第49回 イヤーパッドの交換と音質の変化 3回目

 今回は、不定期コラム第41回、44回で取り上げたイヤーパッドの交換と音質の変化の3回目です。今回はedition7HFI-780に絞って少し詳しく見てみたいと思います。他に私の手持ちの中でedition7、HFI-780とイヤーパッドが交換可能なものは、dj1001、HFI-650、PC-100、SK PRO等がありますが、あまり数が多くても煩雑で分かりにくいですし、また次の機会(あれば、の話ですが)にしたいと思います。今回は特にedition7とHFI-780双方の音質変化を見たいので。
 測定はこれまでと同様の方法です。まず初めにオリジナルのイヤーパッドを装着した状態で通常どおり1kHzが-40dBになるように測定した後、イヤーパッドを他機種のものに交換してボリューム固定のまま測定を行いました。また、イヤーパッドの交換およびセッティングには細心の注意を払いましたが、ヘッドホンを一度測定装置から外す必要があるため、どうしても誤差が増えます。セッティング方法をいくつもの点について固定することにより誤差は小さくなりましたが、測定結果は誤差を含んでいることを念頭に置いて下さい。


 写真は左がedition7、右がHFI-780です。
 イヤーパッドの材質は、edition7がエチオピアン・シープスキン、HFI-780がレザータイプの人工皮革です。サイズはほとんど同じですが、内側は縦・横・深さすべてわずかにHFI-780の方が大きく、つまりイヤーパッド内の空間が広いです(個体差や経年劣化かもしれませんが、それにしてはやや差が大きいと思います)。edition7はイヤーパッドにフィルターが一体化しておらず、本体の方に貼り付けてあります。HFI-780はイヤーパッドにフィルターが一体化しており、本体の方はイヤーパッドを外すと剥き出しです。今回のイヤーパッドの交換はこのままで行いました。したがって、edition7にHFI-780のイヤーパッドを装着したときにはフィルターが二重になっており、HFI-780にedition7のイヤーパッドを装着したときにはフィルターがない状態です。実際に耳で聴いたときには音質に多少の影響はあるでしょうが、測定上はあまり影響はないと思います(フィルターはどちらもかなり薄めで音が通りやすそうなので)。フィルターの材質や厚さは大差ありませんが、どちらかと言えばHFI-780の方が薄いようにも感じます。
 ちなみに、重量はedition7のものが片側12g、HFI-780が9gです。edition7の方が中身がぎっしり詰まっているような感じで重そうだと予想していたのですが、思ったとおりでした。HFI-780の方がフィルターがついているぶん重くても良さそうなものですが、薄いので影響はほとんどないようです。価格はそれぞれ16800円、2100円(ペア、Timelord Direct価格)です。ちなみに、edition7とedition9のイヤーパッドは、材質や外観はほとんど同じに見えますが、一応型番としては別物になっています。
 折角ですのでイヤーパッドを外した状態の写真も載せておきます。edition7はフィルターで良く分かりませんが、角度を変えて透かしたりして良く見てみると、プレートの穴の開け方はHFI-780とほとんど同じです。良く見比べてみましたが、違いはないように感じました。


a.本体固定でイヤーパッドによる違いを考察
 オリジナルのイヤーパッドを装着したものを比較ベースに、イヤーパッドの交換による変化を見やすいように測定結果をまとめてみました。
イヤーパッド
edition7 HFI-780
本体 edition7
HFI-780
 どちらもあまり大きな変化はありません。HFI-780のイヤーパッドをedition7のものに変えるとやや低域が減っているようですが、値としては1〜3dB程度であり、測定誤差かどうか微妙なところです(ただ測定するだけならともかく、イヤーパッドを付け替えているため、その微妙な装着具合で測定結果が意外と大きく変動します)。edition7のイヤーパッドをHFI-780のものに変えたときの変化は測定誤差範囲内だと思います。5kHz前後がやや隆起しているのが気になりますが・・・・・・

b.イヤーパッド固定で本体による違いを考察
 aとは逆に、イヤーパッドを比較ベースにして、本体による違いが見やすいようにまとめました。
本体
edition7 HFI-780
イヤーパッド edition7
HFI-780
 aとは違い、かなり明確な変化があります。
 edition7のイヤーパッドを固定して本体をedition7からHFI-780に変えると、200Hz前後が大幅に減衰し、3kHz前後が隆起する代わり6kHzから10kHzが減衰します。また、2kHz前後に微妙な凹凸が現れます。
 逆に、HFI-780のイヤーパッドを固定して本体をHFI-780からedition7に変えると、200Hz前後の凹みがなくなってほぼ平らになり、3kHz前後が減衰する代わり5kHzから9kHzが減衰します。また、2kHz前後の微妙な凹凸がなくなります(これは凹凸が小さくなって3kHz前後にシフトしたと考えたほうが良いのかもしれませんが)。

 これらの結果から、edition7とHFI-780の音の違いは、(少なくとも周波数特性のグラフだけ見ると)イヤーパッドによるものよりも本体側によるものが大きいと言えます。特に、edition7の中低域のフラットさやHFI-780の中低域の大きな減衰は特徴的なのですが、これはイヤーパッドによるものではなく本体によるものだと分かります。中域はedition7と比べてHFI-780の方がやや高く感じるのですが、これは本体の3kHz前後の違いが出ているものと考えられます(このあたりの説明が良く分からない方は、不定期コラム第36回をご覧下さい)。


 次に、edition7(HFI-780パッド)とHFI-780(edition7パッド)を並べて実際の音を聴いて比較したときの違いを比較メモ形式で述べます。

・edition7(HFI-780パッド)とHFI-780(edition7パッド)の比較
どちらもややドンシャリ。低域は、全体的な量はさほど変わらないが、質的には違いがある。所謂重低音はHFI-780(edition7パッド)の方がしっかり出るが、中低域はedition7(HFI-780パッド)の方がしっかり出る。この質的な違いのため、ソースや聴く人によってはHFI-780(edition7パッド)の方がかなり低音の量が多いように感じるかもしれない。中域は、HFI-780(edition7パッド)の方が中低域から中域にかけても減衰している上、やや高い音ではっきり聴こえてくるが、あまり大きな差ではない。高域はedition7(HFI-780パッド)の方が金属的、HFI-780(edition7パッド)の方が線が細い。分解能はedition7(HFI-780パッド)の方がやや上。音の分離はさほど差を感じないが、一つ一つの音の微細な描写で勝っている。音場感はedition7(HFI-780パッド)の方が広い。原音忠実性はedition7(HFI-780パッド)の方が上。周波数特性上の癖のなさで勝っているし、原音の実体感が感じられる度合いが違う。ただ、原音の粗や生っぽさが感じられる度合いには大きな差はない。エッジのきつさや聴き疲れはほぼ同レベル。明瞭さはほぼ同レベル、音の鮮やかさはedition7(HFI-780パッド)の方がやや上。厚みはedition7(HFI-780パッド)の方がある。温かみ、ヴォーカルの艶っぽさはedition7(HFI-780パッド)の方がやや上。どちらもノリが良い傾向。どちらが良いかはソースや好みで変わってくるだろう。迫力のある重低音を求めるならHFI-780(edition7パッド)の方が良いだろうが、そうでなければedition7(HFI-780パッド)の方が良いと感じることが多そう。響きはほぼ同レベルだが、どちらかと言えばedition7(HFI-780パッド)の方が豊か。弦楽器はedition7(HFI-780パッド)の方が繊細かつ心地よい。金管楽器はHFI-780(edition7パッド)の方が明るいことは明るいが、edition7(HFI-780パッド)の方が力強さや細かい表現で勝っている。打ち込み系の音の表現は大きな差はないが、中低域がしっかり出ることと音の厚みがあることからedition7(HFI-780パッド)の方がややうまいように感じる。使い分けるなら、基本的にはedition7(HFI-780パッド)、重低音や線の細い高域を好むならHFI-780(edition7パッド)。


 デフォルトのedition7とHFI-780の比較メモも一応転載しておきます。

・edition7とHFI-780の比較
どちらもややドンシャリ。低域はedition7の方がローエンドまで素直に出る感じ。HFI-780の方が中低域が凹んでいて100Hz以下が妙に目立つ感じ。全体的な低域の量はedition7の方が多いが、100Hz以下はほぼ同量。中域は、HFI-780の方が中低域から中域にかけても減衰している上、やや高い音ではっきり聴こえてくる。高域は質的にも量的にもそれなりに似ているが、HFI-780の方が細くて明るい鳴らし方。分解能はedition7の方がやや上。音の分離はさほど差を感じないが、一つ一つの音の微細な描写で勝っている。音場感はHFI-780の方が広いが、明確さという意味ではさほど差を感じない。HFI-780はedition7と比べると空間の広さの割に音が足りていないような印象を受ける。原音忠実性はedition7の方が上。周波数特性上の癖のなさで勝っているし、原音の実体感が感じられる度合いが違う。ただ、原音の粗や生っぽさが感じられる度合いには大きな差はない。エッジのきつさや聴き疲れはほぼ同レベル。明瞭さはHFI-780の方がやや上、音の鮮やかさはedition7の方がやや上。厚みはedition7の方がある。温かみ、ヴォーカルの艶っぽさはedition7の方が上。どちらもノリが良い傾向だが、edition7の方が迫力や力強さがあり、HFI-780の方が明るく軽快。響きはほぼ同レベルだが、どちらかと言えばedition7の方が豊か。HFI-780の方が硬くタイト。HFI-780はedition7と比べて、中低域が減衰していること、音場の広さの割に音が足りてないように感じること、厚みが薄いこと等の理由からスカスカな音に感じる。弦楽器はedition7の方が繊細かつ心地よい。金管楽器はHFI-780の方が明るいことは明るいが、edition7の方が力強さや細かい表現で勝っている。打ち込み系の音の表現は微妙。edition7の方が厚みや低域の量感で勝っているが、HFI-780の方がスッキリしていて明るいのでそれを好む人もいるだろう。使い分けるなら、基本的にはedition7、音場の広さや明瞭さを重視するならHFI-780。


 edition7とedition7(HFI-780パッド)の違い、HFI-780とHFI-780(edition7パッド)の違いは、上記の比較のように並べてしっかり聴き比べることができませんので、簡単に触れるにとどめておきます。
 edition7(HFI-780パッド)はedition7と比べると、音場が広くなって空間が音で満たされている感じが減ります。とは言えHFI-780のようにスカスカに感じるほどではありません。また、低域がやや控え目になります。
 HFI-780(edition7パッド)はHFI-780と比べると、音場が狭くなって空間の広さの割に音が足りないような感じがやや低減されます。また、デフォルトのイヤーパッドでは妙な低域の圧力で疲れる感じがありましたが、その感じがかなり減ります。中低域が凹んでいるのは変わりませんが、その凹みがやや気にならない傾向になり、edition7のようなややどっしりした低域になります。
 また、一概には言えませんが、トータルとして見たときに両機にデフォルトのイヤーパッドを使用したときよりも交換したときの方が差が小さい気がします。
 なお、イヤーパッドを交換したときの音は、どちらもどこか違和感があるように思います。これはデフォルトのイヤーパッドの音に慣れていることも一因でしょうが、それだけではないような気もします。edition7はデフォルトのイヤーパッドの方が低域がしっかり出て安定感がありますし、HFI-780はデフォルトよりもずっしりした重低音と細い高域がアンバランスさを感じさせるあたりが原因かもしれません。


 今回の結果をまとめると、イヤーパッドはedition7の方が音場が狭く、低域(特に重低音)がしっかりしています。本体は違いが多く、基本的にはedition7とHFI-780の違いの多くは本体によるものと考えて差し支えないと思います。
 個人的には、edition7のイヤーパッドを使用すればHFI-780の中低域の減衰が多少なりともおさまるかと思っていたのですが、結果はそうはなりませんでした。ただ、実際の音を聴くと多少なりともedition7の低域に近づいたような印象を受けます。そうは言っても2万5千円のHFI-780に1万6千円のedition7のイヤーパッドを使う価値があるかは微妙ですが・・・・・・ 私としては、むしろedition7にHFI-780を使った方が価値があるように感じます。そのあたりは好みもあると思いますので、今回の内容を参考にしてみてください。







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