音の傾向はフラット。低音は締りや弾力を特別感じさせる表現ではないが、自然な鳴りでローエンドまでしっかり伸びる。
膨らんだ表現(ブーミー)になる事はないし、十分な量は出ているのだが、質感のせいかあまり目立たない。
また、弾力や沈み込み、圧力と言った要素もあまり出せない為に、この部分をウィークポイントと感じる人もいると思われる。
中域は他の帯域に邪魔されることなくはっきりと聞こえてくる。量的にも十分だし質も高い。ボーカルが引っ込む等の問題も特に見受けられない。
高域はよく伸び、量も十分で非常に高い質を持っている。荒や癖なども殆ど感じさせない。
音の分解能、音場感は極めて良い。音の分離や音の細部の描写を非常に高いレベルでこなす。
低域の混ざりがちな音も聞き分けやすく、質の違いも感じ取りやすい。また、中域と高域の分解能もとても高いレベルを持っている。
音場は非常に広くて開放感が有り、ヘッドフォンとしては最高レベルだと思われる。左右の広がりも前後の奥行きも両方素晴らしく、更に立体的な表現が楽しめる。
定位もしっかりしており、どの音の位置も明確。加えて要因は不明だが独特の臨場感が有り、LIVE音源を聞くと素晴らしい体験を提供してくれる。
広大な音場ではあるが情報量も非常に多いために、音が散在しスカスカに感じるようなことは少ないと感じるが、これは人により見方が変わるだろう。なお、それを踏まえても一部ソースでは問題が露わになることが有る。
また、音の残響の処理も非常に上手く、先の広い音場と相まって、広大な空間に音が余韻を残しながら消えていく様は素晴らしく、HE-1000の最大の魅力の一つと言えるだろう。
明瞭さ、音の鮮やかさは非常に良い。音の厚みは普通で、特別に感じさせるような表現ではない。
むしろ音の立ち上がりと収束の速さ、音離れの良さなどが相まっていい意味での音の軽やかさを感じさせる。しかし、迫力を要求されるソースではもっと音の厚みがほしいと感じる。
原音忠実性も高いレベルを持っているが、若干音に明るさを付加するように感じる。これと前述の音の軽やかさ、音の鮮やかさが相まって、やや煌びやかな印象を受ける人もいるかもしれない。
音に重みを感じさせるような表現はやや苦手。基本性能の高さである程度カバーは出来るが、それでも限界はある。
人の声の表現は非常にハイレベル。細かいニュアンスの違い、声の掠れや艶などもしっかり表現する。サ行の刺さりは、意図的に丸める事はしないのでソースによっては刺さる事もあるが特別気になるようなことは無い。
弦楽器は繊細な表現も十分こなすが、どちらかと言えば音の透明感と伸びの良さが際立つ印象。バイオリンやピアノが特に魅力的。
アコースティックギターやコントラバスは弦の振動や弦をはじくニュアンスなどもしっかり表現してくれる。
金管楽器は鮮やかな音色で、演奏の抑揚の変化や演奏表現の違いなどにもしっかりと追従する。
打ち込み系の音もなかなか上手いが、低域の量感や弾力、音の厚みを求めるような場合は向かない。但しそれらが不足しているわけではないので、余程厚みや重みが必要でなければ気にならないだろう。
とにかくヘッドホンの様々な性能を高レベルにしたうえで、バランスよくまとまっている機種。特に音場の広さは特筆するレベルであろう。
音に重みや圧力を求めるような表現にはあまり向かないが、その分野ですらバランスの良さと基本性能の高さでそれなりに聴けてしまう。
なおイヤーパッドをV2用に変更すると、色付けしていた附帯音が減りよりニュートラルな音になる。日本ではまだ売っていないようだが、Head Directで購入することが可能。
前フラッグシップのHE-6と比べれば音量は取りやすくなったが、それでも一般的なヘッドホンと比べれば依然音量は取りにくい。送り出し側やアンプの出力にも左右されるが、少なくともHD650比で明らかに音量が取れない。
一例として、PC>Lynx HILO>マス工房 model 370 CP(ハイゲイン)ならば、HD650の12時のボリューム位置とHE-1000の2時と3時の間あたりが同等になる。
少なくとも、一般的なヘッドホンと比べれば明らかに駆動が難しい部類に入ると思われる。
また、駆動力のないHPAで鳴らした際の音質差も大きく、低域の実体感が薄れ更に量感が減り、音が全体的に細身になり、音場感は広さが狭まった上で定位があいまいになり立体感が薄れる。
尚これはあまり駆動力が無い機種と言っても据え置き型の話であり、ポータブルではどのようになるかは試していないのでその点注意されたい。
性能をきちんと発揮させたければそれなりのアンプは必須であろうし、出力が大きくないHPAだとそもそも満足な音量を得られない可能性が高い。
装着感
側圧はやや強め。イヤーバッド内径が非常に大きいために、気を付けないと装着位置が安定しない。但し一度装着してしまえば、多少動いてもずれたりすることは無く安定している。
イヤーパッドは肌にあたる部分はベロアで、側面は人工皮革のハイブリッド。厚みは十分にある。特に硬いとは感じないが柔らかかったりふかふかだと感じるほどではない。肌触りは良好。
重量は480gと重い方だが、それでも前フラッグシップのHE-6と比べれば軽くなっているしその実感も得られる。これは重さの分散が上手く行っている事も要因だろう。
個人的にはそこまで負担を感じるほどではないが、この重さになると人によっては耐え難いと感じる人もいると思われるので、可能な限りかけた時の重さを確認した方が無難。
頭頂部にあたる部分に幅の広いレザーが使われていて、上手く負荷を分散させており頭頂部が痛くなるという事は無い。
但し、やはりそれなりの重量がある事は確かなので、長時間の使用に向いているとは言い難い(これはV2では多少改善される)。
総じて装着感は普通〜やや良好な部類に入ると思われるが、ヘッドホンの重さ(軽さ)を重視する人にとっては「悪い」となるだろう。
V2のイヤーパッドに変更すると、肌触りの違和感がさらに減って良好に感じる人が多いと思われる。イヤーパッドの交換には固定の為の部品が爪を利用したはめ込み式の為ややコツがいるが、特に難しいということは無い。
その他
ケーブルが着脱可能で、3種のケーブルが付属している。ヘッドホン側のコネクタは2.5o2極のミニミニプラグで左右両出し。
アンプ側端子は4ピンXLR、6.3mm3極プラグ、3.5mm3極ミニプラグの3種。
リケーブルはしやすいが、付属のケーブルもそれなりの品質を持っているために、下手な交換は質を落とすだろう。参考までに、純正品は6.3mmが149ドル、4ピンXLRが199ドル。
なお上記内容は付属の4ピンXLRあるいは6.3oを用いたもの。
ヘッドホンの作りは流石に安っぽくはないが、作りの良さやデザイン、精度は価格を考えれば不足していると感じる。どちらかというと無骨な印象。
人工レザーを用いたハードケースが付属し、それなりに高級感がある。しかし新品で購入した際に、ケーブルの数が多いために無理に詰め込んだような状態になっている点は残念。
遮音性や音漏れは開放型という点を考慮しても非常に悪い。特に音漏れは、普通に聴く音量ですら簡易スピーカーの代わりになるレベルでもれる。
これは、高域や低域の目立つ音が聞こえるとかではなく、全体の構成が把握できるレベルなので注意が必要だろう。
再生環境
PC→Lynx HILO(USB接続、ASIO2.0)→AURALiC Taurus MK2(ライン接続はバランス、ヘッドホンは4ピンXLR接続、BAL Mode) or マス工房 model 370 CP(ライン接続はバランス、ヘッドホンは6.3mmフォンプラグ)
主な所有ヘッドホン又はシステム
HD650、HD25-1U、HE-6、GMP450PRO、SR-325i、TH900、SRS-4040A
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HE-1000
投稿者:take 投稿日:2018.2.17
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