第45回 HD-1L Limited Edition(RC1)のヒューズ交換

 今回は、巷で「電源ケーブルよりも音質への影響が大きい(こともある)」と話題のヒューズの交換を試してみました。
 使用する機器はHD-1L Limited Edition(RC1)です。これを選んだ理由としては、比較的所有者が多いと思われること、所有者の方々に「音質改善のためにヒューズの交換を試してみても良い」と考える人が多そうなこと、本体のケースを開かなくてもヒューズが交換できる上に一つだけしかヒューズを使用していないため交換が楽で効果が見やすいこと、等があります。



○ヒューズについて
 本題に入る前に、ヒューズについて簡単にまとめておきたいと思います。
 ヒューズは過電流から機器を守るための保護部品で、ヒューズの容量以上の電流が流れたときに、ヒューズ内部の結線が切れて断線するようになっています。それによって機器に過電流が流れないようになっているわけです。ヒューズには色々種類がありますが、基本的には下記の3つのポイントがあります。

・容量
 何アンペア以上の電流が流れるとヒューズが切れるか、という値です。オーディオ機器では0.1A〜30Aくらいの幅があるようですが、普通は数A以下だと思います。オリジナルと同じものがない場合、+0.5Aくらいなら問題ないようです。

・サイズ
 標準サイズ(6×31.8mm)とミゼットサイズ(5×20mm)の2種類があります。

・切断のタイプ
 過剰な電流が流れた場合の切断の仕方です。ファーストブローは過電流が流れた瞬間に切断されるのに対して、スローブローは過電流が長く続いた場合に切断されます。多くの場合、ファーストブローはF○A、スローブローはT○Aとヒューズの金具部分に刻印してあるようです。また、ヒューズに表示が無い場合はプリント基板に記入してある機種もあるようです。

 交換用のヒューズを入手する場合、上記の3つのポイントを知っておく必要があります。また、ヒューズは重要な保安部品で、誤った方法で使用すると機器を損壊するだけでなく火災等の原因になりますので、交換は慎重に行う必要があります。


○HD-1L Limited Edition(RC1)のヒューズ確認
 HD-1L Limited Edition(RC1)のヒューズはACインレットのところに配置されていて、本体を開かなくてもヒューズだけを取り外せます。素手で開けるには少し固いので、マイナスドライバー等を差し込んで開けます。
 現物を見てみると、容量1A、サイズ5×20mm(ミゼットサイズ)、スローブローでした。が、スローブローは表示が分かりにくく、自信がなかったためIntercityに問い合わせたところ、下記のようなヒューズを使用していると回答がありました。

LITTELFUSE社 0215001.HXP Time Lag Fuse(Slo-Blo Fuse)
セラミック封入、緩慢(スローブロー)タイプ

 これは音質的要素から選んでいるとのことで、この時点でヒューズ交換による音質改善はあまり期待できないかもしれないと予想されました。
 また、HD-1L Limited Edition(RC1)のヒューズは250V用を使用するようにACインレットに書いてあります。ヒューズには125V用と250V用がありますが、当然国内製品のほとんどは125Vであり、ヒューズの仕様を見ても電圧は書いていないことが多いです。ただ、ヒューズ本体には普通表示があります。


○今回使用したヒューズ
 さて、今回実際に使用した交換用ヒューズですが、1A、ミゼットサイズ、スローブローのものが販売されているものを調べて、下記のものを入手しました。

・ISOCLEAN POWER
 オーディオ用ヒューズとして最も有名なようです。どうもスローブローしかないらしく、交換したいヒューズがファストブローの場合にはその時点でアウトです(スローブローをファストブローに交換することは一応可能ですが、逆にファストブローをスローブローに交換するのは危険です)。金メッキが施してあるのが特徴です。
 今回使用するのはスローブローなので問題ありません。現物を見ると、電圧は125Vと250V両方の表示があります。
 DYNA秋葉原トレードセンター(4F)にて2880円で購入しました。ダイナミックオーディオ5555(1F)でも取り扱っていて基本的には常備しているそうなのですが、運悪く品切れで、向かいのDYNA秋葉原トレードセンター(4F)でも取り扱っていると教えてもらいました。

・コバルトジルコンヒューズ
 Cosmo Villageオリジナルのヒューズのようです。ジルコン入りで、パラジウムコバルトメッキが施してあるのが特徴です。250Vと表示されています。
 秋葉原のエンゼル・ポケットにて2646円で購入しました。

・スーパークライオピュアヒューズ
 オーディオ好きにはおなじみ、クライオ処理のヒューズです。セラミック管ヒューズをスーパークライオ処理したものです。以前はクライオピュアヒューズというものを販売していましたが、今はスーパークライオにバージョンアップしているため、生産終了で在庫限りの販売となっています。250Vと表示されています。
 オーディオショップ リラクシンにて1700円で購入しました。

 左から、デフォルト、ISOCLEAN POWER、コバルトジルコンヒューズ、スーパークライオピュアヒューズです。ISOCLEAN POWERのものだけ両端の金属部が金メッキで、しかも管の部分も他のヒューズとは違います。また、コバルトジルコンヒューズは管の部分の白さがデフォルトのものとスーパークライオピュアヒューズと比べて漂白したような色合いです。
 他にもGアポロプロQヒューズSBFオーディオ用ヒューズ等があるようですが、今回使いたい仕様のものが入手できないようでしたので見送りました。


○結果
 さて、ようやく交換してみて感じた音の変化について述べます。

・ISOCLEAN POWER
 劇的とは言えないかもしれませんが、ある程度の変化があります。
 曇りが晴れて明瞭になります。そのせいか情報量が増えてこれまで聴こえてこなかった音が聴こえてくるように感じます。鮮度が上がって瑞々しくなったように感じます。
 高域が澄んでキラキラと輝くようです。それでいて全音域に渡って自然でとても伸び伸びと音楽を奏でてくれます。粗がなくなり、音が滑らかに繋がるようになります。付帯音が若干少なくなり、より澄んだ音になります。その結果ヴォーカルのサ行の痛さや余計なエッジのきつさが低減されます。
 良いことばかりのようですが、低域の量感や刺激的な鳴りを求めている人には合わない気がします。

・コバルトジルコンヒューズ
 ISOCLEAN POWERほど変化が大きくないように感じます。正直、デフォルトのものとほとんど差を感じません。何となく違うというレベルです。デフォルトの方が若干音場が広く、音が締まっているように感じます。

・スーパークライオピュアヒューズ
 輪郭が明瞭になり分離が良くなったように感じます。見晴らしの良さが際立っています。全体的に硬質で、HD-1L Limited Edition(RC1)らしい温かみや艶っぽさが減少します。
 中高域から高域の余分な贅肉が削ぎ落とされて、より鮮明になります。低域はやや締まる方向です。男性ヴォーカル等の中域はやや高い音になるように感じますが、これは低域の曇りが晴れて音が締まるためにそう感じられる部分が大きそうです。
 ISOCLEAN POWERと違い、音が滑らかに繋がるようになったり付帯音が減ったりすることはありません。澄んだ音になるという点は似ていますが、ISOCLEAN POWERが清流のような澄み方だとすると、スーパークライオピュアヒューズは水晶のような澄み方です。



 ちなみにヒューズの向きですが、ISOCLEAN POWERのヒューズのみ電流の向きが表示してありましたが、逆にしても音の傾向はそれほど変わらないように感じました。他のヒューズには電流の向きの表示がありませんでしたが、一応大きな音の変化がないことを確認した上で、電圧の表示が右側になるように方向を合わせました。
 また、ヒューズには寿命があり、使用時間によって音も変化するようです。一応エージングを行いましたが、デフォルトのもののみ使用時間が長く、その影響までは考慮に入れていません。したがって、購入したばかりの状態で比較するとまた違った結果になるかもしれません。

 今回は3本のヒューズを試してみましたが、どれも一部で言われているような劇的な変化はなかったように思います。これは、HD-1L Limited Edition(RC1)のヒューズが元々音質面を考慮して選ばれたものであることが原因かもしれません。ただ、電源ケーブルやラインケーブルによる音の変化と比べて極端に小さいということはないと思います。音の最後の詰めや微調整には使えると思います。音の変化の大きさとしては、ISOCLEAN POWER≧スーパークライオピュアヒューズ>コバルトジルコンヒューズのように感じます。
 色々と書きましたが、ヒューズの違いによる音の変化は、例えばヘッドホンの機種の違いによる音の変化と比べると極めて小さく、かなりフィーリングに頼った内容です。参考程度にしてください。
 個人的には、ISOCLEAN POWERのものがHD-1L Limited Edition(RC1)の良さを最も引き出してくれるように感じました。

 最後に念をおしておきますが、ヒューズは重要な保安部品で、間違って交換すると危険です。交換は自己責任で、慎重にお願いします。







戻る





TOP > 不定期コラム > 第45回