第7回 ヘッドホンアンプ選びの注意点

 久しぶりの初心者講座です。内容から考えて不定期コラムにしようかとも思ったのですが、最近はヘッドホンアンプも普及してきていて初心者の方がいきなり購入することも増えているようなので、初心者講座にすることにしました。
 さて、最近はヘッドホンアンプの製品数が増えているとは言え、予算や求める仕様(例えば入出力端子の数や本体のサイズ等)によっては選べる機種がそれほど多くないこともあります。ただ、それらの条件を満たす機種が複数あった場合、他にどういう点に注意して選べば良いか困る人も多いと思います。大抵はデザインや音の評判で選んでいるのでしょうが、一応他にも気にとめておくと良い点を挙げてみることにしました。


☆ヘッドホン端子の物理的な問題
 ヘッドホンアンプのヘッドホン出力端子は、据え置きであれば大抵は標準サイズ、ポータブル用であれば大抵はミニサイズと2種類しかないので、選ぶ際にはあまり複雑な問題は発生しないことが多いと思います。ただし、機種によっては特定のヘッドホンが使いづらい、あるいは使えない危険性があります。
 例えばSAECのHP-2000は、ヘッドホン端子が少し奥まったところに配置されていてなおかつ端子の配置されている穴が小さいため、プラグが太いヘッドホンはつかえてしまって挿さらないことがあります。
 また、MEIER-AUDIOの2MOVEはヘッドホン端子がフロントパネルの面から少し引っ込んでいるので、プラグがしっかり奥までささらず動かすと外れてしまうことがあります。

☆ヘッドホンのプラグとヘッドホンアンプの出力端子の相性
 これは先ほどの問題と似ていますが、ヘッドホンアンプに問題があるわけではなく、ヘッドホンとヘッドホンアンプの相性の問題です。
 例えばRP-21をHD53に接続して使用すると、接触が悪く場合によってはきちんと音が出ないことがあります(挿し方を調節すればきちんと出ますが、接触が悪いのは間違いないので気持ちの良いものではありません)。RP-21を他のヘッドホンアンプに接続した場合、あるいはHD53に他のヘッドホンを接続した場合にはまったく問題ありませんから、これは相性としか言いようがありません。
 ヘッドホンのプラグやヘッドホンアンプの端子は規格にのっとって作られていますが、それなりにバラツキがあるので希にこういうこともあります。事前に知るのは困難ですが、試聴機がある場合は自分の愛用のヘッドホンがきちんと使えるかどうかはチェックできると思います(個体差もあるでしょうし、絶対ではありませんが)。

☆入力端子の端子間の間隔
 一般的なケーブルを使用する場合には問題にならないことが多いと思いますが、一部の高級オーディオケーブルでは非常に太いプラグを使用していることがあるため、ヘッドホンアンプの入力端子の端子間の間隔が狭いとケーブルのプラグが接触してきちんと接続できない場合があります。

☆発熱の問題
 単体ヘッドホンアンプにはミニコンポやラジカセとは違ってかなり発熱するものがあります。機種によって様々ですが、数秒以上は手で触っていられないほど熱くなるものもあります。長時間使用すると冗談抜きに室温が数℃変わるほどの熱を発するものもあるので、夏場は暑くて使いたくないということがありえます。また、設置の仕方によっては火災の原因にもなりかねませんので注意が必要です。

☆音量の取りやすさとゲイン・ボリュームの質等
 特に音量の取りやすいカナル型イヤホンを使用する場合には問題になります。
 ヘッドホンアンプは音量の取りづらいヘッドホンを使用する際に十分な音量を取れるようにするという目的もあるため、ゲインが高く音量が取りやすすぎるものが多く存在します。そういったヘッドホンアンプで音量の取りやすいヘッドホンを使用すると、音量が大きすぎて使いづらいことがあります。最悪ボリューム最小でも十分な音量ということがありえますし、ほんの少しボリュームを回しただけで大音量になってしまい音量調節がしづらいということはザラです。
 それだけでも問題ですが、ボリュームにギャングエラー(左右どちらかに音が寄ってしまうこと)等の問題があると更に使いづらくなります。特にボリューム最小付近のギャングエラーは頻繁に見受けられます。高価なヘッドホンアンプほど少なくなる傾向はありますが、数万円するものでも音量の取りやすいカナル型を使用する際には問題になる程度のギャングエラーがある機種はかなり多く、安易に「○万円もするんだから大丈夫だろう」と考えるのは危険です。また、ボリュームのギャングエラーは個体差が大きいため、試聴機で問題がなくとも購入したらギャングエラーがあるということも起こりえます。

☆無音時のホワイトノイズの問題
 先ほどの問題と同じく、特に音量の取りやすいカナル型イヤホンで問題になります。
 ヘッドホンをヘッドホンアンプに接続すると、音源を再生していないのに「サー」というノイズが聴こえることがあります。このノイズは大抵の場合ヘッドホンアンプ由来のものですが、その音の大きさは使用するヘッドホンによって大きく変わってきます。基本的にインピーダンスが大きく感度の低いヘッドホンほどノイズが小さくなるので、そういったヘッドホンを使用するならあまり問題にならないことが多いですが、インピーダンスが小さく感度の高いカナル型イヤホン等で問題になることはかなり多いです。
 特に真空管を使用したヘッドホンアンプでノイズが大きい傾向がありますが、真空管を使用しているからと言って必ずしも大きいとは限りませんし、逆に半導体アンプでもノイズが大きいものはあります。また、接続する機器や電源環境等でノイズの大きさが若干変わることがあります。
 仮に試聴機があるとしても、よほどノイズが大きいものでもなければ騒がしい環境下でノイズがどの程度なのか判断するのは難しいので、世間の評判に頼るしかない面があります。

☆その他のノイズ
 ホワイトノイズ以外にもノイズの問題はあります。
 特に問題になるのが、「プツッ」というポップノイズです。発生する状況は機種によって違いますが、電源ON/OFF、各種スイッチの切り替え、ヘッドホンの抜き挿し等で発生することが多いです。一般的にポップノイズのエネルギーはかなり大きく、場合によってはヘッドホンのドライバーユニットにダメージを与える危険があります。仮に耳で聴いて痛くない程度の音量でも問題が発生する可能性がありますので、ポップノイズのあるヘッドホンアンプを使用する際にはノイズが出る操作をする際にヘッドホンを接続しないようにした方が良いです。
 次に「ブーン」というハムノイズです。これは同一機種でも接続する機器や電源環境によって出方が大きく異なるため、ある意味やっかいです。個人的にはあまり頻繁に発生するとは思いませんが、高価なヘッドホンアンプでも音楽鑑賞に堪えないレベルのノイズが発生することがあるようです。その場合には、先ほど書いた通り接続する機器や電源環境によって改善できる可能性があるので、安易に故障や不良と決め付けずにチェックすることをお勧めします。

☆ヘッドホンのインピーダンス特性とヘッドホンアンプの出力インピーダンスが原因の音質変化
 最近は割と話題になることの多い問題のように思います。
 ヘッドホンのインピーダンスは、音圧感度と同様に周波数によって値が違ってきます。凹凸がなければヘッドホンアンプの出力インピーダンスの値によらず一定の音質が維持されますが、凹凸があるとヘッドホンアンプの出力インピーダンスの値によって大きく音質が変化します。例えば、インピーダンスが高音にいくほど大きくなっているヘッドホンの場合、出力インピーダンスの大きいヘッドホンアンプを使用すると(元のインピーダンスが小さい)低音ほどその出力インピーダンスの大きさの影響を受けやすく音圧が下がるため、出音の周波数特性は高音よりになります。実際の出音を聴くと、周波数特性だけでなく締まりや分解能まで大きな影響を受けているように感じることもあります。
 問題は、ヘッドホンのインピーダンス特性やヘッドホンアンプの出力インピーダンスの値を公開しているメーカーはほとんどない点です。したがって、事前にこの問題の影響を知るのは困難です。
 なお、ヘッドホンのインピーダンス特性については、ごく一部の機種ですがHeadRoomの測定ページ淵野辺さんで測定結果が公開されています。淵野辺さんではこちらでヘッドホンのインピーダンス特性の測定方法を詳細に解説しているので、労力を惜しまない人はそれを参考に自分で測定するのも手だと思います。
 ヘッドホンアンプの出力インピーダンスについては、数Ω程度のことが多いようです。私が知っている範囲で例外的に出力インピーダンスが大きいヘッドホンアンプとしては、HD53シリーズ(HD53Nは出力インピーダンス違いで2種類の出力を具えています)、MEIER-AUDIOの120Ω出力、HDA-5210の電流出力等があります。

☆インピーダンスのマッチング等
 ヘッドホンのインピーダンスとヘッドホンアンプの出力インピーダンスの値が近い方が、電力が効率的に供給され音質面でも有利です(基本的に単体ヘッドホンアンプは十分な電力供給がなされることもあってかあまり影響がないことが多いようですが)。
 ただし、ダンピングファクター(ヘッドホンのインピーダンスをアンプの出力インピーダンスで割った値、大きい方が締まりや制動という点で有利)という意味では出力インピーダンスは小さければ小さいほど良いので、その点を気にする人は出力インピーダンスの小さいものを選んだ方が良いと思います(ヘッドホンの場合スピーカーと違ってダンピングファクターで音質が大きく変わることは少ないようですが)。

☆音質の問題
 これは音の好みの問題とも言えるので個人の自由ですが、ヘッドホンアンプはヘッドホンほど音の変化は大きくないにせよ極端な機種も存在します。例えばiVHA-1(高音より)やHA-1A(低音より)等です。元々高音よりのヘッドホンをiVHA-1で鳴らすと更に高音よりになってしまいますし、逆に元々低音よりのヘッドホンをHA-1Aで鳴らすと更に低音よりになってしまいます。最終的な出音のバランスとしては悪くなることが多いので、自分の音の好みや使用するヘッドホンによっては要注意です。


 他にも色々とあるかと思いますが、個人的に思い当たるものを挙げてみました。だいぶ長くなってしまいましたし、初心者の方には分かりづらい内容もあったかと思いますが、何かあったときに思い出して頂けると役立つこともあろうかと思います。







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