第13回 1万円以下の密閉型ヘッドホン比較

 ATH-A500HP830HP-D7MDR-XD400SE-M870
 今回は1万円以下の密閉型の特集です。1万円以下といっても馬鹿にはできません。普通のMDコンポやパソコンのオンボード音源に接続するなら、十分の実力を持っている機種もあります。
 この価格帯はかなり機種が豊富ですが、今回は私が所有している中で個人的にお気に入りのもので、客観的に見て音の良いものを選びました。


・周波数特性
 平均が3になるように5段階で表示しています。

超低域 低域 中域 高域 超高域
ATH-A500 3 4 2 3 3
HP830 3 4 2 3 3
HP-D7 4 4 2 2 3
MDR-XD400 4 4 3 2 2
SE-M870 3 4 2 3 3


・分解能

ATH-A500≧SE-M870≧HP830≧MDR-XD400≧HP-D7
 ATH-A500はこの価格としては非常に分解能が高いです。頭一つ出ている感じです。SE-M870、HP830、MDR-XD400の3機種も価格のわりにはかなり良い部類に入ると思いますが、ATH-A500には及ばないように感じます。ただし、ATH-A500は線が細めで高域の癖があるために分解能の良さを稼いでいる部分があるため、それを抜けばこれらと同レベルかと思われます。HP-D7だけはいまいちです。低域が強めでぼわつくせいもあると思いますが、それにしても根本的に分解能が劣っています。

・音場の明確さ
ATH-A500≧MDR-XD400≧HP830≧SE-M870≧HP-D7
 ATH-A500はやや耳の近くで鳴っている感じが気になりますが、かなり明確でしかも広いです。MDR-XD400はSONYらしい小さくまとまった音場感ですが、非常に立体感があります。HP830は可もなく不可もなく、といった感じです。SE-M870は耳の近くで鳴っているのがかなり気になりますが、明確さはそれなりにあります。HP-D7には音場感を求めないほうが良いです。

・聴きやすさ
MDR-XD400≧SE-M870≧HP830≧HP-D7≧ATH-A500
 MDR-XD400は、音そのものはわりと細いのですが、高域が弱くエッジもきつくないため非常に聴きやすいです。SE-M870は高域はそれなりに出るのですが、音があまり細くないため聴きやすいです。HP830はややエッジがきついですが、全体的にはそれほど聴き疲れしないです。HP-D7はエッジはきつくないのですが、耳の近くで音が鳴っている上ホワイトノイズが大きいためやや聴き疲れします。ATH-A500は高域が出る上に線が細い音でエッジもきつめなため、かなり聴き疲れします。そうは言っても実用レベルではあると思います。

・原音忠実性
ATH-A500≧HP830≧SE-M870≧MDR-XD400≧HP-D7
 上位3機種は基本的には原音に近いと言って良いと思います。ただし、どれも一部に癖があります。ATH-A500はaudio-technica独特の高域の金属めいた鳴り方があります。HP830はギターやハイハットの音が個性的です。SE-M870は原音の粗があまり感じられません。下位2機種はあまり原音に近いとは言えません。MDR-XD400は極端に原音から遠いわけではなく、低音よりで全体的に生っぽさが足りません。HP-D7は原音とはかけ離れています。

・温かみ
HP830≧SE-M870≧MDR-XD400≧HP-D7≧ATH-A500
 HP830は低域がしっかり出る上、音そのものも太めで安心感があります。それでいて繊細さや生楽器の粗っぽさもあり、それによってより温かみが増しているように思います。SE-M870はHP830と比べると生楽器の粗っぽさがなく自然な温かみではないようにも感じますが、音が柔らかく基本的には温かみ十分です。MDR-XD400は低音よりで、意外と線が細いももののおとなしめな音作りになっているため温かみもそれなりに出ているといった印象です。HP-D7はただ低音よりといった感じで、特に温かみは感じません。ATH-A500はそれなりに低音が出るのですが、音が硬く、しかもスカスカした感じがあり、温かいというよりは冷たく感じます。

・明瞭さ
ATH-A500≧HP830≧SE-M870≧HP-D7≧MDR-XD400
 ATH-A500は分解能の良さと線の細さ、高域の癖で明瞭さを獲得しています。この明瞭さに慣れると下位の機種は曇っているように感じられるかもしれません。HP830とSE-M870も基本的には明瞭なのですが、線が細くないことと高域の癖がないことから、ATH-A500ほどの明瞭さはありません。HP-D7とMDR-XD400は低音が支配的で高域が不足に感じられるため、曇っているように感じます。

・ノリの良さ
SE-M870≧HP830≧ATH-A500≧HP-D7≧MDR-XD400
 SE-M870とHP830は低域がしっかり出る上に音に厚みがあり、なかなかノリが良いです。ATH-A500も悪くないのですが、音に厚みがないため上位2機種と比べるといまいちに感じます。HP-D7とMDR-XD400は低域が支配的でしかも意外と音が細いため、あまりノリが良いとは言えない。

・弦楽器の表現
SE-M870≧HP830≧ATH-A500≧MDR-XD400≧HP-D7
 SE-M870はとにかく伸びが良く心地よいです。それに対してHP830は繊細でありながら生の粗があります。この2機種はかなりベクトルが違うので好みの違いが出そうです。ATH-A500はそれなりに原音に近いのですが、伸びが悪く魅力に欠けます。MDR-XD400はサラサラした感触が良いのですが、原音から離れている上やや響きすぎに思います。HP-D7はとにかく原音と違いすぎます。

・金管楽器の表現
ATH-A500≧HP830≧SE-M870≧HP-D7≧MDR-XD400
 ATH-A500はかなり高い音で、魅力的です。HP830はATH-A500よりやや低めの音ですが、それでもなかなか鮮やかです。SE-M870も負けていませんが、上位2機種と比べると刺激に欠けます。HP-D7とMDR-XD400は音が低めで、かなりぬるい印象を受けます。

・打ち込み系の音の表現
SE-M870≧HP830≧ATH-A500≧HP-D7≧MDR-XD400
 SE-M870は非常に相性が良いです。弦楽器や金管楽器も悪くないのですが、打ち込み系の音は格別です。HP830も、生楽器と打ち込み系の音どちらもうまく鳴らすという意味ではSE-M870と似ていますが、やや生楽器よりのバランスです。ATH-A500はaudio-technicaらしい音でなかなか相性が良いのですが、低域の厚みが足りない点や音が細い点が仇となり、上位2機種よりは劣っている感じです。HP-D7も相性が良い部類に入ると思うのですが、今回取り上げた機種の中ではこの順位です。MDR-XD400は高域が不足している点、音が細い点、切れが悪い点が打ち込み系の音との相性の悪さに繋がっています。

・ヴォーカルの艶っぽさ
HP830≧SE-M870≧HP-D7≧MDR-XD400≧ATH-A500
 HP830は非常に艶っぽいです。SE-M870もなかなか艶っぽいですが、HP830と比べると生っぽさが足りないように感じられます。HP-D7はVictor独特の芯の通っていないサラサラした感触があり、それが艶っぽさに繋がっています。MDR-XD400は線が細めでありながら音に丸みがあり、しかも低音よりであるため、そこそこの艶っぽさがあります。ATH-A500は音が硬いため艶っぽさはいまいちです。

・側圧の弱さ
MDR-XD400≧HP-D7≧ATH-A500≧SE-M870≧HP830
 MDR-XD400はかなり側圧が弱いです。HP-D7とATH-A500は普通、SE-M870とHP830は普通からやや強めです。最も側圧が強いと感じるHP830も、特別側圧が強いわけではなく、ずれにくくするために必要なレベルの側圧の強さだと思います。

・耳への負担の小ささ
SE-M870≧MDR-XD400≧ATH-A500≧HP-D7≧HP830
 どの機種もイヤーパッドの内周のサイズ、深さともにある程度あり、耳の小さい人はほとんど耳に当たらないレベルだと思います。

・頭頂部への負担の小ささ
ATH-A500≒HP-D7≧MDR-XD400≧HP830≧SE-M870
 ATH-A500とHP-D7は、それぞれウイングサポートとX-ホールドシステムという構造で頭頂部を押さえないようになっています。MDR-XD400はヘッドバンドが輪のような形状で非常にソフトな付け心地になっています。HP830は普通のフリーアジャストのヘッドバンドです。SE-M870はややクッションが薄めのヘッドバンドがそのまま当たります。

・頭部への接触面積
SE-M870≧HP830≧ATH-A500≧HP-D7≧MDR-XD400
 SE-M870は幅広のヘッドバンドがそのまま頭に当たるため、接触面積は広めです。HP830は普通の幅のヘッドバンドです。ATH-A500とHP-D7は頭頂部を押さえない形で取り付けられたパッドだけが当たるため、接触面積は狭いです。MDR-XD400は輪のような形状の独自のヘッドバンドで、かなり接触面積が狭いです。

・イヤーパッドの材質の肌触り
SE-M870≧HP830≧ATH-A500≒MDR-XD400≧HP-D7
 SE-M870とHP830はレザータイプの人工皮革、ATH-A500とMDR-XD400はシワが気になる安っぽい人工皮革、HP-D7はややザラザラした布製です。SE-M870はMDR-CD3000やATH-SX1のような柔らかい材質で、非常に心地よく、しかも蒸れにくいです。HP830はSE-M870よりやや硬いです。ATH-A500とMDR-XD400は普通の材質で、良くも悪くもないといった感じです。HP-D7はMDR-CD480やAH-G500のようにややザラザラした布製で、不快に感じる人もいるかもしれません。

・ずれにくさ
HP830≧ATH-A500≧HP-D7≧SE-M870≧MDR-XD400
 どの機種もずれやすくはないですが、人によってはMDR-XD400だけはややずれやすくなってしまうかもしれません。それ以外の機種は真下を向いたり真上を向いたりしてもほとんどずれないと思います。

・蒸れにくさ
HP-D7≧HP830≧SE-M870≧MDR-XD400≧ATH-A500
 HP-D7はイヤーパッドが布製でハウジングにも孔が開いているようで、密閉型にしてはかなり蒸れにくいです。HP830は耳の下に隙間が空くような装着感になりやすいため、耳が密封されず蒸れにくいです。SE-M870はイヤーパッドの通気性がそれなりにあるようです。MDR-XD400とATH-A500はかなり蒸れます。

・イヤーパッドの内周のサイズ
ATH-A500:48mm×58mm
HP830:46mm×56mm
HP-D7:48m×64mm
MDR-XD400:42mm×64mm
SE-M870:42mm×60mm
 HP830は縦が56mmとやや短いため、耳の大きい人は当たると思います。横幅が最も狭いのはMDR-XD400とSE-M870の42mmですが、どちらもそれなりの深さがあるためあまり耳に負担はかかりません。

・音漏れの少なさ
SE-M870≧ATH-A500≧HP830>MDR-XD400≧HP-D7
 上位3機種はアウトドアでの使用に堪えるレベル、下位2機種は厳しいレベルです。SE-M870はかなり音漏れが少ないです。ATH-A500も良好なレベルだと思います。HP830は密閉型としては普通でしょう。MDR-XD400とHP-D7は音漏れ的にはセミオープンと考えた方が良いかもしれません。
 なお、遮音性もほぼこの順番どおりになります。


 簡単にコメントを書いてみます。

ATH-A500:
総合的に見て大きな欠点はないですが、逆に魅力にも欠ける気がします。得意分野はポップスです。
HP830:
装着感は悪いですが、温かみやヴォーカルの艶っぽさ等国内メーカーではなかなか出せない音楽性があります。どんな音楽でも魅力的に鳴らしてくれます。
HP-D7:
音楽は分解能で聴くものではありません。それに同意できる人で、ポップスをメインで聴く人にはおすすめです。
MDR-XD400:
聴き疲れの少なさと立体感のある音場が魅力です。また、好みが分かれるとは思いますが、非常にソフトな装着感も個性的です。映画鑑賞やゲームに向いているのではないでしょうか。
SE-M870:
耳の近くで音が鳴っているという欠点がありますが、それを除けば何でも魅力的に鳴らしてくれます。イヤーパッドが非常に心地よいのもポイント高いです。

 今回取り上げた機種は、1万円以下の中では非常に出来の良い機種ばかりです。この価格帯は、大きな声では言えませんが使用に堪えないレベルのものがかなりの割合を占めます。情報なしで買おうとすると、ハズレの沢山入っているクジビキみたいなもので、ある意味事前調査が最も意味を持つ価格帯とも言えます。
 そういう意味で、今回のヘッドホンはどれもハズレではないと思います。ヘッドホンにあまりお金をかける気のない人、或いは試しにそれなりの音を鳴らすヘッドホンを買ってみようと思っている人にはかなりおすすめできます。どれを選ぶかは好みだと思いますので、今回の内容を参考に検討してみてください。







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