第12回 PILENZE PEE,GOVORI/「ブルガリアン・ポリフォニーI」より

 今回取り上げるのはブルガリアのポリフォニー(複数の異なる動きのパートを持つ多声音楽)です。演奏はフィリップ・クーテフ合唱団、1988年に東京五反田簡易保険ホールでデジタル録音されたものです。録音方法については相当なこだわりがあったようで「マイクはB&K4006、2本だけを三点吊りにした、完全なワンポイント録音」等の説明があります。音としては、女性の声だけで構成されています。声の質はどちらかと言うと硬く明るい感じです。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、特に書いていなかったので私が決めたいと思います。声が澄んでいてかつ力強さがあること、不協和音をきちんと表現してくれること、今回の曲の神秘的な感じを出してくれることの三点を重視したいと思います。


・1台目 HD215(SENNHEISER)
 前述の条件を最も満たしているように感じたので選びました。どこが突出して良いということはありませんが、この価格帯としてはどの点についてもそこそこ優れていると思います。それから、今回の曲を聴くのに最もマイナスとなるのは個人的には曇りだと思うのですが、HD215はその曇りがほとんど気になりません。減点方式で見ても、今回の曲を聴くのに向いていると思います。
 他にはATH-A500、CPH7000、HD497、RH600等で聴いてみました。ATH-A500は最後までHD215と迷いましたが、ATH-A500は若干無機質で人の声のリアルな質感が出ないので外しました。ただし、無機質であるが故に単に澄んでいるとか神秘的であるという見方では勝っているように感じる人もいると思います。CPH7000は基本的にはHD215やATH-A500と比べてもそれほど見劣りしないのですが、音場が狭く残響音が楽しめないような感じなので外しました。HD497は自然で聴きやすいのですが、やや力強さに欠ける点が気になります。RH600は高い音が張り出すような感じになるのが気になりますし、不協和音もきちんと表現できない印象です。
 不満点は、全体的に少しずつ物足りない点です。

・2台目 HP-AURVN-LV(CREATIVE)
 1台目の不満点を踏まえて選びました。最初に書いた条件の中だと、特に声が澄んでいる点が良いです。神秘的な感じもきちんと出してくれますし、力強さや不協和音についても不満はありません。1台目と最も違うのは、伸び伸びと鳴らしてくれる点だと思います。しかも一つ一つの音の微細な描写でも勝っているため、リアリティがあります。音色という意味では1台目もなかなか自然でしたが、HP-AURVN-LVはそれ以上です。
 他にはATH-A900、DJ1 PRO、K514、MDR-7506、SE-A1000等で聴いてみました。ATH-A900は基本的にはなかなか良いのですが、ATH-A500と同じように無機質な感じが気になりますし、HP-AURVN-LVの伸び伸びした鳴らし方の後に聴くとどこか窮屈で音楽に身を任せきれないようなところがあります。DJ1 PROとMDR-7506はヴォーカルが不自然に感じられることの多い機種ですが、今回のような曲だと比較的問題なく聴ける上に明るいところが合うことがあるので聴いてみることにしました。実際に聴いてみると、思った通り不自然さはそれほど気になりません。今回の曲の明るく硬い声質がしっかり出ますし、かなり力強いです。ただ、今回聴いた他の機種と比べるともう少し澄んでいて欲しいと思ってしまいますし、神秘的な感じもあまり出してくれない印象なので外しました。K514はなかなか良いのですが、1台目と比べて特に良いかと言われるとそうは感じませんし、力強さという点ではやや不満が残ります。SE-A1000は声が不自然な上に張り出して痛いです。SE-A1000はあまりこういうことはないのですが、今回の曲との相性は悪かったようです。
 不満点は、もう少し力強さやスケールの大きさが欲しい点です。

・3台目 DT660 Edition 2007(beyerdynamic)
 2台目の不満点を踏まえて選びました。2台目と比べて厚みのあるがっしりとした音で、音場の二次元的な広さでかなり勝っているので、力強さにしろスケールにしろある程度改善されます。最初に書いた条件についてもしっかり満たしています。ただし、ややざらつくところがあるので、「澄んでいる」の意味を「粗がなく繊細で透明感がある」と捉えるならいまいちです。そうではなく、「硬く明るく冷たい」というようなイメージなら、DT660 Edition 2007はかなり良いです。今回の曲では後者の意味の方が重要であると感じたのでDT660 Edition 2007を選びましたが、もし前者の意味を重視するならまた違った機種が選ばれると思います。他に選んだ理由としては、声が瑞々しく生命力に満ちているような魅力を感じる点が挙げられます。
 不満点は、若干明るすぎて音色が不自然に感じられる面がある点です。

・4台目 SR-325i(GRADO)
 3台目の不満点を踏まえて選びました。二次元的な音場の広さでは劣りますが、それ以外の点はかなり似た傾向で、なおかつ若干自然な音色になります(自然に感じる主要因は、周波数特性上の癖のなさにあると思われます)。最初に書いた条件については、どの点をとっても3台目とほぼ同レベルのように感じられます。
 他にはAH-D5000、ATH-A2000X、HP-DX1000、MDR-SA5000、RS-1、SRS-4040等で聴いてみました。AH-D5000は総合的に見てかなり良く、2台目と比べるとスケールが大きくなるのですが、全体的にかなり似ていて改めて選ぶほどの違いはないように感じました。ATH-A2000X、MDR-SA5000は「粗がなく繊細で透明感がある」という意味で澄んでいてなかなか魅力的なのですが、力強さや自然さという点がやや不満です。HP-DX1000は明るく力強い点は良いのですが、SE-A1000と同じように不自然な上に張り出して痛いです。RS-1はSR-325iと少し迷ったのですが、「硬く明るく冷たい」という意味での澄んだ感じ、言い換えると冷たい雪解け水のような澄み方を求めるならSR-325iの方が良いと感じたのでそちらにしました。もし残響音を重視するとかSR-325iでは硬すぎるというならRS-1の方が良いと思います。SRS-4040は「粗がなく繊細で透明感がある」という意味では澄んでいるのですが、今回の曲はもっと冷たい雪解け水のような澄み方が欲しい印象だったので外しました。

・5台目 ATH-CK10(audio-technica)
 最初に書いた条件を最も満たしているように感じたので選びました。特に「硬く明るく冷たい」という意味での澄んだ感じはしっかり出してくれます。その他の点についても特に不満は感じません。バランスド・アーマチュア型だと機種によってはどうしても力強さに欠けることがありますが、今回の曲をATH-CK10で聴く限りそういった不満はまったくと言って良いほど感じません。
 他にはHP-FX500とHP-FXC50が良かったです。HP-FX500はSE-A1000やHP-DX1000のような感じで張り出すのが多少気になりますが、AH-C700、ATH-CK7、RP-HJE70あたりと比べると聴きやすいです。また、カナル型にこだわらないならEP-AVNAIRが非常に魅力的でした。


 最初の条件には書きませんでしたが、色々と聴いてみると響きを感じ取るために音場がある程度重要になってくる印象でした。今回選んだヘッドホンは響きと音場という意味でも悪くはありませんが、もし響きと音場を最優先するなら違うヘッドホンが選ばれたと思います。とは言え、そうなると澄んだ感じや力強さに欠けるヘッドホンが選ばれることになりそうですし、今回の条件プラス響きや音場となるとかなり厳しくなります。
 ヘッドホンアンプは重視する点によって違ってくると思います。「硬く明るく冷たい」という意味での澄んだ感じを重視するならhpa200b(ハイエンド仕様)やHD53、力強さを重視するならHD-1L Limited Edition(RC1)といった感じです。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


試聴はこちら。













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