※イヤーパッドをFocus Padsに交換済み
音の傾向はフラット。低域はしっかりと出ておりかなり下まで伸びるし厚みもある。
実体感が有りブーミーになる事もない良質な低音と言ってよいが、深く沈みこんだり弾力を伴ったような低音ではなく、そういう意味ではダイナミック型に一歩ゆずる。
中域は他の帯域に邪魔されることなくはっきり聞こえてくる。質的にも高く、またボーカルをある程度際立たせて聞かせる傾向。
高域も量・質共に申し分なく、かなり高い所まで伸びている。ある程度の太さがありつつあまり癖なく鳴らす方向性。
音の分解能はかなり良い。音の分離、一つ一つの音の微細な描写いずれも高い能力を持っている。
音場感は広く良好。同価格帯(10万円〜20万円)のヘッドホンにおいては特筆できるほどではないが、絶対的な能力として見れば十分に広いと言える。
また、音場が特定の方向に偏っておらず、左右・奥行及び立体感のいずれも良好でバランスが良い。
原音忠実性は良好。どの楽器あるいは声においてもあまり癖が無く素直に表現するし、原音の粗さや痛さもしっかり表現してくれる。
明瞭さ、音の鮮やかさはとても良い。音の厚みも申し分なく、更に音の勢いというか持っているエネルギー感が高い。
更に音の立ち上がりや収束といった反応が極めて速く、スピード感が有る。エネルギー感の高さと合わせて、躍動感が有りながら勢い任せでなくきちんとコントロールされていると感じる。
そういった傾向がある一方で背景の静けさもかなりレベルが高く、静寂を大切にするような録音や楽曲でも存分にその能力を発揮する。
ヴォーカルの艶っぽさはなかなか良い。男声・女声いずれにおいても高い表現力を持っている。サ行はやや気になることが有るが痛いという程ではない、という微妙な所。
弦楽器は繊細な表現もきちんとこなすが、音の伸びの良さや勢いの方が前面に出る。これは、前述の音のエネルギーも関係していると思われる。
金管楽器は鮮やかで、量も多く楽しめる。また、金属的な質感を出すのが上手い為に、金管楽器のみならずシンバルやドラムのハイハット等の表現も良好。
打ち込み系の音は非常にうまい。低域の厚み、音の圧力共に十分に高く、また中域や高域の表現も上手くこなしていると感じる。
そしてこれらの点に加えて特筆すべきだと思うのはエレキギターの表現で、特にクラッチサウンド(ディストーション)の表現が素晴らしい。
個人的にこれが上手いと感じるヘッドホンはあまりなく、特に各社のフラッグシップとなると上品すぎるように感じる事が多いが、本ヘッドホンは別。
音の厚み、エネルギー感の高さ、スピード感も加わり、ロック、パンク等との相性は抜群。
近年10万円〜20万円のクラスのヘッドホンですらハイエンドとは言えない状況になってきているが、その中でも今なお独自の魅力を持っていると感じる。
全体的にバランスが取れており様々なジャンルで価格相応の表現力を持ちつつ、なおかつ得意分野を持っているという点が本ヘッドホンの魅力であろう。
一方、音量の取りにくさは最悪レベルで、かなりの出力を持ったHPAでなければそもそもまともに音量が稼げない。
一例をあげると、PC>Lynx HILO>マス工房 model 370 CP(ハイゲイン)ならば、HD650の12時のボリューム位置とHE-6の5時あたりが聴感上同等。
また、駆動するHPAの癖が出やすい傾向にある上音量を取れればそれで大丈夫かというとそうではなく、駆動力が足りないHPAで鳴らす場合の音質差は一般的に駆動が難しいと言われるヘッドホンと比してすら大きい。
数あるヘッドホンの中でも最も扱いにくいヘッドホンの一つと言ってよいだろう。
なお、本レビューはイヤーパッドをFocus Pads(外側面及び内側面が人工レザー、肌に触れる部分がベロアのハイブリッド)に交換し行っている。
全てベロアのイヤーパッドの場合、音場が広がる代わりに低域がより柔らかい方向に変化し量がやや減り、音との距離感が出来てエネルギー感が少し下がる。
より万能タイプのヘッドホンになる代わりに、独特の魅力をやや失うとも言える。
Focus Padsの購入は私が買った当時はHead Directのみの取扱だったが、現在はフジヤエービックでも取り寄せ対応になるものの購入できるようになっている。
装着感
装着感は悪い。側圧の強さ、イヤーパッドの柔らかさ、肌触り等は特に問題ないのだが、やはりケーブル抜きで502gという重量は非常に負担となる。
HE-1000と比べれば20グラム程度の差のはずなのだが、個人的には数字以上に差を感じる。
長時間の使用には全く向いていないし、その重さゆえに側圧が弱い訳ではないが保持する力が足りているとは言えず、姿勢がある程度制限される。
もっとも、これ以上側圧を強くすることは装着感を更に悪化させるだけと思われるので、これがぎりぎりのバランスなのだろう。
また、頭頂部が痛くなるという程ではないが、重さの分散がそこまで上手く行っておらず負荷が偏っていると感じられる。
この重さや装着感だと、どんなに音が良くても耐えられないと感じる人は多いと思われるので、可能な限り試聴あるいは試着だけでもしてから購入した方が無難。
その他
ケーブルは左右両出しの着脱式。ヘッドホン側の端子はSMA-P型という規格化はされている端子だが主な用途は同軸ケーブルであり、ヘッドホンの端子としては非常にマイナーであろう。
端子自体はそれなりの強度を持っているが、非常に細く小さいために強度はあまり高くないと思われ、慎重な扱いを要する。
純正のケーブルは4ピンXLR(2m)のみで、4ピンXLR→6.3mm変換ケーブル(1m)及びSMA-P端子オスのスペア(ケーブル側)が付属する。
変換ケーブルがあるとはいえ、純正ケーブルがバランス駆動用しかないという点でも本ヘッドホンの特殊さを物語っている。
アンプ側のコネクタは4ピンXLR・6.3mmTRSフォンともにノイトリック製。
再生環境
PC→Lynx HILO(USB接続、ASIO2.0)→AURALiC Taurus MK2(ライン接続はバランス、ヘッドホンは4ピンXLR接続、BAL Mode)
マス工房のHPAであるmodel 370 CPは録音レベルの低い音源で十分な音量が取れない事、また音量が取れても明らかに駆動力が足りないと感じる事から使用していない。
因みにmodel 370 CPも駆動力はかなりある方でアンプとしての基礎クオリティも手持ちの中では随一であり、HE-1000であればしっかりとドライブできているが、それでもHE-6を駆動するには力不足のようである。
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投稿者:take 投稿日:2018.2.17
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