第13回 トッカータとフーガニ短調/バッハ

 今回取り上げるのはバッハの「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」です。特に導入部は有名でテレビ番組等でも頻繁に使われていたので、大抵の人は知っているのではないかと思います。演奏はヴァルヒャ、オルガンはオランダのアルクマール聖ラウレンス教会大オルガン(オルガンにも色々ありますが、このオルガンは元は17世紀頃に作られたバロック・オルガンです)、1956年の録音です。ディスクとしては、ヴァルヒャの残したバッハのオルガン作品全集の中から代表的なものを8曲収めた「J・S・バッハ:オルガン名曲集」を使用しました。ヴァルヒャは16歳で失明した旧西ドイツのチェンバロ・オルガン奏者で、バッハのオルガン作品の演奏については20世紀最高と評されることも多い演奏家です。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、特に書いていなかったので私が決めたいと思います。今回の曲の重厚さや荘厳さが感じられること、オルガンの音色や質感をきちんと表現してくれること、輪郭がある程度明確なこと、厚みがあって原音の実体感が感じられること、ある程度しっかりした低域があること、これらを総合的に判断したいと思います。


・1台目 ATH-A500(audio-technica)
 オルガンの音色や質感をきちんと表現してくれる点が良かったので選びました。ATH-A500は中域から中高域の明るさが合わない曲も多いですが、今回の曲ではむしろその明るさによってオルガンの質感がうまく出せている印象です。輪郭が明確で一つ一つの音がきちんと聴き取れる点も魅力です。
 他にはHD215、HP-RX900、HX-5000、MDR-XB700、SE-M870等で聴いてみました。HD215は最後までATH-A500と迷ったのですが、ATH-A500の方がオルガンの質感を出してくれるように感じたのでそちらにしました。HP-RX900は全体的に音色が不自然で、中域に不要な芯が通っているように感じる点が気になります。HX-5000は音の厚みや低域の質は良いのですが、音色が多少おかしいですし乾いたような違和感があります。MDR-XB700は全体的には悪くないのですが、低域の量が多すぎる点と音が柔らかすぎる点が合いません。SE-M870はATH-A500やHD215と比べると中域から中高域の明るさが出ませんし、輪郭がややぼやけている点も気になります。
 不満点は、音の厚み、重厚さ、荘厳さが足りない点です。

・2台目 RP-21(Equation Audio)
 1台目の不満点を踏まえて選びました。この点についてはしっかり改善されます。特に重厚さ、荘厳さは同価格帯の他の機種と比べても素晴らしいものがあります。音色も自然で低域もしっかり出ます。オルガンの質感や輪郭の明確さは特に良いとは感じませんが、決して悪くはありません。
 他にはDJ1 PRO、K181DJ、MDR-7506、RH-300等で聴いてみました。DJ1 PROとMDR-7506は厚みがあり輪郭も明確で中域から中高域の明るい音色の表現も魅力的なのですが、重厚さや荘厳さとはまた違う感じですし音色もやや癖があります(とは言え、今回の曲だと他の大抵の曲よりはこれらのヘッドホンの癖が気にならない方ですが)。K181DJは厚みがあり音色もDJ1 PROやMDR-7506よりは自然なのですが、オルガンの質感や中域から中高域の音色の明るさがあまり感じられません。RH-300は非常に癖のない音でオルガンの質感も表現してくれるのですが、重厚さや荘厳さという点ではRP-21に分があります。
 不満点は特にありませんが、輪郭がもう少し明確でオルガンの質感を表現してくれればなお良いと思います。

・3台目 ATH-W1000(audio-technica)
 2台目の不満点を踏まえて選びました。この点についてはしっかり改善されます。音色には多少癖がありますが、それ以上にオルガンの質感を出してくれる点が大きな長所だと思います。そのおかげか独特の相性の良さを感じます。荘厳と言うとかなり重苦しいような印象を受ける人も多いと思いますが、ATH-W1000は荘厳でありながら色鮮やかであまり重苦しくない印象を受けます。荘厳と言うより壮麗と言った方が的確かもしれません。今回の曲ではある程度の重苦しさがあった方が良いという人も多いと思いますが、少なくともATH-W1000で今回の曲の聴く限りは重苦しくなくても魅力的な表現というものもありうると思いました。
 不満点は魅力によってあまり気にならない印象ですが、もう少し厚みや重厚さがあった方が良いとは思います。

・4台目 PROline2500(ULTRASONE)
 3台目の不満点を踏まえて選んだと言うよりは、単に魅力的だから選んだと言うべきかもしれません。とは言え、3台目の不満点もしっかり改善されます。
 非常に重厚で荘厳です。3台目では壮麗と言った方が的確と書きましたが、PROline2500は3台目より荘厳に近い印象です。厚みがあって低域もしっかり出ます。輪郭はあまり明確ではありませんし、音色も自然とは言い難いですが、それらの欠点を補ってあまりある魅力があるように感じます。
 他にはAH-D5000、HFI-780、HP-DX1000、PRO900、PROline750等で聴いてみました。AH-D5000は音色が自然で輪郭も適度に明確、特に気になるような欠点はありません。正直ATH-W1000ではなくこちらを選ぼうかとも思ったのですが、オルガンの質感と荘厳さではATH-W1000に分があるように感じたので外しました。HFI-780とHP-DX1000は厚みがあり輪郭も明確で中域から中高域の明るい音色の表現も魅力的なのですが、音色の癖がやや気になりますし荘厳さはあまり出してくれません。PRO900とPROline750はPROline2500に似ているのでどれが選ばれてもおかしくないとは思いますが、PRO900は低域が多すぎ、PROline750はやや明るく軽いように感じたので外しました。

・5台目 AH-C700(DENON)
 最初に書いた条件をすべてある程度満たしています。特に厚みとオルガンの質感は、他の機種ではなかなかこうは行きません。低域は質的にも量的にもしっかりしたものを持っていますし、輪郭も明確な傾向です。音色だけは若干気になりますが、これよりも音色が自然で他の点についても同等以上のものは見当たりませんでした。
 他にはCX300とATH-CKM50が良かったです。どちらもしっかりした低域と輪郭の明確さが良いです。特にCX300は音色の自然さとオルガンの質感という点でもなかなかのものです。


 今回は総合的に判断したつもりですが、他にも色々な聴き方があると思います。ヴァルヒャの演奏は比較的はっきりと一つ一つの音を聴き取れる傾向なので、そういう風に聴きたいならHFI-780やHP-DX1000が良いと思います。あくまで音源通り聴きたいならAH-D5000やKH-K1000が良いでしょう。
 ヘッドホンアンプはAT-HA2002が良いと思います。厚みと荘厳さという点で相性が良いです。輪郭の明確さや音色の自然さを重視するならHD-1L Limited Edition(RC1)が良いと思います。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


試聴はこちら(違うCDですが同一の曲です)。













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