第3回 ATH-A900 vs DT880

 微妙なのが来てしまいました・・・。どちらも決して悪いヘッドホンではないです。が、私にとってATH-A900は因縁浅からぬ相手です(不定期コラム第1回参照)。一方、DT880は温かみと適度な刺激を同居させることに成功させた見事なヘッドホンで個人的に好きなのですが、HD650と比べると分解能や音場の広さが劣り、扱っている店も少ないヘッドホンです。
 愚痴っていても仕方ないですね・・・とりあえず類似点と相違点。

類似点:音域傾向(どちらもやや高音より)
相違点:密閉型特有のこもり感の有無、音調

 では、行ってみましょう。


・宇多田ヒカル「First Love」
ATH-A900:
なかなかまとまっているのですが、全体的に音が力不足に感じます。ヴォーカルはそれなりに聴かせてくれます。ギターや金管楽器の音はあくまで脇役に徹している感じです。ベースの低音がしっかり音楽を支えてくれます。ヴァイオリンやピアノは美しいとまでは言えませんが、役割は十分果たしています。大きな欠点はないんですが、魅力もないと感じました。
DT880:
ヴォーカルの温かみと繊細さが魅力的です。ギターとピアノも、あまり目立ちませんがいい感じです。また、予想より金管楽器やタンバリンが目立ちすぎることもなく、良くまとまっています。
比較:
ヴォーカルの温かみと弦楽器の自然さでDT880の勝ちです。が、大差はついていません。ATH-A900の繊細なヴォーカルがいいという人もいるかもしれませんが、私はこの曲の場合には温かみをとりました。

・BUNP OF CHICKEN「天体観測」
ATH-A900:
ノリの良さが全く足りません。音に厚みがなく、しかも音の広がりが良いこのヘッドホンでは、まとまりがなく感じます。ATH-A900なのでハイハットがもっと聴こえてくるかと思いましたが、全然聴こえません。ベースは薄まりすぎて動きが分かりませんし、ギターやドラムもいまいち元気がありません。繊細で音の広がりが長所のこのヘッドホンにはあまり相性が良くなかったようです。
DT880:
そこそこノリが良いです。ヴォーカルがかなり良く聴こえます。ギターもドラムも元気良く鳴っています。ベースの存在感があまり感じられないのが残念。
比較:
DT880の方が良いです。特にヴォーカルの聴こえ方が段違いでした。

・system F「TOGHETHER」
ATH-A900:
なんとなく感じていたことですが、やはりATH-A900は打ち込み系の音楽には良く合います。しゃきっとした高音と音の広がりが、この曲との相性の良さを高めています。
DT880:
この曲の温かみが伝わってきます。その上、DT880の刺激的な部分がいい感じにアクセントを与えてくれます。なかなか相性が良いです。
比較:
この曲の温かみを伝えているという点で、DT880の方が若干良いですが、ほぼ互角。

・「パッヘルベルのカノン」
ATH-A900:
弦楽器の自然さといい、オルガンの音といい、そこそこ良いです。が、この曲でもある種の冷たさを感じます。気にしなければ気にならないレベルだと思いますが・・・
DT880:
弦楽器の自然さと温かみが素晴らしいです。オルガンも埋もれずにきれいに聴こえてきます。情感豊かという言葉がぴったりの鳴らし方です。
比較:
DT880の勝ちですね。ATH-A900も決して悪くないのですが、DT880の弦楽器の自然さと温かみが予想以上でした。オルガンはどちらもなかなかきれいでした。

・ロード・オブ・ザ・リング オリジナルサウンドトラックより「The Bridge Of Khazad Dum」
ATH-A900:
ブラスがなかなか良いです。弦楽器、合唱すべて及第点で良くまとまっていますが、いまひとつ魅力に欠けます。低音の厚みがもう少しあれば、安定感が増して迫力が出たと思うのですが。どうもATH-A900は音の広がりがいい反面、それで音の厚みが損なわれているようです。
DT880:
ブラスが非常に良いです。弦楽器もメリハリがきいていて飽きません。低音の量ではATH-A900に負けている気がするのですが、それでも迫力不足に感じないのは厚みのある低音と抜けの良さのおかげでしょうか。
比較:
DT880の勝ちです。この曲のように勢いがあるものは、ATH-A900のおとなしさがあだになってしまうようです。DT880はブラスが美しいだけでなく、刺激的な部分がこの曲に合っていました。


 今回の対決は、何を聴いてもDT880の方が一歩勝っているという結果になりました。これは、ATH-A900がこの価格帯にしてはなんでもそこそこ鳴らす優等生的ヘッドホンである一方、いまいち魅力に欠けていることを象徴しているように思います。
 逆に、DT880は刺激的で、ソースによってはきつく感じることもあるのですが、大抵の場合それが楽しめる範囲で絶妙にバランスが取れているヘッドホンであるとも言えます。
 その両者の対決だったため、ある意味ATH-A900にとっては相手が悪かったと言えるでしょう。ATH-A900はやはり1万円台では分解能、音場感ともになかなか良いですし、間違いなく良いヘッドホンでしょう。
 しかし、それでもDT880には及びませんでした。実売3万前後ということを考えると、DT880はもっと評価されていいヘッドホンだと思いました。