第63回 イヤーパッドの劣化による音の変化

 今回はイヤーパッドの劣化による音の変化のお話です。ヘッドホンのイヤーパッドは数年間も使えばボロボロになってしまうことが多いものですが、その状態の音は正常なイヤーパッドを使用したときとは異なるはずです。とは言え、「イヤーパッドを交換するなら新しいヘッドホンを買う」「交換用のイヤーパッドが入手できないので他のヘッドホンに買い換える」というようなことも多いでしょうし、そうなると音の変化がイヤーパッドの劣化によるものなのかその他の原因によるものなのかはっきりしなかったりします。仮に新しいイヤーパッドを入手して交換しても、漠然と「音が変わった気がする」という程度で使い続ける人がほとんどではないでしょうか。そこで今回は劣化したイヤーパッドを新しいものに交換して、イヤーパッドの劣化による音の違いを見てみたいと思います。
 私の所有しているヘッドホンの中からイヤーパッドの劣化が酷くかつスペアのイヤーパッドがあるものということで、SP-K300をサンプルとして選びました。SP-K300は以前不定期コラム第56回で経年劣化を題材にしたときにも取り上げましたが、その後更に若干劣化が進んだような印象です(上が購入から約6年経って劣化したもの、下が新品)。
 測定項目は周波数特性のみです。本当はCSD等含めて古いイヤーパッドを再度取り付けて交互に何度か測定しようかとも考えたのですが、イヤーパッドの劣化が酷く再度取り付けることが不可能だったので断念しました。写真でL側の方が劣化が酷いのは、再度取り付けようと試みて損傷したためです(測定時はほぼR側と同程度の劣化状態でした)。目で見える劣化だけでなく、強度も相当落ちていることが分かります。
 測定に使用した機器は、ECM8000とFastTrackProです。測定誤差をなるべく小さくして音量の変化まで含めた個体差を見られるようにするため、ヘッドホン端子とマイク端子のボリューム位置は固定し、ヘッドホンのみをセットしなおす形で測定を行いました。なお、測定精度を上げるために普段と異なる方法で測定していますので、いつもの周波数特性の測定結果とは単純に比較することはできません。
 それでは、結果を見ていきたいと思います。





 上がL側、下がR側で、赤が新しいイヤーパッドを使用したもの、青が劣化したイヤーパッドを使用したものになります(本体はもちろん同じ物を使用しています)。見てのとおり、LRともに劣化したイヤーパッドを使用したものの方が低域の量が全体的に少なくなっています。差は最大で約10dBほどです。これくらいの差があれば、実際に音を鳴らして聴き比べてみれば誰でも分かるレベルだと思います。低域の量が少なくなっている原因は、イヤーパッドが劣化したためにきちんと密封できなくなったことだと思われます。
 細かいところまで見ると、新品の方が4kHz前後が少なく10kHz前後が多いといった違いもあります。これは耳で聴くと新品の方が中域がうわずったりせず落ち着いた音色で、高域は細く尖っているように感じる傾向です。低域ほどではないにしても、しっかり聴けば分かるのではないかと思います。
 一応、この結果を新・旧別にも見てみます。





 若干の違いはありますが、新・旧の違いに比べればかなり小さいです。測定誤差にしろ左右ユニットの個体差にしろ、これくらいの差はあると思います。

 当たり前かもしれませんが、今回の測定でイヤーパッドの劣化により音が変わることが確認できました。今回はイヤーパッドがかなりボロボロになっているものを測定したとは言え新品との測定結果の違いがかなり大きかったので、ここまで劣化していないイヤーパッドでも耳で聴いて分かるくらいの違いが出ることもあるかもしれません。
 イヤーパッドが劣化した状態の音の方が好みに合うということもありえますが、新品の音あるいはメーカーが想定している音を求めるのであれば、イヤーパッドが劣化してきたら交換することをお勧めします。
 また、今回は密閉型でしたが、開放型では元々密封されない構造なのでもっと違いが小さいのではないかと思います。手持ちに適当な開放型(イヤーパッドがある程度劣化していてかつ交換用のイヤーパッドが入手可能なもの)がなかったので今回は見送りましたが、数年経ってそういうものが出てきたらまたやってみても良いかもしれません。
 簡単ですが、今回はこの辺で。







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