第4回 Go West/Pet Shop Boys「PopArt」より

 Pet Shop Boysはイギリスのポピュラー音楽デュオです。シンセとやや癖のある男性ヴォーカルが中心で、ポップスらしくあまり小難しいことを考えなくても楽しめる方向性の曲が多いように思います。
 今回取り上げるのは2003年発表のベストアルバム「PopArt」の1曲目です。元はVillage Peopleの曲ですが、1993年にPet Shop Boysがカバーして大ヒットしたため、こちらの方が耳に馴染んでいる人も多いかと思います。
 「どういう風に聴きたいか」「どういう点を重視するか」については、「ボーカルがくっきり聞こえるもの」とのことです。この条件だけで選ぶと一般的には相性の悪いヘッドホンが選ばれるのは明白なので、「打ち込み系の音との相性が良くポップスらしく明るく鳴らしてくれるもの」という条件も加えたいと思います。なお、要望では「ボーカル」という表記でしたが、本サイトは「ヴォーカル」という表記で統一しているので以下「ヴォーカル」と表記します。ご了承ください。


・1台目 CPH7000(Classic Pro)
 「ヴォーカルがくっきり聞こえるもの」と言うと漠然としていますが、どういう音だとそういう傾向になるのか考えてみると、低域の量が少ないもの、特に中低域が少なくヴォーカルが浮き彫りになるもの、ヴォーカルの音そのものが高く目立つような質のもの、音が硬く輪郭がはっきりしているもの、音の分離が良いもの、音場的な意味でヴォーカルが前に出るもの等があると思います。
 CPH7000はこれらの条件のうち特に低域の量が少ないもの、ヴォーカルの音そのものが高く目立つような質のもの、音が硬く輪郭がはっきりしているもの、の三つに該当します。音の分離も価格の割に良いです。単にヴォーカルをくっきり聴きたいだけなら、1万円以下でこれ以上のヘッドホンはなかなかないと思います。また、CPH7000でヴォーカルがくっきり聴こえた理由として、今回の曲のヴォーカルは男性ヴォーカルとしては高めの音である点も関係あると思われます。
 ヴォーカル以外の点としては、打ち込み系の音との相性が良い点も好印象です。問題は、一聴してかなり違和感が気になる点です。低域が少ない点も気になることは気になりますが、これはヴォーカルをくっきり聴くためにはある程度犠牲になっても仕方ないでしょう。
 他にはATH-A500、RH600、SE-M870、SHP8900等で聴いてみましたが、どれもCPH7000には及びませんでした。次点はATH-A500、音場的な意味ではSHP8900が良かったです。
 不満点は、違和感が大きい点、低音が少ない点です。

・2台目 MDR-7506(SONY)
 1台目で書いた条件のうち、特に中低域が少なくヴォーカルが浮き彫りになるもの、ヴォーカルの音そのものが高く目立つような質のもの、音が硬く輪郭がはっきりしているもの、音の分離が良いもの、の四つに該当します。1台目と比べると低域がかなりしっかり出ますし、違和感が多少小さい点も良いです(違和感はフィーリングなので個人差があるでしょうし、MDR-7506にしても違和感がないとは言い難いですが)。単にヴォーカルがはっきり聴こえてくるかどうかだけを見ても、CPH7000よりやや上です。MDR-7506はソースによってはヴォーカル等の中域がキンキンして痛いことがありますが、今回の曲では痛いということはないと思います。全体的に見てもそれなりに相性が良いです。
 他にはDJ1 PROが良かったです。MDR-7506と同様四つの条件を満たしていると思いますが、MDR-7506と比べると音場的にも音圧的にもやや引っ込んでいるような印象です。とは言え、ほとんどのヘッドホンと比べるとかなりくっきりとヴォーカルが聴こえてきます。全体的な相性を考えるとMDR-7506よりやや良いと思います。
 ATH-M40fs、EX-29、HD280Pro、K514、PRO/4AA等でも聴いてみましたが、MDR-7506やDJ1 PROと比べるとヴォーカルがくっきり聴こえるかという点においては明らかに劣ります。
 不満点は、まだ違和感が気になる点、やや聴き疲れしやすい点です。

・3台目 HP-DX1000(Victor)
 1台目で書いた条件のうち、2台目と同様四つの条件を満たしていると思います。1、2台目と比べて粗や高域の痛さがないため聴き疲れが改善されますし、違和感も特に酷くはありません。ヴォーカルのくっきり具合という意味では、2台目とほぼ同レベルです。2台目は音が高いために目立つ傾向ですが、HP-DX1000は音が高いだけでなく太い芯が通っていて目立つような印象です。
 不満点は、まだ多少違和感が気になる点です。

・4台目 HFI-780(ULTRASONE)
 1台目で書いた条件のうち、2、3台目と同様四つの条件を満たしています。聴き疲れは3台目よりやや酷いですが、違和感は若干改善される印象です。3台目との違いは、HP-DX1000の方がヴォーカルに太い芯が通っている感じである点、HFI-780の方が全体的に硬くて切れが良い感じである点です。ヴォーカルのくっきり具合だけでなく、今回の曲との総合的な相性という意味でも甲乙つけがたいです。
 他にはMDR-SA5000とSR-325iも良かったですが、HP-DX1000やHFI-780と比べるとヴォーカルが自然であるために「くっきり」という感じではない印象です。自然な範囲で明確に聴こえる方が良いなら、HP-DX1000やHFI-780よりMDR-SA5000やSR-325iの方が良いとは思います。ただし、低域の厚みや弾力という点では見劣りするため、今回の曲を楽しく聴きたいなら多少不満が出るかもしれません。
 MV1やPFR-V1も良さそうだと思い聴いてみたのですが、MV1は違和感が大きい上にメインヴォーカルより「Go West」という声が異常に目立ってバランスが悪く、PFR-V1は音が分離せずに固まりになって耳に届くようであまりヴォーカルがくっきり聴こえる傾向ではありませんでした。

・5台目 ATH-CK10(audio-technica)
 1台目で書いた条件のうち、低域の量が少ないもの、ヴォーカルの音そのものが高く目立つような質のもの、音が硬く輪郭がはっきりしているもの、音の分離が良いもの、の四つに該当します。ただし、ヴォーカルの音の高さは極端ではなく、どちらかと言うと高いという程度で自然な範囲におさまっています。ATH-CK10でヴォーカルがくっきり聴こえるのは、それ以外の三つの条件によるところが大きいと思います。また、ATH-CK10は今回の曲との総合的な相性という意味でもなかなか良いと思いますが、ややエッジのきつさや擦れが気になりますし、線が細すぎるようにも思います。
 他にはER-4S、ATH-CK7、ER-6、ATH-CKM50、CX300等が良かったです。ATH-CK7、ATH-CKM50、CX300の3台はそれなりに低域の量が多いですが、それでもヴォーカルは比較的くっきり聴こえます。ヴォーカルの音の高さと音の硬さ・輪郭が理由です。


 「ヴォーカルがくっきり聞こえるもの」という点で2〜4台目はほぼ同レベルだと思いますが、それぞれくっきり聴こえる理由が少しずつ異なるので、どれが最も良いと感じるかは多少個人差があると思います。また、この3台は今回の曲を普通に楽しむのにもなかなか良いですが、その理由として低域に厚みや弾力があるという共通点があります(偶然だと思いますが)。
 ヘッドホンアンプは、私の手持ちの中ではHD53、Head Amp 2/MkII SE、hpa200b(ハイエンド仕様)が良いと思います。私が所有していないものでは、明瞭で分離が良いという意味でiVHA-1が良さそうです。
 今回の内容を参考に、好みに合わせて選んでください。


試聴はこちら。













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