第1回 スペックについて

 ヘッドホンほどスペックの表示がいい加減な製品も珍しいでしょう。素人はいきなり電気屋に買いに行っても、どれを買えばいいのかまったく分かりません。以下に簡単な説明を示します。


☆装着方式
 ヘッドホンと言うとイヤーマフラーのように頭にかぶるものを想像する人が多いと思いますが、広義ではイヤホン等を含みます。つまり、一口にヘッドホンと言っても装着の仕方が色々あります。大雑把に分類すると下記のようなものがあります。

オーバーヘッド型:
所謂ヘッドホンです。ヘッドバンドを頭にかぶるような形で装着します。イヤーパッドが耳を覆うサイズかどうかで、耳覆い型と耳のせ型と言う分類がされることもあります。

耳かけ型:
メガネのように耳にかけて装着します。オーバーヘッド型と違い頭部を押さえないため頭への負担は軽くなりますが、逆に耳への負担が重くなるものが多いようです。オーバーヘッド型の一般のものより小型・軽量で、基本的に耳のせサイズです。別名クリップ型やバンドレス型とも言います。

ネックバンド型:
ヘッドバンドが頭頂部ではなく後頭部にまわっている形のものです。耳の上と後頭部で固定する形になります。耳かけ型と同様、オーバーヘッド型の一般のものより小型・軽量で、基本的に耳のせサイズです。別名リアアーム型やバックアーム型とも言います。

インナーイヤー型:
所謂イヤホンです。ポータブルプレーヤーに付属してくるのは大抵このタイプなので、それをそのまま使用している人が多いかと思いますが、携帯性が良い反面音質はいまいちのことが多いです。

カナル型:
インナーイヤー型の中でも特に耳栓のように耳の穴に押し込むように装着するものを言います。

 上記以外にも、耳かけ型でありながらインナーイヤーのもの等、応用パターンのものもあります。
 純粋に音質を追求したいなら、基本的にはオーバーヘッド型になりますが、アウトドアでの使用を考えるなら他の装着方式も視野に入れる必要があります。オーバーヘッド型には折りたたみできるものもありますが、携帯性ではどうしても他のタイプのものに劣るからです。また、ファッションの一部としてオーバーヘッド型は避けたい場合や、あるいは単に目立ちたくないと言う人もいるでしょう。
 オーバーヘッド型以外のものを使いたい場合、ある程度音場の広さが欲しいなら耳かけ型やネックバンド型、とにかく手軽に済ませたいならインナーイヤー型、遮音性を求めるならカナル型等、目的に応じて装着方式を選択する必要があります。

☆駆動方式
 ダイナミック型とコンデンサー型があります。現在、世の中のほとんどのヘッドホンはダイナミック型です。コンデンサー型は世界的に見てもSTAXしか生産していないようです。
 細かい作動原理は省きますが、ダイナミック型は普通のヘッドホン端子に接続して使用するタイプ、コンデンサー型は専用のアンプが必要でヘッドホン端子に直接接続できないという違いがあります。
 音質的には、大雑把に言うと、ダイナミック型の方が音に厚みと迫力があり、コンデンサー型の方が繊細です。

☆構造
 密閉型(クローズド)、開放型(オープンエアー)、フルオープン、半開放型(セミオープン)などがありますが、どれひとつとっても全メーカー共通の定義はありません。とりあえずわりと一般的な定義は下記のとおりですが・・・

密閉型:
音を発する振動板と耳の間の空間が閉じられている構造のもの。基本的には振動板の背面も閉じられています。また、音が漏れないようにするためイヤーパッドは皮などです。

開放型:
音を発する振動板と耳の間の空間が閉じられていない構造のもの。基本的には振動板の背面も閉じられていません。また、音が通るようにイヤーパッドは布がメインです。

フルオープン:
開放型で尚且つハウジングとイヤーパッドがないもの、あるいはイヤーパッドがあってもハウジングがないもの。

半開放型:
密閉型でありながらハウジングに孔が開いているもの、あるいは開放型でありながら振動板のいずれかの側面が遮断されているものを指すようです。が、最も定義があいまいな部類です。

 これだけでも複雑ですが、問題は例外が存在することです。例えば、イヤーパッドが布製の密閉型等も存在します。
 音質の観点から見ると、密閉型の方が厚みのある低音が出る代わりに独特のこもり感があり、逆に開放型のほうが低音の伸びが良く自然な音が出ます。ただしこれはあくまでも構造から見た一般論で、周波数特性によっても大幅に変わるので、密閉型か開放型かだけでは音質は判断できません。
 また、遮音性と音漏れ防止に関しては当然ながら密閉型の方が良好です。ただし、イヤーパッドが布製だったり、ハウジングに孔が開いている密閉型もありますので、その場合には普通の密閉型と比べると遮音性と音漏れ防止は悪くなります。

☆周波数帯域
 基本的には、そのヘッドホンが何Hzから何Hzまでの音を再生できるか、という範囲を示したものです。もちろん、その周波数を外れたからといって全く音が出ないわけではありません。が、何dB以下になったら駄目なのかが明確に定められているわけでもありません。
 それどころか、測定方法がメーカーによって異なっていたり、測定方法を変更したという理由で公表スペックを変更するメーカーもあります。つまり、メーカーの異なるヘッドホン同士の周波数帯域を比較することは無意味で、同一メーカーでも発表時期が異なるデータは信用できないことがあるということです。
 また、人間の可聴周波数帯域は広い人で約20Hz〜20kHzと言われています。そして、ほとんどのヘッドホンの公表スペックでは、この範囲よりも周波数帯域が広いです。つまり、あまり意味の無いスペックであるとも言えます。
 ある程度ヘッドホンに詳しい人の間では、周波数帯域は同一メーカーのヘッドホンを比較し、どちらのほうが上位であるかを示すための指標であるという見方が一般的なようです。つまり、上位機種の方が周波数帯域が広いです。と言うよりも、メーカー側が明らかに価格と周波数帯域を比例させているのですが。

☆音圧感度
 1mW入力時の音圧感度で、この値が大きいほど音量が大きいということが言えます。1kHzでの値です(ただし、1mWではなく1Vでの値であったり、1kHzではなく100Hzでの値であったりとメーカーによって異なることもあります)。
 ほとんどのヘッドホンの音圧感度は90dB〜110dBですが、ヘッドホンの音圧感度は20Hz〜20kHzに限定しても周波数によって20dBくらいの幅があるようです。20dBがどれくらいの大きさなのか分かりにくい人もいると思いますが、非常に大雑把に言うと普通の話し声と大声の違いくらいあります。
 さらに、実際に再生機器に接続して音を鳴らす場合には後述のインピーダンスによっても音量が変化します。
 つまり、音圧感度も厳密にはあまり意味が無い値と言えます。

☆インピーダンス
 電気抵抗です。これが大きいほど音量が小さくなりますが、前述のとおり音圧感度と合わせてみなければ意味がありません。
 分かりやすく説明すると、インピーダンスが半分のものでは音圧は3dB大きくなります。例えば、感度100dBインピーダンス100Ωのヘッドホンと、感度97dBインピーダンス50Ωのヘッドホンの音量は理論的には同じということです。
 ただし、こんなことを言ってはみもふたも無いですが、音圧感度もインピーダンスも、据え置きのCDプレーヤーで使用する場合には意味がありません。感度が小さくインピーダンスが大きい、音量の取りづらいヘッドホンでも、十分な音量が取れるからです。音圧感度とインピーダンスが意味を持つのは、音量の取りづらいポータブル機器などに接続して使用する場合だけです。
 さらに、音圧感度もインピーダンスも音質にはほとんど関係ありません。細かいことを言うなら、インピーダンスが大きいほうが有利なことは有利ですが、ヘッドホンの機種間の音質の違いと比べたら微々たるものです。


 つまり、スペックでは音質は全く分からないというのが正直なところです。ヘッドホンの性能で最も重要なのは音質ですが、実際に聴いてみないことには全くわからないのです。

 ヘッドホンに詳しい方にはくどい説明だったかと思いますが、ここまで書けば初心者の方にもこのサイトの存在意義もご理解頂けると思います。







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