしました。
 不満点はもう少し音の厚みや迫力が欲しい点です。

・2台目 HD650(SENNHEISER)
 HP1000に近い音で、より迫力のある機種ということで選びました。
 HP1000が美しい表現をしてくれるとするなら、HD650は美しさとリアリティの両立を成し遂げています。たった一声の鳴らし方でさえ、その場にいる実在感に差が出るように感じます。もちろんHP1000もその辺り悪くないのですが、HD650は更に上です。また、音場の広さや定位の明確さが、音に確信を与え自信に満ちた表現を展開しています。
 不満点はほとんどありません。あとは細部の好みと、空気感のようなものの違いだと思います。

・3台目 SR-007+SRM-717(STAX)
 HD650の完成度の高さに匹敵するものは、これしかないと思い選びました。
 HD650が迫力重視なら、SR-007+SRM-717は透明感重視です。特に合唱の繊細で澄んだ表現は素晴らしいです。見方を変えるなら、独唱を重視するならHD650、合唱を重視するならSR-007+SRM-717というのもありだと思います。そうは言っても、どちらも非常にバランスの取れた鳴らし方です。

 言うまでもないことですが、今回の曲は非常に完成度の高さが求められます。一言で「このヘッドホンを使えば良い」と言えるものではなく、アンプやケーブルまでこだわりたいところです。私の環境では、背景の静けさや輪郭の明瞭さでHead Amp 2/MkII SEが最良と感じました。曲の雰囲気にはHA-1Aも良く合いますが、その場合にはバランスを取るためにHD650よりもDT880の方が良いかもしれません。DT880も今回の曲を聴くにはかなり向いているヘッドホンで、HD650に次ぐ能力を持っていると思います。アンプまで含めて話をするなら、HD650+Head Amp 2/MkII SE、DT880+HA-1A、SR-007+SRM-717のいずれかが、個人的には最良と感じました。何にせよ、この一曲のために目標とする最善の環境を模索する価値があると思います。今回の内容がその目標に近づく一助になれば幸いです。


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