第5回 雪解け沢/「知床・オホーツク」より

 今回は音楽ではなく自然音です。知床の雪解け水の音を録音したもので、「録音にはボールバウンダリーマイク(ショップス社/ドイツ製)を使用しております。驚くほど自然な音場空間を再現し、ヘッドホン再生においても、素晴らしく臨場感のある立体サウンドを体感できます。」との説明書きがありますが、確かに臨場感があり音そのものも瑞々しく自然です。水の冷たさや澄み切った感じが伝わってくるようです。ひとことで沢と言っても水量や流れ方に幅がありますが、今回のトラックはチョロチョロと少量流れるような感じではなく、ある程度の量があって流れも速いです。擬音語で表現するなら、「チョロチョロ」と「ザーザー」の両方が聴こえてくる感じです。流れの方向性はあまり感じられません。離れたところで左から右に流れているとかではなく、前から後ろへ流れている沢の真中に立っているような感じです。従って、音場が狭く耳の近くで音を鳴らすヘッドホンで聴くと頭内定位が気になりやすいように感じます。先ほど臨場感があると書きましたが、もう少し正確に言うなら沢の真中に立って全身を沢の音に包まれているような臨場感という意味です。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、「リアルに聞こえる感じ」とのことです。これをもう少し別の表現にすると、原音の粗や生っぽさが感じられること、周波数特性がなるべくフラットであること、音場がある程度広く癖がないこと等の条件になると思います。具体的には、先ほど書いた水の質や量が分かりやすいものが良いと思います。


・1台目 HD215(SENNHEISER)
 前述の条件をすべてある程度満たしているように感じたので選びました。あまり癖がなく違和感のない範囲で水の冷たさや瑞々しさを出してくれますし、音場も広めで頭内定位が気になるようなことはありません。この価格帯にしてはかなり完成度が高いように感じます。
 他には、ATH-A500、CPH7000、HD201 Gaming、HD497、HP-RX900、MDR-XD400、SE-M870、SHP8900、UR/40とかなり色々聴いてみました。ATH-A500は最後までHD215と迷ったのですが、HD215と比べると若干作ったような冷たさがあったので外しました。CPH7000は水の冷たさを出してくれるという意味では非常に良かったのですが、かなり作ったような音で人によっては沢の音と言うより雑音に感じるのではないかと思ったので外しました。他の機種もそれぞれ不満点がありました。HD201 Gamingは音場が狭く臨場感が出ない点、HD497は自然なのですが水の冷たさや瑞々しさがやや足りない点、HP-RX900は水の冷たさや瑞々しさがほとんど感じられない点、MDR-XD400は悪くないのですが瑞々しさが足りない点、SE-M870は水の冷たさがあまり感じられない点、SHP8900はやや粗っぽく細部のリアリティに欠ける点、UR/40は水の冷たさがあまり感じられない点、等です。
 不満点は、もう少し自然に細部まで描ききって欲しい点です。

・2台目 HD280Pro(SENNHEISER)
 1台目の不満点を踏まえて選びました。この点については、1台目より粗がなく細部まできっちりと描写してくれて良いです。劣る点があるとすれば、水の冷たさや瑞々しさが若干感じられない傾向である点、音場が若干狭い点です。本当はすべてにおいて勝るヘッドホンがあれば良かったのですが、1万円台では見当たらなかったです。
 他には、ATH-A900、DJ1 PRO、HP-AURVN-LV、MDR-7506、RH-300が良かったです。ATH-A900はかなり良かったのですが、HD280Proと比べると若干原音の粗や生っぽさが感じられない傾向です。DJ1 PROは大抵のソースでは不自然に感じられることが多い機種ですが、今回のソースでは許容範囲だと思います。音場は広いですし水の冷たさや瑞々しさを出してくれますが、1台目の不満点を解消することはできないので外しました。HP-AURVN-LVはかなり良かったのですが、HD280Proと比べると音場がこじんまりとしていて音に包まれている感じが出ません。MDR-7506は比較的1台目に近い音で悪くないのですが、音場が狭い点が不満です。RH-300はかなり良かったのですが、HD280Proと比べると音場がやや狭く若干曇っているように感じる点が気になりました。
 何となくですが、1台目を選んだときと比べると機種間の差が小さいように感じます。どれが最も良いと感じるかは、個人差があるのではないでしょうか。ただし、どの機種を選んだとしても、1台目と比べて格段に良くなったとは言い難いような気がします。これは1台目が少し良すぎたことが原因だと思います。数万円のヘッドホンであっても、これらの機種より劣るものは沢山あると思います。
 不満点は、もう少し水の冷たさや瑞々しさを出して欲しい点です。

・3台目 DT660 Edition 2007(beyerdynamic)
 2台目の不満点を踏まえて選びました。2台目と比べて水の冷たさや瑞々しさがしっかり感じられますし、音に包まれている感じも出ます。原音の粗や生っぽさがしっかり感じられるという意味でかなりリアルです。
 問題があるとすれば、沢の「ザーザー」という音がやや目立ってホワイトノイズのように聴こえがちな点です。音量を上げると特にそう感じやすいです。ごく短時間ならあまり問題はないのですが、数十秒以上聴いているとザラザラした感じが徐々に不快になってきますし、聴き疲れもしやすいです。当たり前ですが、生の沢の音を数十秒聴いて不快になることはまずありません。その意味ではリアルとは言えないと思います。ただし、この不快感にしても、少し似たところのあるDT990 Edition 2005やPRO900よりはましです。そういう意味では生っぽさと不快感のなさのバランスが良いのかもしれません。
 不満点は、この不快感と聴き疲れです。

・4台目 MDR-SA5000(SONY)
 4台目はMDR-SA5000、HFI-780、KH-K1000、SR-007+SRM-717の4台でかなり悩みました。大きく分けて、水の冷たさが感じられるMDR-SA5000とHFI-780、癖がなく聴きやすいKH-K1000とSR-007+SRM-717の2つのグループに分けられます。前者は多少癖や作ったような明瞭さがある点がマイナス、後者は原音の粗や生っぽさがあまり感じられず綺麗すぎる点がマイナスです。どの機種も3台目の不満点は解消されます。最終的に、今回の探索の方針である「リアルに聞こえる感じ」に近いのは、水の冷たさと原音の粗や生っぽさが感じられる前者のグループだと判断しました。HFI-780ではなくMDR-SA5000を選んだのは、密閉型のような閉塞感がなく実際に生で聴いているのに近い空間を感じる点、若干聴き疲れしにくい点が理由です。
 他にもいくつか聴いてみましたが、AH-D5000がおもしろかったです。基本的には癖がなく聴きやすいのですが、風の音がやたら目立つのが特徴です。今回のCDは自然音を収録したものなので当然風の音も入っているのですが、大抵のヘッドホンではほとんど気にならないレベルです。それがAH-D5000だと沢の音に集中できないくらい目立ちます(ちょっと大げさな表現ですが)。リアルで良いと言う人もいるのかもしれませんが、他のヘッドホンと比べると明らかに不自然な上、今回は沢の音を聴きたかったので問題になりました。とは言え、仮に風の音が目立たなくても水の冷たさがあまり感じられない等の理由で選ばれなかったと思います。

・5台目 ER-4S(Etymotic Research)
 水の冷たさや瑞々しさ、原音の粗や生っぽさがある程度感じられ、しかも自然で癖のない音に感じられたので選びました。音に包まれるような感じはありませんが、この点は耳覆いサイズのオーバーヘッド型と比べて見劣りしてしまうのは仕方ないところでしょう。少しでも音に包まれる感じに近づけたいならSuper.fi 5 ProやWestone3が良かったですが、水の冷たさや瑞々しさは出してくれません。
 他にはATH-CK10、HP-FX500、CX300等が良かったです。基本的に、低域の多いものや音が柔らかいものはあまり合わないように思いました。


 今回のトラックは、思ったほどヘッドホンによる差は出なかったように思います。例えば同じ自然音でも海の波の音ではもっとヘッドホンによる音色の違いや飛沫の粒の描写に違いが出ます。一応形式に従って5台を選びましたが、あまりこだわらず本文を読んで選んで欲しいと思います。例えば、水の冷たさを出して欲しいならMDR-SA5000とHFI-780、綺麗で聴きやすいものが良いならKH-K1000とSR-007+SRM-717、粗や生っぽさを出して欲しいならDT660 Edition 2007等の選び方です。
 ヘッドホンアンプはHD-1L Limited Edition(RC1)が良いと思います。自然で癖がなく原音の粗や生っぽさも出してくれます。私が所有していないものだとiVHA-1が良いと思います。瑞々しさを出して欲しいなら特に良いでしょう。ただ、かなり高音よりで硬く締まった音なので、今回選んだヘッドホンを使用すると極端なバランスになってしまってあまり良くないと推測されます。その場合には、HD650のように少し低音よりで柔らかめの音のヘッドホンが合うと思います。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


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