第8回 10万円以下の高級ヘッドホン比較

 ATH-AD2000DT880HD650MDR-SA5000PROline2500
 これらはすべて素晴らしいヘッドホンです。実売10万円以下のヘッドホンで最高のヘッドホンを選ぶなら、この中から選ぶ人も多いでしょう。
 今回は、これらのヘッドホンの音質と装着感をいくつかの項目に分けて比較してみます。知らない機種があるという方は、まずレビューページをご覧ください。なお、エージングはすべての機種について最低100時間以上行って安定していることを確認してから比較しています。


・周波数特性
 普段のレビューでは低域・中域・高域の3つで分けていますが、これではあまりに大雑把過ぎてよく分かりません。そこで、今回は超低域・低域・中域・高域・超高域の5つに分けてその平均が3になるように5段階で音圧を比較してみました。周波数、音量ともに私の耳で聴いた限りの印象で、測定しているわけではありません。

超低域 低域 中域 高域 超高域
ATH-AD2000 3 3 3 3 3
DT880 3 3 2 4 3
HD650 4 4 3 2 2
MDR-SA5000 2 3 3 4 3
PROline2500 3 4 2 3 3


・分解能
MDR-SA5000≧HD650≧ATH-AD2000≧DT880≧PROline2500
 MDR-SA5000が最も良いと感じました。これは、超低域が弱めでスッキリした音調であることも影響していると思いますが、それだけでなく非常に高い実力を持っています。最も分解能が悪いと感じたPROline2500も、普通に音楽鑑賞する分には十分だと思います。むしろ、これくらいの方が音にばらつきがなく聴きやすいという人も多いかと思います。

・音場の明確さ
HD650≧MDR-SA5000≧PROline2500≧ATH-AD2000≧DT880
 音場の広さだけではなく、明確で分かりやすいという点でHD650が最も良いと感じました。MDR-SA5000は高い視点から見下ろすような明確さがありますが、体全体が包まれている感じとは程遠く、個人的にはいまいちに感じました。PROline2500は慣れると非常に魅力的なのですが、やや癖があり分かりづらいと感じる人も多いと思います。ATH-AD2000はオーソドックスで分かりやすいのですが、他の機種ほど明瞭ではないと感じました。DT880は特に悪いと言うわけではないのですが、他の機種が良過ぎという印象です。

・聴きやすさ
HD650≧ATH-AD2000≧MDR-SA5000≧DT880≧PROline2500
 HD650とATH-AD2000はエッジがきつくなく、長時間聴いてもまったく疲れませんが、おとなし過ぎると感じる人もいるかもしれません。MDR-SA5000はロックやキンキンした女性ヴォーカル等はかなり痛いですが、サ行のいなし方はうまいです。DT880はエッジがきつめで特に高域が強いソースでは聴き疲れします。PROline2500はエッジがきつめなだけでなく、サ行の音等がかなり痛いです。
 個人的にはどの機種も許容範囲内だと思いますが、PROline2500だけはNGという人も多そうです。

・原音忠実性
MDR-SA5000≧DT880≧HD650≧ATH-AD2000≧PROline2500
 どの機種もMDR-CD900STのようなモニター用の機種と比べると、意図的に味付けしているように感じます。
 MDR-SA5000はSONYらしい癖はありますが、それでも原音の粗や生っぽさを一番殺していないと感じました。DT880もかなり原音に忠実と言っていいと思います。HD650とATH-AD2000は聴き疲れの少なさを重視して高域を弱めにしてさらに音を丸めています。逆に、PROline2500は原音忠実とか聴き疲れの少なさを後回しにして魅力的な音楽を聴かせることに重点を置いていると感じます。

・温かみ
HD650≧PROline2500≧ATH-AD2000≧DT880>MDR-SA5000
 HD650は温かみと言う点においては素晴らしいです。PROline2500は自然な温かみではないのかもしれませんが、それでも下位3機種よりは良いように感じます。ATH-AD2000は一聴して温かみがあるように感じますし、確かに必要量はあるのですが、聴き込むと上位2機種との差は分かります。DT880は温かみはあるのですが、いい意味での刺激とあっさりさの方が強いように感じます。MDR-SA5000は超低域が出ない上に芯が通ったSONYらしい音で、非常に明瞭である一方温かみはかなり不足しています。

・明瞭さ
MDR-SA5000≧DT880≧PROline2500≧HD650≧ATH-AD2000
 MDR-SA5000は他の機種と比べて頭一つ出ています。余分な音を鳴らさず、響きはあっさりで分解能も高いためだと思います。DT880はPROline2500やHD650と比べると低域がやや控えめで高域がしっかり出る上、エッジがきついため、分解能のわりには明瞭に感じます。PROline2500はDT880と近いのですが、低域がかなり強く明瞭さと言う意味ではやや劣るように感じます。HD650は全体的に低音よりのため、分解能のわりには明瞭さが不足に感じられます。ATH-AD2000は他の機種と比べてかすんだような音を鳴らしますが、絶対的な見方をするなら明瞭と言って良いレベルでしょう。

・ノリの良さ
PROline2500≧DT880≧HD650≧ATH-AD2000≧MDR-SA5000
 アバウトな表現ですが、ノリの良さは音域傾向や音の立ち上がり、切れ等の様々な要因に影響されると思いますので、なんとなくでご容赦ください。
 PROline2500は切れはいまいちですが、ドンシャリで鮮やかな音を鳴らすので最もノリが良く感じました。DT880は切れが良くスピード感はあるのですが、低域がPROline2500と比べると弱めです。HD650は音が丸く低音よりのわりにはノリが良いように感じます。分解能が高く音に厚みもあるためだと思います。ATH-AD2000は上位3機種と比べるとどうしても鮮やかさに欠け、もこもこしているように感じます。MDR-SA5000は音の立ち上がりや切れは良いのですが、いかんせん低域が不足しすぎです。ソースによってはかなり良くなるだろうとは思いますが・・・

・弦楽器の表現
HD650≧ATH-AD2000≧DT880≧PROline2500≧MDR-SA5000
 HD650は低域の伸びが素晴らしいだけでなく、高域の繊細さも十分です。ATH-AD2000は低域が若干苦しいですが、基本的な音の伸びではHD650に負けていません。DT880は原音に近いのですが、音の伸びや艶やかさが足りません。PROline2500は魅力的なのですが、伸びがいまいちで、しかも原音からやや離れすぎているかなという印象を受けます。MDR-SA5000は超低域があまり出ず、伸びがいまいちで特に低音の弦楽器は良くありません。高音の弦楽器にしてもそれなりに原音に近いとは思いますが、魅力的とは言えない癖のある音を鳴らします。

・金管楽器の表現
DT880≧PROline2500≧MDR-SA5000≧ATH-AD2000≧HD650
 一口に金管楽器といってもかなり幅が広いですが、基本的にはトランペットが生き生きしている順番にしました。なのでホルンのふくよかな感じ等を重視するならまた違った順位になると思います。
 DT880だけ頭一つ出ている感じです。非常に美しいですが、ソースによってはかなり音が割れるかもしれません。PROline2500はやや癖がありますが、楽しめる範囲内だと思います。MDR-SA5000は良くも悪くも落ち着いた音です。人によっては最も良いと感じるかもしれませんが、個人的には鮮やかさに欠けるように思います。ATH-AD2000、HD650は上位3機種と比べると低音よりでかなりおとなしい印象です。


・打ち込み系の音の表現
ATH-AD2000≧PROline2500≧DT880≧HD650≧MDR-SA5000
 ATH-AD2000とPROlline2500はなかなか良いですが、特に他のジャンルと比べて良いというわけではありません。どちらかというと、何でも鳴らしてくれるというレベルです。ATH-AD2000の方がおとなしいのですが、純粋に表現力では上だと思いました。PROline2500は開放型でありながら密閉型に勝るとも劣らない低域の厚みと高域の刺激が良いです。DT880は高音が目立ちすぎる上ややスピード感にかける気がします。HD650は低域が合わないです。MDR-SA5000は、音自体はわりといいのですが、どうしても低域が不満に感じます。

・ヴォーカルの艶っぽさ
HD650≧PROline2500≧DT880≧ATH-AD2000>MDR-SA5000
 やはりHD650は非常に良いです。温かみと透明感にあふれながら質感を失っていません。PROline2500もかなり良いのですが、サ行の音が非常に耳につくのが気になります。DT880はHD650をややあっさりにした感じで、この5機種の中では丁度中間に感じました。ATH-AD2000はaudio-technicaとしては非常に艶っぽいですが、他社と比較するとまだそれほどでもないかなという感じです。MDR-SA5000以外の機種は魅力的と言っていいレベルだと思います。MDR-SA5000にしてもソースに忠実であるが故に艶っぽさが不足していると感じるだけに思います。

・側圧の弱さ
MDR-SA5000≧DT880≧ATH-AD2000≧HD650≧PROline2500
 説明不要、装着感と言えば側圧。側圧が強いとずれにくい代わりにこめかみが痛くなったりします。
 最も側圧が強いと感じたPROline2500も、それほど側圧が強いというわけではありません。逆に、最も側圧が弱いと感じたMDR-SA5000も、MDR-CD3000等の側圧が弱いものと比べるとかなり強めです。

・耳への負担の小ささ
MDR-SA5000≧HD650≧DT880≧PROline2500>ATH-AD2000
 耳がフリーになるほど良いです。イヤーパッドの内径と深さで決まります。
 ATH-AD2000以外の機種は、耳が小さい人なら耳が完全にフリーになるかもしれません。なので、そういう人にとってはあまり意味がない順位です。ATH-AD2000はかなり耳への負担が大きいです。側圧よりもむしろこちらの方が問題だと思います。

・頭頂部への負担の小ささ
ATH-AD2000>HD650≧MDR-SA5000>PROline2500≧DT880
 この項目は頭部への接触の仕方と重量によって決まります。
 ATH-AD2000は頭頂部に接触しない構造になっているため有利ですが、ウイングサポートが圧迫するので頭部全体への負担という意味では順位が下がると思います。また、HD650もクッションに谷ができているので比較的良いのですが、頭部全体への負担と言う意味ではネット状になっているMDR-SA5000の方が良いように感じます。DT880はクッションの薄いヘッドバンドがもろに頭頂部に当たるため最も頭頂部への負担が大きいです。

・頭部への接触面積
MDR-SA5000>DT880>ATH-AD2000>HD650>PROline2500
 頭部への接触面積が小さいほど不快感は低減されますが、その分どうしても圧力が大きくなります。頭部を覆うことで圧力をかけないようにするか、接触面積を減らして不快感をなくそうとするか、2つの考え方があります。
 MDR-SA5000はヘッドバンドをネット状にして接触面積を大きくすることによって圧力を下げています。逆に、PROline2500はヘッドバンドの一部にクッションをつけている形で、かなり接触面積が小さいです。

・イヤーパッドの材質の肌触り
ATH-AD2000≧HD650≧PROline2500≧DT880≧MDR-SA5000
 この項目はどうしても好みが入ってしまいますが・・・
 材質はHD650、PROline2500、DT880は布製、ATH-AD2000はエクセーヌ、MDR-SA5000は天然皮革です。
 布製の3つは、しっとり感の少ない順です。HD650はフカフカサラサラ、DT880はかなりしっとりしています。
 はっきり言ってどれもかなり肌触りが良いです。無理やり順位をつけましたが、好みのレベルだと思います。

・ずれにくさ
MDR-SA5000≧ATH-AD2000≧HD650>PROline2500≧DT880
 この項目は側圧の強さ、ヘッドバンドの材質、頭部の押さえ方等によって決まります。
 MDR-SA5000はヘッドバンドがネット状になっているため非常にずれにくいです。ATH-AD2000はウイングサポートで頭に圧力がかかるので普通のヘッドバンドのものよりはずれにくいようです。HD650はイヤーパッドとヘッドバンドがかなり滑りにくい材質の上に側圧が強めで頭部への接触範囲も比較的広いためかなりずれにくいです。PROline2500とDT880にしてもそれほどずれやすいわけではありません。実用上どれも問題ないレベルです。

・蒸れにくさ
MDR-SA5000≧DT880≧PROline2500≧HD650≧ATH-AD2000
 この項目はイヤーパッドの材質、ハウジングの密封具合、イヤーパッド内の体積で決まります。どういうわけかイヤーパッドが皮製のMDR-SA5000が最も蒸れにくく感じました。HD650はフカフカの布製なので蒸れると言うよりも直接肌に触れている部分が暑く感じると言う方が正確なのかもしれません。ATH-AD2000はイヤーパッド内の体積がかなり小さいため最も蒸れやすいと感じました。

・イヤーパッドの内周のサイズ
ATH-AD2000:55mm×55mm
DT880:55mm×55mm
HD650:40mm×65mm
MDR-SA5000:45mm×60mm
PROline2500:53mm×53mm
 この項目は耳がイヤーパッドに触れるのが気になる人向けです。
 ATH-AD2000はイヤーパッドの内周のサイズはともかくイヤーパッドが浅いため耳が当たります。それ以外の機種は、耳がまったく触れないか、触れてもごく一部だけだと思います。


 当たり前と言えば当たり前ですが、総合的にはどの機種も音質、装着感ともに使用に堪えるレベルです。あとは聴く音楽のジャンルや好みで評価が分かれると思います。以下に簡単にまとめてみます。

ATH-AD2000:
最も癖のない機種。大きな欠点もなく、なんでもそこそこ鳴らしてくれます。これ一台で何でも聴く人にはかなりおすすめです。
DT880:
ブラス等の高域が非常に美しいです。打ち込み系の音はあまり得意ではないです。ジャズやブラスメインのオーケストラ等を聴く人におすすめです。
HD650:
低音よりで温かみにあふれています。ヴォーカルも艶っぽいです。しっとり系の女性ヴォーカルにはぴったりだと思いますが、弦楽器も非常に美しいので室内楽等もかなり良いと思います。基本的には何でもそこそこは鳴らしてくれます。
MDR-SA5000:
分解能、音場感ともに最高レベルですが、それが魅力的な音楽を聴かせてくれることにつながっていないです。正直、何を聴くにしても他の機種に勝る部分がないように感じます。SONYの音が好きな人にはおすすめですが・・・。それ以外ではモニター的な用途くらいしか使い道がない気がします。
PROline2500:
よほどドンシャリが嫌いな人でなければ、この機種はなんでもノリ良く魅力的に聴かせてくれます。刺激的でしかも温かみにあふれている稀有な機種です。使いどころは色々あります。癖はありますが、2台以上のヘッドホンを使い分ける人にはむしろ好ましいと思います。

 以上、かなり長くなってしまいました・・・
 この価格帯のヘッドホンはあまり気軽に購入できるものではないと思うので、購入を検討している方の参考になれば幸いです。







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